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再会に勝利を







「くぁ…あ〜今何時だ…?」


 ポケモンセンターの一室。カーテンの隙間から差し込む朝日で目を覚ましてベッドから起き上がる。ここ最近寝覚めがいいなと思いながらボールの数を指差しで確認する。3つ揃ってる。問題ない。
 カーテンを開けるとマスタータワーが目に入る。昨日コルニはゆっくり来なよとは言ったが、どのみちマスタータワーが一番重要な訳だし、ジム戦を待っている間にいろいろと教えてもらえたらそれはそれで美味しい。ジム戦は腕試しや鍛錬の意味も兼ねているわけだから、手に入れた情報を取り入れてメガシンカの実戦投入を試してみようがなんのバチが当たるわけではない。


 朝食を済ましてポケモンセンターを後にすると、足早にマスタータワーへと向かう。急がないと、今はタイミングよく道が海面を割って出ている状態だがさっきより道幅が狭くなりかけている。
 最後の一歩は、水を蹴ってマスタータワーに到達した。来た道はもう海の中で、改めてマスタータワーを見上げる。目の前には長い石の階段が塔へ繋がっていて、中に入るとルカリオの巨大な石像を中心に螺旋階段が天辺まで伸びていた。すると螺旋階段の途中に人がいるのを見つけると、相手もハンナに気づいて降りてくる。
 その人はハンナの名前を聞くやいなや、待ってましたと歓迎した。今ジム戦の最中でコンコンブルさんとコルニさんはジム戦の準備に取り掛かっていると言って、ハンナが連れてこられた場所は普段は鍵で施錠されている書庫だった。どうやらまだジム戦自体は始まっていないようで、チャレンジャー達は昨日からマスタータワーに泊まっていたらしい。
 それにしても、右を向いても左を向いても普段読めないような本ばかりが陳列している。

「こんな大事な本が揃ってる場所に入っていいんですか?」
「大丈夫ですよ。プラターヌ博士や師匠のご友人からお墨付きだと聞きましたし、師匠からもまずはここに通していいと仰ってました」


 そういうことかと納得して入ってみると、少し埃っぽいがそれなりに掃除はされていたようだった。窓を開けて空気を入れ替えながら読もうと窓に向かう途中、気になるタイトルを見つけると、「ジム戦の様子を見てまた呼びに来ますね」と言い残して弟子らしき人は出て行ってしまった。

 もう一度その本のタイトルを見る。
 不思議なこともあるもので、やっぱり一度行ったからといっても知らないことの方が圧倒的に多いんだと知らされる。だがそれと同時に、今その地方に向かっているアランとマノンが心配にもなった。
 ハンナが手に取ったその本のタイトルはホウエンの伝承についてだった。劣化が激しく丁寧に触りながら流し読みをしてみると、明らかにメガシンカについてが書かれていて、挿絵には見覚えのある2体のシルエットに酷似した伝説のポケモンが描かれている。


「ゲンシカイキってこれまたスケールでかいなあ…」

 これが本当かどうかなんて分からないが、火のないところに煙は立たないのだ。
 少し胸騒ぎがするが、カロスにいるハンナにはどうすることもできない。アラン達の無事を祈るだけだ。そのままページを読み進めていくが、ページが抜けてしまっている。レックウザらしきものが書かれていたりもするが、それが一体なんなのかは分からずじまいだった。


「カロスの秩序ォ…?メガシンカとなんの関係があるんだこれ」
 この書庫の本を一通りチェックしていっているが、ラインナップがなかなか謎だった。恐らく、珍しい本はとりあえずこの書庫に入れておこう。ということだったんだろう。

「名前はまだ決めてないが各地に散らばる…緑の物体で?技を使わず自我も意思もないようだがこれをポケモンと呼ぶべきなのか…挿絵がイマイチだな…これノコッチじゃないの?ノコッチも結構レアだから見間違いだよきっと。次!」
「ゼルネアスってパッと見がメブキジカと似てるなあ…、じゃない!メガシンカの本!目的はメガシンカの本!次!」
「100年に一度珍しいメガシンカの例が…あ、こうこう!これだよこういう本探して…」


「ハンナさん、そろそろジム戦が終わりそうなんでフィールドまで案内を…」
「あっはい…」

 数時間かけて読み漁ったが、冊数が多く色んな本がごった煮にされていたこともあり書庫での収穫は思ったより少なかった。しょうがない、と書庫を出ようと窓を閉めようとした瞬間、突然マスタータワーに短い揺れが襲った。揺れというよりは衝撃に近かったが、窓の淵に手を掛けると聞き覚えのある声が外から聞こえてくる。


「うそだぁーーー!!」
「まいっか」
「ソォォーーーナンス!」



 懐かしの後を引く捨て台詞に、シンオウ以来な気がする独特な鳴き声。一匹だけ知らないポケモンだが、シンオウやイッシュ地方では会いすぎて寧ろ嬉しいような嬉しくないような複雑な再会。サトシもこの人達も変わってない。一周回って謎の安心感があった。見晴らしの良い空の彼方に飛んでいくロケット団を遠くまで見て合掌。

「私はなにも聞こえなかった」
「どうかしました?」
「いえ!なにも!さ、フィールドに向かいましょ」


 フィールドは書庫より下の階に位置するらしく、螺旋階段を下るごとに微かだが衝撃音らしきものが聞こえてくる。そして技同士がぶつかったであろう爆発音。続行中のジム戦にお邪魔するため、弟子はその扉を開いてハンナを中へと送り出した。





    *  *  *




「やるねサトシ、ピカチュウ!こっちの技を踏み台にして高く飛ぶなんて!」


 フィールドではサトシとコルニのジム戦が佳境に入っていた。
 メガシンカしたルカリオもピカチュウも両者は肩で息をしている状態で、あと一発どちらかが攻撃を受ければ決着がつくところまで来ている。やる気が満ち溢れているピカチュウに対して、ルカリオの目は闘志が消えないギラついた眼差しをしている。毛並みどころか、特徴である耳の房までもが逆立っている。
 サトシとピカチュウの機転を利かせたかわし方で、コルニも同様にここまで来てまだ高揚してきていた。

 セレナやユリーカが熱心にサトシとピカチュウを応援する横で、シトロンは冷静にバトルを分析しながら観戦していた。
 するとバトルの音を頼りに悠々と歩いてくる背の高い女がフィールドのシトロン達とは反対側のギャラリーにやってきた。それに気づいたシトロンはメガネをかけ直して注意深くその人物を見る。先ほどのロケット団の乱入未遂があったからだった。だがその女は、ロケット団と違ってあまりにも堂々と歩きすぎなのだ。
 目つきのせいだろうか、どことなく人を小馬鹿にしたような余裕の笑みを持った女は観戦ギャラリーの手すりに寄っかかると、びっくりしたようにポカンと口を開けてサトシの姿を見ている。

 遠くがぼやけているが見覚えがあり、何度か会っては最後にまた会おうと言葉を交わしている。
 ユリーカにも良くしてくれていて、自分たちにとっては頼りになればかならない時もある温度差の激しい調子のいい先輩のような不思議な人。



「ハンナさん!?」

 シトロンがようやく記憶と顔のピントがあったその同時にフィールドを覆い尽くした爆風。それによってシトロンの声はかき消された。
 しかし砂埃が消え去ると、フィールドに横たわる姿がひとつ。攻撃に特化されたその姿は本来の元の姿に戻った。



「勝者、マサラタウンのサトシ!」

 

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