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vsメガシンカ


吹き抜けのフィールドには、アランとリザードン、そしてズミとカメックスが対峙している。ハンナはというと、フィールド外のギャラリーで、頭にセットしたヘッドホン型カメラを装着してバトルの開始を待っていた。隣にはリザードンがあくびをしている。


「データ採集の一貫なのはわかってるけど見てるだけってのもなかなか暇なんだよね…」

とっても激しいバトルになってくれたら私も楽しいんだけどね?とリザードンに寄りかかると、「あのー…」と横から女の子の声。


「ああ、アランさんの仲間の子」
「いやー、その…私も一緒に見てもいいですか?」

先ほどのアランに対する激しい態度とは打って変わって、大人しい。まるで借りてきた猫のような状態で、アランは仲間とは違うだなんて言っていたけど、なつかれてるじゃないか。

「うん。隣においでよ」
手招きをすれば、パッと明るくなった表情でパートナーであるハリマロンと一緒にこちらへ駆けてくる。

「マノンちゃんだよね。私はハンナっていうんだ。よろしく。」
「ハンナさん…スラっとしててかっこいいですね!リザードンもよろしくね!こっちはハリマロンのハリさんっていうの!」
マノンという少女は、アランはうるさいし人の話を聞かないといっていたが、それはただ単に元気が有り余っているだけなんじゃないかと思わざるを得ない圧倒される勢いの激しい握手を交わした後、フィールドではバトルが始まった。


「ズミさんのポケモンもメガ進化するのかな…」

マノンの視線の先には、カメックスの額に固定されているメガストーンがあった。アランのリザードンも同様、首に掛けられている飾りには目がストーンがはめ込まれている。
そんなマノンを尻目に、じっと静かにフィールドの会話に耳を傾けていたがあのズミというコックは何者なんだろう。


「あのズミっていう人、水使いなんだ」
「ええ!?ハンナさん、ズミさんを知らないの?!!」
ちょっとしたことだと思って口に出したことが、マノンにとってはかなり衝撃だったようでこれでもかというくらいに目を見開いている。
ただこの時は、そんなことはどうでもよかった。マノンが横でなにかを行っているが、耳には入ってこなかった。アランのキーストーンから発する光がハンナをそうさせた。

前に見た、カルネさんのサーナイトの時のように。アランの言葉に応じて、共鳴した石同士の光に包まれるリザードンの姿がみるみる変化していく。
待ちに待ったメガ進化。ただひとつ、どうしてもいただけないものがあった。


『我が心に応えよ、キーストーン!進化を超えろ メガ進化!』

「このアランさんの声は…、カットしてもいいよね…」

もしかして、メガ進化をするたびにあの掛け声をしなければならないのだろうか。軽くゾッとするが、今はそれどころではない。そんなことを考えつつも、バトルは見逃さなかった。そして、衝撃の走る一言も。


「ズミさんって四天王なの!?」
「さっき説明したのにハンナさん聞いてなかった!!」

再びバトルに目を向ければ、前菜であるとハイドロポンプをメガ進化したリザードンに連射していくカメックスに目掛けて、両手に纏ったドラゴンクローを食らわせようと連撃を避けてはどんどん距離を詰めていく。
縮まった距離をリザードンが詰めることもなく、カメックスの方からロケット頭突きでリザードンを迎え撃つ。

両者とも引けを取らない迫力に、隣のマノンが圧倒されている。

一方ハンナは、ズミの前菜には飽き足らず、工程すっ飛ばしてメインディッシュを欲しがるアランに頭を抱えていた。もしかしてメインディッシュって言いたかっただけなんじゃないかと。


「そうですね、味わって頂きましょう。芸術的なメインディッシュを!」

「あ、いいんだ」

そういう順番にはものすごくうるさそうだと思ったんだけど、案外ズミさんはそういうのは気にしないコックなのか。

我ながらお気楽である。カメックスがメガ進化し、鋼の翼で大きく空中を旋回するリザードンに目掛けてメガカメックスの砲塔が頭上だけでなく、両手の甲から覗いた。強い輝きの龍の波動を放つが、明らかに自分の知ってる龍の波動の威力とは別ものだ。
メガ進化の能力上昇のせいもあるかもしれないが、さっきのタイプ一致のハイドロポンプと比べるとそれ以上の威力に見える。

