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陽炎の姿


「─……っ」

 姿を変化させるリザードンを取り巻いていた、辺りを白一色に染め上げるほどの強い光が弾けた。



「成功…?失敗した…?どっちでもいいけど…」
 光に眩んでリザードンの姿がぼやけて見える。
「リザードンは無事…?」


 第一声は不安を孕んだものだった。鼓動を鎮めるように胸を抑える。激しい熱が発生しているのか、陽炎でぼやける視界の中のリザードンはどこかおかしい部分はなさそうだが、微かに違和感を覚える。砂埃の向こうでリザードンがくるりと旋回するのがわかると、一瞬だけ熱風がハンナを通り抜け、あたりの砂埃は全て払われた。
 そして同時に、リザードンと目が合う。
 いつも通りのしかめっ面で、こっちが心配してるというのを全く知りもしないような少し腹立つ態度。



「…って少しも姿変わってないじゃん。私の見間違えか」
 
 そう言って、リザードンの首に腕を回す。
「無事でなによりじゃん…よかった」
 一瞬だけ声を詰まらせる。緊張の糸が解けたのか、少し涙声だと自分でもわかる。
 ハンナの後ろでずっと見守っていたアランのリザードンは、何事もなく終わったことを確認して無言でアランの手に握られていたボールへと戻っていく。




「ハンナさんとリザードン、残念だったね」
 アランの横で終始を見ていたマノンは言った。「ああ」と一言だけアランが返すと、「それにしてもさあ」と、どこか気だるげに声を発するマノンにアランは視線を向ける。その時、アランが自分の輪郭に水が伝って粒となって落ちていくのを感じた。汗をかいていることに気づいて額を乱雑に拭うと、話を聞いているのかとマノンは食いついてくる。


「ねえ話聞いてたの?」
「なんだ」
「だから!暑いから!アイス食べに行こうよ!」
「…暑い?」

 マノンのその言葉を聞いて、アランはハッとしてハンナとリザードンへと目を向ける。相変わらず自分のポケモンに対してのスキンシップが激しいのか、はたまた気が抜けてその体勢かた動きたくないだけなのか、未だにリザードンの首から離れないハンナへ「おい」と声を掛けようとした瞬間、「ハンナさん達もアイス食べに行こうよ!」というマノンの声にかき消された。
 アランはマノンの方へ振り返り、「そんなことより」と言おうとするが、今度は「マジで!?」と嬉々とした声がアランの後ろから飛んでくる。


「それって先輩の奢り!?ごちになりまーす!私キングサイズのトリプルがいいな!」
「あ!ずるい私も!私も同じがいい!」

 さっきまでのしおらしい態度はどこに行ったのか、目が爛々と輝いている。遠慮のエの字もない注文という名の個人の希望に、アランの冷静さの端が欠けた音がする。



「お前らだけで行け」

 「俺はもう知らん」とだけ言ってアランは先に行ってしまったが、特に悪びれた様子もなく、いつものこととその後ろを着いて行く二人の姿があった。

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