俺は今、生徒会室の前に居る。
手には菓子の入った袋を持って……しかし、本来ならドアノブへ引っ掛けて行く所を、今日は止めた。
ううん、今日だけじゃない……これからもずっと、止めにするんだ。
副会長の視線に期待を見出し、仲良くなれるかもと様子を見て来たが、流石に潮時か。
クラスメートと打ち解けた今、超然イケメンと親交を深めようなんて、贅沢が過ぎた。
「じゃあな、生徒会……副会長。」
扉をそっと、手の平で撫で、俺は踵を返した。
――――――――――
「ちょっと、そこのアナタ!!」
菓子を焼かなくなって数日、副会長の視線も、無視する事に慣れた頃、俺は突然、副会長に声をかけられ、そのまま空き教室に連れ込まれた。
「はっ、えっ?!何事ですか?!」
「…………それはこちらの台詞です!!!!」
混乱する俺を余所に、副会長は眉を寄せ、辛そうに話し始めた。
「何で……お菓子を届けてくれないのですか?僕がアナタに、礼を言わないから?愛想尽きましたか?……僕は、アナタが届けてくれるお菓子をお茶請けにして、紅茶を飲むのが毎日の楽しみでした。何度もその礼を言おうと、お茶にも誘ってみようと……けど、プライドと羞恥が邪魔をして、行動に移せなかった。」
「っ……副会長。」
「こんな僕に、もう2度とアナタのお菓子は焼いてもらえないのでしょうか?」
冷めた表情でいる事の多い副会長が、今にも泣き出しそうな顔で俺を見ている。
その事が無性にたまらなくなって、俺は副会長を抱き締めた。
「そんな事無いです、副会長!!俺はいつでも、菓子を焼きますよ!」
――――――――――
無駄に豪華な生徒会室。
そこにあるソファーへ腰掛け、俺と副会長はささやかなティータイムを楽しむ。
「今日もアナタのお菓子は最高です。どうもありがとう。」
「副会長の淹れてくれた紅茶だって最高ですよ?」
こうして互いに笑い合う事が、俺達2人の日課になった。
◎END
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