「特性も変わるのかな?」
だとしたらなんだろうか。別にメガ進化は状態異常というわけではないから根性ではないだろうし、変幻自在にも見えないし、今の技は波動とつく名前だから、もしかしたら激流からメガランチャーへと変わったのだろうか。

案の定、メガランチャーに変化していることを親切にもズミさん自身が話してくれたのだが、なぜかリザードンのダメージが想定よりかなりでかい気がする。
そして追い打ちをかけるように、ハイドロポンプを真正面から受け止めてしまった。

ただでは済まない威力を受けて、アランはそのままリザードンに突っ込めと指示をすると、自然とハンナの目が少し険しくなる。
ハイドロポンプの水柱からうまく切り抜けてカメックスへ突っ込んでいくリザードンに、すぐさまカメックスはグロウパンチで対応する。
火炎放射とグロウパンチがぶつかり合い、爆煙が立ち上るとすかさずリザードンが急上昇して、カメックスが立ち直る隙を狙って突進してさらに追い込んでいく。

リザードンがドラゴンクローで追撃するも、ズミの表情は少しも動じない。余裕すぎるくらいで、カメックスもあれだけ攻撃を受けていながらまだまだ倒れない。アランは見えていないのだろうか。


寧ろ、リザードンがあれだけ猛攻を仕掛けてしまったことがかえって隙を生んでしまったということを。

本当に一瞬だった。言葉の通り、竜の波動がリザードンを飲み込んだというのが見たままのものだった。
空には強い閃光が走り、爆発した。
立ち上る砂埃が晴れた場所には、メガ進化が解けて横たわるリザードンの姿と無傷のメガカメックス。

アランがリザードンに寄り添うと、「不利な条件の中で見事だった」とズミは真っ直ぐそう伝えた。
ハンナはただじっと、外したヘッドホンカメラを持って様子を見守っていた。

そして、ズミの真っ直ぐな目がハンナに向けられたことに気づいたとき予想外の言葉が降りかかったのだ。



「そこのお嬢さんは、本当に見てるだけでよろしかったですか?」

自然と鼓動が早くなるのを感じた。だが、今はだめだ。


「ええ。十分、ですよ」

だって目的が違うから。




日が沈もうとしている夕暮れ前。レストランを後にして、アランと別れてビオラとの待ち合わせに向かおう時間になった。
店を出たハンナとアランは、ハンナのスクーターを停めた場所からそれぞれの行先を目指そうとしている。

「またいつでも連絡くださいね。コーストカロスなら私しばらくいると思うんで会えますし。でも今度はちゃんと要件くらい教えてくださいよ?」
「善処しよう」
「あと、私が見た最初のメガ進化はサーナイトですよ」

そっぽ向いていた顔が、それを聞くとハンナの方へと向けられた。

「次会う時までに、誰かを当ててみてくださいな」
「面倒だ」
「ちょっと!少しは遊び心持ったっていいんじゃないですか?」
「お前みたいに博士から子供扱い受けるようならこのままでいい」
「またその話ですか!?大体私の名前はお前じゃなくてハンナです!」
「気が向いたら覚えとく」
「カッコつけちゃってさ!自分から呼び出しておいて酷過ぎません?」
「全くそうは思わないな」
「あ〜あ先輩だからってそういうこと言っていいんですか?ほら、アランさんのお仲間がお呼びですよ〜」

指をさした先には相変わらず騒々しく駆けてくる小さな女の子。アランが少しだけ顔をしかめたのを見て、「めちゃくちゃ愛されてるじゃないですか」お腹を抱えて笑い出す。
「冗談を言うな」やら、「お前の旅のお供にしたらどうだ」とアランが言い返すが、返事がない。不思議に思ったアランが振り返ると、さっきまで目の前にいた後輩はすでに離れた曲がり角にいた。


「ごめんなさ〜い!私この後友人と会う約束してるので!またどこかで!」

引っ張っていたスクーターに乗ってその場を去ると、後ろで転ぶマノンとまたお前かと呆れるアランの声。
なんだ、結構お決まりになってるじゃん。あの様子なら、そりゃあ懐くはずだよね。


スクーターのサイドミラー越しに見る二人は少し微笑ましくて。僅かではあるけど、アランの口元が笑っているようにも見えた。


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