xy

成果と談話


無事バロネスの称号を勝ち取ったハンナは、テラスへと戻った。
いまだにボールに戻らずにハンナの周りで踊るように漂い続けるヒトツキを見て、テラスでハンナを待つビオラは笑みを浮かべる。

「おめでとうハンナ。初陣華々しいじゃない!私の時のバトルよりヒトツキとの動きが良くなった。」
「ヒトツキが頑張ってくれたお陰っていうのもあるけど、ビオラのアドバイスのお陰でもあるよ。ありがとうビオラ」
「あら、そーお?ハンナにそう言われると嬉しいなあ!
お姉さん今気分がいいから初勝利の記念写真を撮ってあげてもいいのよ?」
「本当?私も今気分がいいからどんなポーズでも決めちゃってもいいんだよ?」

「バカね、頑張ったヒトツキオンリーよ」
「そんな馬鹿な…」
上げて落とされたテンションを鎮めて、ビオラの隣の椅子を引いて座ると辺りが一斉に拍手をし始めた。サトシとヤヤコマ帽の男の子のバトルが始まるみたいで、ビオラもフィールドの方へと顔を向けている。


ヤヤコマ帽の子には悪いが、私はサトシを応援しようかな。
ハンナがそう考えている時だった。相席にやってきた彼は、サトシについてビオラに聞いてきたのだ。
話しぶりからして、ハンナがバトルをしているときから続いていた話題みたいだった。
それに対してのビオラも、ガッツのある熱いトレーナーと返した。
そして彼、ザクロを熱くしてくれるだろうとも。



「ところであなたがハンナさんですか?」
「そうですよ。初めましてザクロさん。」
よろしく、と握手を交わすとザクロはおもむろに話しだした。

「さっきビオラからあなたの話を聞いてました。なかなかユニークな方だと」


サッとハンナの顔が青くなった。
もしかしてと思いビオラを見れば、憎たらしいほど口がニンマリと弧を描いている。

「ちょっとビオラ何を話したの?」
まさかさっきの変態発言をそのまま言ってないでしょうね!?と問えば、さすがの私でもそんなど直球なこと言わないわよ。と呆れた。
「ザクロ君のことがとっても気になるみたいよーって言っただけだけど?」
「変な誤解生みそうな言い方!!」
青かった顔から一転。今にもビオラに飛びかかりそうな勢いだが一旦周りを見て、紳士淑女の集まるこの場を弁えて椅子に座り戻り、小声で凄むところでビオラには「おー、偉い偉い」と頭を撫でられ今度は顔を赤くする始末。

「もしかして身長でかいから頭を撫でられること少ないの?案外チョロイ?」
「違 う か ら !」

「おお、ビオラが言っていた通りだ。表情がコロコロ変わりますね」
「でしょー?カメラのシャッターが追いつかないくらい!

…で、どうだった?ヒトツキは。さっきも言ったけど私の時のジム戦の時より動きは良くなったと思うけど。実感としては、どうだった?」



ビオラはこうしてからかい倒した直後に、水を打ったように話題を変えてくるのがズルい。
しばらく一緒にいてわかったことは、こうやって散々からかって今まで考えてたことを頭から追い出したところで、突然本題をついてくる。誤魔化しや小細工は一切効かない人だ。

「素早さ重視のブイゼルにはまだまだ対策が必要だけど、」


こんなことを突然聞かれたら、自分で実感した、自分の中にある最も簡潔な言葉でしか返せないじゃないか。

ただ、真正面から言うのは少し気恥ずかしかった。
人を褒めるの苦手なのにな。と、不意にテラスの窓ガラスに反射する景色に目を逸らすと、自分が今どういう顔をしているのかが見えた。

…笑っている。


一切の曇りのないガラスの中で目が合うと、ビオラは優しく笑った。
「ハンナ、忘れてない?私はカメラマンなのよ。
言葉にせずとも伝わるものがある素晴らしさは一番知ってるわ。」
決して自惚れではない、ビオラの持論。納得したような笑みを浮かべている。
「うん…いいじゃない、いいじゃないの!ああ〜スッキリしたわ〜!ハンナとヒトツキはジム戦の時から見ててすごく歯痒かったのよ!よかったよかった!」



その瞬間、ワッとテラスから歓声が上がった。

ビオラとザクロと一緒にフィールドへ注目すると、見ればフェーザーザンスで威力の下がったピカチュウがヤヤコマと互角どころか、強引に技の連続で押し切っている。

ついさっきまで、「どんなに飛行タイプに有利な電気タイプであっても当てなければ意味がない。勢いだけではダメ」と見ていたザクロも、これには目にも止まったようで目を丸くして感心していた。

「もう勝負は見えましたね」
その言葉の通り力に押されてしまったヤヤコマにはあの速さはすでになくなっていて、ピカチュウから発生した10万ボルトがその小さな体を仰け反らせた。



*



ハンナは息を飲んだ。それはハンナだけではなく、サトシやセレナ達も同様で今自分が高い空を仰ぎながら口をポカンと開いていることにもきっと気づいていないほどに。

圧巻の光景だった。
シンオウにいた頃、鋼鉄島でイワークやハガネールには数え切れないくらい調査の邪魔をされ、ある時はストライクのためにメタルコートを探す時にはお世話になった。ハンナのポケモン達は鋼鉄島の環境に扱かれ、また時には絡まった巨体を誘導して解いてあげたりと協力したりもしたが、空高く飛び上がるイワークを見たのは初めてのことだった。

そして地響きのような唸り声を上げると、天から降り注ぐと形容した方が正しい岩石封じがビオラのアメタマに狙いを定めてくる。
本来ならばアメタマを優勢にするはずの氷のフィールドに無残に突き刺さる岩がアメタマの強みをどんどん消していき、ついには四方八方塞がれてしまった前にも後ろにも動けない無防備なアメタマの姿が晒されてしまう。

ビオラの額に汗が伝うのが見えた。厳しいこの状況でアメタマの無事を確認する声掛けのみで、次の指示が出ていない。


まるで打つ手を考える時間なんて与えないといったように、これで最後と告げるザクロの次の判断は即決だった。
連続するほど守るの成功率が落ちる上に、アメタマの素早さも奪ったのだ。
たとえ空中とはいえ動かないアメタマという的に当てるなんていうのは容易だと言わんばかりに、ザクロのイワークはキッチリとラスターカノンを当てて勝敗を分けた。



メイドがそこまでとジャッジを下したのは、土埃の晴れたフィールドに横たわって目を回すアメタマの姿が見えたの同時だった。

「あ…あー、アメタマ惜しかったなあ」
「私圧倒されちゃって応援どころじゃなかったなあ」
サトシたちに混ぜてもらって一緒に観戦していたのだが、ふと漏らした独り言にセレナがそう返せば、「ユリーカはどっちも応援してたよ!」と爪先立ちでぴょんぴょんと跳ねて会話に参加して答えるユリーカ。


「じゃあ後で二人にお疲れ様って言ってこようか」
小さい子はやっぱり可愛い。そう思いながら再びフィールドに目を向けると、紫のマントに身を包むザクロさんの姿。



初めてのバトルシャトー。デュークとダッチェスの戦いは、新たに誕生したグランデュークの勝利で幕を下ろしたのだった。
- ナノ -