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メガシンカ *


カルネさんは条件を満たしていないというが、その条件は口では説明しづらいというより、見たほうが早いものなのだろうか。
荷物を持って先ほどの小屋を出たのだが、何か特別な場所へ行くのかと思っていたのに「ここでいいわ」と止まった場所はなんの変哲も無い牧場の一角だった。


「じゃあハンナ、リザードンと私のサーナイトの1対1でバトルしましょう。勝ち負けは問わずに、説明が終わったらバトルは終わり。あまり次のスケジュールにや関係者達を待たせないために。いいかしら?」
「もちろんです」

すでにフィールドにはカルネさんのサーナイトが出てきている。特に見た目変わった様子はなかった。ハッタリでないことを願って、先手のドラゴンクローがサーナイトの足元の地面を抉った。咄嗟に交わしたサーナイトの、首から下げている小さな石が気になった。進化の輝石というわけでもなさそうだ。カルネさんの言っていた条件に関係があるとしたらまずあの石だろう。

「そのサーナイトの石が何か関係があるんですか?」
「その通りよ。この石はサーナイト専用の石。個々のポケモン専用の石があるかないかで進化できるかできないかが決まるの。もっとも、その石の数自体とても希少なものだから本当に限定されるポケモンだけが進化できるんだけど」


カルネさんがメガストーンを掲げた瞬間、サーナイトとサーナイトの持っていた石に変化が起きた。
思わず目を瞑ってしまうような光がサーナイトを覆っていき、包んだ光が弾けて、それは出現した。



「・・・・・」

あまりの眩しさにチカチカする視界。だけど、この目でハッキリと見た。本当に、姿が変わってしまった。言葉が出なかった。確かにそれは、サーナイトの面影の残る姿で、膨らんだスカート状の部分のせいか花嫁のドレスを思わせた。


「信じてくれたかしら?」
カルネさんは言う。
「あなたの聞きたかがってた条件っていうのはね、私やあなたの持つキーストーンとサーナイトに持たせてるサーナイトナイトのメガシンカの共鳴なの」
「じゃあリザードンが進化しなかったのは、メガストーンがなかったから共鳴ができなかったってことですか?」
「さすが飲み込みが早いのね。そういうこと」
「じゃあ、もし仮に私のキーストーンとカルネさんのサーナイトが共鳴して進化…ということが可能っていうことですか?」
「それはわからないわ。でも基本的にないと思う。共鳴できるかできないかは絆が必要不可欠って聞いたことあるからそれは難しいと思うけど」

そういうことならデータ不十分と言われたのも少しは頷けるかもしれない。なつきは目に見えるが、絆は目に見えないし、簡単にできるものじゃない。進化の石は誰でも簡単に進化させることができるが、メガシンカはそうでない条件がついているのと、石の希少さからなかなかデータが集まらなかったのかもしれない。でもひとつ気になることがある。

「ひとつ…ちがうな、ふたつほどいいですか?」
「どうぞ?」
「そのサーナイト、進化の仕方が普通と少し違いますよね。体型が大きく変わるわけじゃない…一部の強化って感じがしますけど、原型が残りすぎっていうか」
「そうね。メガシンカっていうけど、これは一時的に姿と能力が上がるものだから、ずっとこのままっていうわけじゃないの。戦いが終われば元のサーナイトに戻るわ」


その話だと、メガシンカは普通の進化のような「永久的にもう前の姿には戻らない身体変化」じゃなくて、「半永久的な身体変化」ということになる。

「そのキーストーンとメガストーンってなにからできてるんですか?共鳴しなきゃ力を発揮しないってことはもともとひとつのものだったんじゃないかって私は思うんですけど、だったらその元々の物質はなんなんだろうと思って。」
なるほど、とカルネさんが頷いた。しかしその顔もすぐに曇り始め、ハンナの望む答えは返ってこなかった。


「…悪いけど、私もそこまで詳しいわけじゃないの。偉そうなことばかり言っていたけど、それだけは私にもわからないのよ」
「…そうですか」
「でもね、それを答えられるんじゃないかと思い当たる人ならいるわ。ハンナ、次の目的地は決まってる?」
「いや、まだ全然決めてないです」
「だったらミアレシティかシャラシティに向かったらその質問に答えてくれる人がいると思うわ」
「ミアレシティとシャラシティ、ですか?」
「ミアレシティにはプラターヌ博士のポケモン研究所があるし、シャラシティは目覚めの町って言われていてそこにはマスタータワーっていうメガシンカに深く関わってる塔があるの。聖地みたいなものね。でもまずハンナはプラターヌ研究所に行ったほうがいいかもしれないわね。ヒトツキの件もあったし、まずはこの地方のポケモンを知ることから入ったほうがよさそう。あなたちょっと危なっかしいもの…せっかくバトルしようってなったところ悪いけど、お楽しみは後に取っておくことにするわ。さっきから着信音が鳴ってるの。また会う時に強くなったハンナとバトルしたいと思ったから」

こちらにとっても大きな、充分すぎるほどの収穫はあった。
ヒトツキが仲間になり、女優としてのカルネさんに出会い、チャンピオンとしてのカルネさんとも出会い、メガシンカの確証をこの目で見て、疑問点も見つけて、次の目指すべき場所を示してくれた。

「また会いましょう」と、元の姿に戻ったサーナイトをボールへと帰し、カルネさんは牧場を後にして行ってしまった。その後ろ姿に、「ありがとうございます」と一言。


カロスの第一歩は、ハンナにとっての新しい第一歩になろうとしていた。



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