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ホテルヒヨクにて


「さて、リザードンさん。ここでふたつ問題です。」

アズール湾を眺めてしばらくが経った時のことだった。ホテルのチェックインを済ませ、カロス特有のポケモン同伴前提の特色あふれる多彩なカフェを巡っては美味しいものを食べに周り、バトルをして情報を得たり、丘にも上がりヒヨクジムの下調べも済ませた。どうやら現在ヒヨクのジムリーダーは建築の仕事だかで不在のようで、ジムは閉鎖状態だったのだ。ハンナは上陸したばかりだし、カロスのポケモンをまだまだ全く知らない。ヒヨクジムはは草タイプの使い手。リザードンがいるが相手ジムリーダーというれっきとしたエキスパート。勢い余って無知のまま望むのも考えもの。サトシなら普通にやりそうだが。とにかく今はジム戦をしてもしなくてもどちらでも良いと考えてはいたのだが、ここでとある問題が起きた。

「ひとつはシゲルからの着信のオンパレード。」
リザードンの眉間のシワがいつもに増して深くなっているのは十中八九これのせいだ。鳴り止まない着信音にゆっくり休みたいであろうリザードンにとってはうるさくてしかたがなかったのだろう。そんなリザードンを見て「シゲルごめんね」と一礼してからマナーモードへと切り替えるハンナ。

「シゲルびっくりしたんだろうな〜…
まあフィールドワーク行ってる間に私が出ちゃったから無理もないか…でもこれはあとでも問題ないから今夜にでも叱られてあげよう。それよりだよリザードン。」

リザードンの目先鼻先にハンナの顔が近づいた。いつになく真剣な目付きにリザードンが首を後ろに傾ければ、「ちゃんと聞いて」とハンナが傾いた頭を両手で元の位置へ傾ける。
そして次の瞬間、リザードンの目の前に見知らぬ黒髪の女性が表紙の雑誌が現れた。


「これ!見て!リザードン!カロス地方の大女優カルネさん!ヒヨクシティの近くにね!?撮影に来てるんだって!素敵だよね!素敵だよね!?会いたいよね!?でもね!?さっき話を聞いたらこの撮影ロケ地がすぐそこで今まさに撮影してるんだけどね?私のシュバルゴのような足の速さとヌケニンのよう体力じゃ到底間に合いそうにない!でもカルネさんに会いたい!そこでリザードンさん是非私をここまでひとっとびで連れていってくれませんか!!!」


言い終わると同時に頭を深く下げたハンナ。頭を上げれば、炎タイプとは思えない冷ややかな目線をプレゼントされた。なにか言いたげな感じだが、そんなものはいつものことだった。なんだかんだで背を向けて連れていってくれるリザードンへのご褒美を考えながら目的地へと向かった。
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