xy

vsコルニ_02


 波導弾がひっきりなしにリザードンに襲いかかる。
 ギリギリまで引きつけたリザードンは長い尾を地面に叩きつけて体ごと反転。すれ違いざまに地面で炸裂した波導弾の爆風に乗って上昇し、フィールドを見下ろした。

 その様子をハンナは横目で見てルカリオへ視線を戻した。
 既に姿は通常のルカリオとは異なる、異形の姿。
 ただの進化とは違う、メガシンカと云われる飛躍的な力の解放。
 砂埃を被ろうが技の流れ弾が飛んでこようがお構いなしに目に焼き付けていた。
 「メガルカリオの戦闘を記録したい」というハンナの無理な我が儘にとことん付き合うリザードンはよくやってくれている。


(大体特徴は掴めてきたかもしれない)

 回避に徹したお陰でほとんどノーダメージで情報が脳に刻まれていく。
 充分過ぎるほどの情報量に感謝しつつ、了承を得たにしてもそろそろ怒号が飛んできそうなほどに目を吊り上げたコルニの視線が痛い。
 いくら了承を得たとしても、やはり性格が出てしまう。コルニが期待したような激しいバトルとは程遠い退屈で一方的なターンが続いてしまった。少しマイペースにやり過ぎたかと反省しつつ、歯が見えるほどに笑みを浮かべる。
 コルニがお望みの、猛攻を仕掛けようじゃないか。



「そろそろかな。追い風」



「リザードンは追い風を覚えたのか…」
 ギャラリーでサトシが呟くと、シトロンが続いて言った。
「前は覚えてなかったんですか?」
「うん。腹太鼓で攻撃力をグーンと上げてからのフレアドライブが最高!って言ってたし実際迫力あったんだよな」
「は、腹太鼓にフレアドライブ…!?」
 大袈裟にズレ落ちたメガネをかけ直して、シトロンはハンナとリザードンを再び見る。その様子を見て、セレナが「腹太鼓ってどんな技なの?」と問えば視線をフィールドに刺したままのシトロンが答えた。

「自分の体力を半分削る代わりに、最大限の攻撃力を発揮させるハイリスクハイリターンな技ですよ。ただその状態で自分にもダメージが入るフレアドライブをやるなんて正気じゃないです…一撃必殺並のダメージは入りますが下手をすれば自滅しますよ!一体どんな化物を倒すつもりなんですかハンナさんは…?」

「……!」
「サトシ…?どうかしたの?」

 思い当たる節の有りすぎる一言。イッシュで出会ったその時から、あるいはシンオウで出会ったよりずっと前から意識していたんだろうか。高すぎる壁を壊す算段を。
 「そっか」と1人納得した様子で呟けば、セレナもそれ以上追求することもなかった。




 フィールドでは形勢が崩れて拮抗していた。
 追い風で増した素早さが功を成し、炎の塊は避けるだけでは間に合わず、全てを焼き尽くしかねない温度だけでもじわじわとルカリオにダメージを与えていく。一旦距離を置こうとしても、翼を持った相手にはそれがなかなか通じない。



「波導弾!」

 急降下したリザードンの動きを見計らったように波導弾を命中させてくる。だが、ダメージは目立っていない。


 (ダメージが浅い…もしかして受け身に慣れてる?ルカリオと戦い慣れしてる?ハンナ自身妙に熱心にルカリオを観察してるけど、今目の前のルカリオを倒すための算段を練ってる感じでもない)

「グロウパンチ!」
「こっちの速さに目が慣れてきちゃった?フレアドライブで牽制して」


 (ルカリオの攻撃をキッチリ封殺してくるのホンット腹立つ…!)
 グロウパンチが触れる寸でのところでルカリオが飛び退いた。メガシンカで攻撃面の能力は上昇しても、防御面は大して上昇したわけではない。

 (まさか私を通して別のなにかの対策を練ってる…!?)
 度重なる牽制、鬼のような回避。暖簾に腕押しとはこのことかと言わんばかりの決定打の空振り。苛立ちも最高潮まできていた時だった。
 ハンナのメガバングルとリザードンのメガストーンが強烈な閃光を放った。



「いくよリザードン、メガシンカ!」





     ***






 炎に包まれたリザードンと目が合う。
 炎の塊の内側から一際強い光が突き破るように刺すと、猛烈な熱さが辺りを包み込んだ。
 

 アランのリザードンとは違う、肢体の色は見慣れた橙。
 だが前より伸びた尾と、歴戦の傷跡のような朽ちかけの竜の翼に、頭部の目立つ一角。体中の無数のトゲ。
 そしてフィールドに容赦なく注がれる熱い日の光。

 リザードンとハンナが頷く。
 暑い日差しが作り出すリザードンの大きな影が、メガルカリオ目掛けて急降下した。ルカリオは何度目かのグロウパンチで迎え撃つ。繰り出すたびに威力を上げていくその拳がリザードンを捉える寸前、旋回してルカリオの背を取った。
 するとルカリオの拳が急激にパワーを失っていく。固く目を閉じ、蹲る。
 日照りが発生したフィールドに、直上にいたリザードンからの逆光から一転、突然の太陽光の直視はルカリオの動きを完全に封じた。

 リザードンの目はルカリオを捉えたまま。これ以上ない隙に向かって、ルカリオの背に気合玉を叩きつけた。


「ルカリオ!!」
 コルニが声を上げる。
 気合玉は無防備なルカリオの急所を突き、地面から大きくリバウンドして弧を描いた。重力に従って落ちた体は、メガシンカの姿ではなく従来のルカリオの姿。
 目を回し、くたびれた様子。



「ルカリオ戦闘不能、リザードンの勝ち。よって勝者、トキワシティのハンナ!」

- ナノ -