xy

小さな争い




「ハンナさんも一緒に行こうよ〜!」
「えー?困ったなあ〜」
「ユリーカは真面目に言ってるのー!」

「ハンナさん、顔!顔がにやけてますよ!」


ビオラとザクロのバトルは終わり、サトシとセレナは他のナイト達のバトルを観戦してる中、ユリーカとシトロンは少し休憩のためにハンナとビオラとザクロのいるテーブルに混ざっていた。
最初出会った時は身長差のせいで少し怖い印象を持っていたのか少し離れて見られていたのが印象的なユリーカだったが。

「モテモテじゃないハンナ」
「孫におねだりされるおじいちゃんおばあちゃんの気持ち今ならわかるわー…これはなんでもしてあげたくなるわー…」
「あんたいつから高齢者の仲間入りしたのよ」
横で見物するビオラの顔もどことなく微笑みというよりは可愛いものに顔を緩ませているような雰囲気で、その様子を見守っている。


「ハンナさんはプラターヌ博士のお手伝いで忙しいんだから無理言っちゃダメだよユリーカ!」
「やだ!お話もっと聞きたい!」
「参ったなあ…」
お手上げ寸前のシトロンと、いいでしょ?と押し通るユリーカを見て、周りの人達の顔は更に綻んだ。

こうなったのは今から数分前のこと。
サトシと一緒にイッシュを旅していた頃のことから始まり、次第に話題はシンオウでシゲルのお世話になっているハンナのポケモン達の話題に変わっていった。
ユリーカからすれば聞いたこともなければ見たこともない未知の生き物で、ハンナの言葉から想像してはどんな鳴き声だったか、どんな顔か、どんな姿かと、ひっきりなしに目を輝かせて聞いてくる。

だが時間はあっという間に過ぎていき、時刻は夕方に差し掛かっていた。
ハンナとビオラはここで別れることになっていて、そろそろショウヨウに向けて出発しようかとハンナが立ち上がったところで、ユリーカが「ショウヨウまで一緒に行こうよ」と言い始めたのだった。
ハンナが一瞬だけ困った顔をしたのを見逃さず、「ダメだよ」と止めるシトロンだが、止められると更にヒートアップするのが子供の性で。次第に「一緒に旅をしようよ」へと切り替わっていった。


そして今のこの状況ということだった。
いつの間にかザクロさんまで、ビオラの横に立って見物している。彼の白い歯が眩しい。私がユリーカとシトロンに挟まれるのを見て笑っているのだ。

自分を挟む兄妹の攻防に談笑していると、サロンの柱時計が大きな時報を鳴らした。
もうこんな時間か。ビオラも同じことを思っていたみたいで先に席を立った。少し名残惜しいがそろそろ出発しなきゃ、ポケモンセンターにつくのが真夜中になってしまう。ハンナがユリーカの頭を撫でると、少し落ち込んでる様子で顔を上げた。
どうやら小さな兄妹の小さな戦いの勝敗は兄の勝ちになったようだ。


「また会える?」
「会えるよ。同じ地方にいるんだもん。今度会ったらなにか美味しいもの一緒に食べようよ。今度はユリーカの話を聞きたいな」
「いいよ!じゃあ次会うまでになに話すか考えとくね!」

「楽しみにしてる」と言うと、ユリーカ達を呼んでいたサトシの方へ駆けていくユリーカと入れ替わりでシトロンがやってきた。

「ハンナさん、今日はユリーカの世話焼いてもらってしまって…ありがとうございました。」
「こっちこそ!ユリーカといれて楽しかったよ。もちろんシトロンもね」
「え、え〜、そうですか?」
「こんなとこで嘘ついてどうすんのさ?」
「あ、ありがとうございます…照れますね〜」


シトロンの礼儀正しさには本当、毎度驚かされる。
ユリーカはシトロンのお嫁さんを探すと言っていたが、これだけ物腰が柔らかくて頭の回転が早く、眼鏡に隠れて損しがちだがかなり顔も整ってるし、オマケにメカに料理まで作れるとなると、シトロンは確実に将来モテるぞ。多分、幼い子からお姉さんまで幅広く。
そんなことを心の端で思いながら「サトシ達が呼んでるよ」と指を差すと、軽く会釈をして慌てて走って行った。
あの走り方、どことなくマノンちゃんと似てるな。
そう思いながら、ビオラと別れてバトルシャトーを後にした。




- ナノ -