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腕輪の秘密 *


「あら、びっくりさせちゃったかしら?そんなお化けを見るような目で見ないで」

フフ、と口元を抑えて笑うカルネさんを呆気にとられながらただ呆然と見ていたが、さらに追い討ちをかけるような一言が飛んできた。


「それにね?私の知り合いにプラターヌっていう博士がいるんだけど、あなたの話を少しだけ聞いてたから私もびっくりしたのよ?トレーナーをしながら研究者もしてどちらも高みを目指している…私とお揃いね。両立って大変でしょう?私もチャンピオンと女優の両立は結構大変なのよ」
「確かにどっちかに偏りすぎてもダメだし難しいですけど…ていうかプラターヌ博士ってカロス地方の方だったんですか?!」
「そうよ。初心者へのポケモンの受け渡し役にもなってるの」


『プラターヌ博士』。懐かしい名前を聞いた。
だいぶ前に私が書いた論文への意見が来たのだが、それがどことなく見た目がラブレターに見えてシゲルに誤解された思い出がある。
進化の研究者ではあるが、一部では色男の博士と言われているという話も小耳に挟んだ記憶がある。


「ちょっといいかしら」
「え?はい」
「さっきから気になったんだけど、ハンナのその腕につけてるリングはどこで手に入れたの?」
「これですか?これはナナカマド博士からもらったんです」
「そう、さっきの戦闘やボールを見てもリザードンとは相当長い付き合いみたいね。文句なしの強さだった。ハンナはその石がなんなのか知ってる?」

そう言ったカルネさんはおもむろに鞄からあるものを出した。
ペンダントだとわかるそれは、華奢なチェーンにペンダントトップには見覚えのある石がはめ込まれている。

「それってこの腕輪についてるのと同じ石…?」
「ええ、同じものよ。仕事中は使わないからカバンにしまってるわ。これを使うのは主にバトルの時ね。キーストーンっていう特別な石なの」
「キーストーン…」
「ハンナは進化について調べてるって言ったけど、そのリザードンもまた更に進化できる可能性を秘めてるって聞いたことあるかしら」
「ナナカマド博士からちらっとだけ聞いたことはありますけど…それってデマじゃなかったですっけ?確証するだけのデータがなくてあまり話題にならなかったって聞きましたが…」
「本当よ。デマじゃないの」

カルネさんの目が、真っ直ぐにハンナを捕らえている。
とても冗談を言っているようには見えなくて、でもリザードンがこれ以上進化するというのはどうも信じがたかった。

「でも、リザードンにこの石を近づけても、進化なんてしていませんよ?」
「当然。条件が揃っていないもの」
「…?条件って、レベルですか?環境ですか?他にも必要なものがいるとか?なつき度?時間帯?四六時中一緒にいるのに」

腕を組んで考え始めたハンナに、カルネが立ち上がった。
いつの間にか時間は夕方で、すっかり空は夕日で赤く染まって部屋までその光が差し込んでいる。あの女の子も、食べ終わったおかゆの皿も片付いていたのを見ると随分話し込んでしまったようだ。





「百聞は一見にしかずっていうわ。いらっしゃい、ハンナ。特別にあなたのために時間を割いてあげる」


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