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アランという男



「『ミアレで待つ…』?」


ミアレに戻る道中のポケモンセンターで昼食をとってる中、ポケナビの着信音で両手に掴んだハンバーガーを置いて確認したハンナが眉間に深いシワを寄せて画面を凝視していた。

「何見てるの?」
「んー、よくわかんないメールがきた」
「私にとっちゃあんたの説明も「なんだそれ」よ。見せて見せて」

ビオラが横から覗いて見れば、ハンナが言っていた通りのぶっきらぼうな文面だけが表示されていた。今時下克上でもこんな文書かないよとハンナが漏らせば、そこは告白じゃないの?と返すビオラ。

「名前は?さすがに書いてあるでしょ」
「あー… アラ…ン、アランさんっていうらしいね。」
「男じゃない!ちょっと!あーんハンナ見た目だけは一丁前なんだからさ〜進化とバトルとリザードンと食欲に興味が傾きすぎちゃってるのよ〜もったいない…」
「ビオラさ、会って間もないのにすっごいズケズケ言うようになったよね…私びっくりしてる」
「そりゃあ女の子は色恋には目を輝かせるものじゃない」
「この7文字のメールでどんだけ想像力を膨らませてるの?」


数分言い合った末、まず落ち着いて「返信をしよう」という結論で二人は頷いた。
ポケモンセンターの食堂で一つの画面を二人で見合って話し合う様子は周りにいるであろうミニスカート達とは少しだけ雰囲気が違い、面持ちも声のトーンも真剣そのものだった。

「じゃあまず『ミアレのどこですか』って返すね。」
「バカねー、そこは『あなたは誰ですか』でしょ?」


は?とお互いポケナビと顔を見比べては信じられないという目で訴えかける。

「だってミアレどんだけ大きいと思ってるの!?ミアレで待つってシラミ潰しにも程があるでしょー!?スクーターのガス欠と戦いながら大捜索なんてしたくないんですけど!」
「わかってない!わかってないわハンナ!まずはアランさんから興味を持ちましょうよ!これだからバトル狂は!これだからバトル狂は!」
「だからこれ色恋とか関係ないから聞いて人の話を!あとバトル狂で悪かったねカメラオタク!」
「聞いてる!メールから始まる新たな…」
「あ、悪いけど全然聞いてないのがよくわかった」
「も〜まどろっこしいわね!ちょっと貸して?」
「あっ ちょっと!」


重いカメラを構えているせいか、意外と強いビオラの腕力。ハンナの手元にポケナビが返ってきた時には、画面には送信完了の表示。
声にならない悲鳴を心の中であげながら、急いで送信履歴を確認すると意外なことに色恋云々と言っていながらミアレの場所、こっちはアランという人について何も知らないこと、なんの用かなどの旨をちゃんと書いていた。
変なことは書かれていないことを確認してビオラを見ると、シレっとハンバーガーを食べ終えて使い捨てのテーブルナプキンで口を拭いているところだった。

「流石に人様のメールで悪戯はしないわよ」
「だったら最初からしないでよ〜焦ったじゃん」
「なんかでかい妹ができた気分で楽しいのよ〜。ほら、返信来たみたいよ。」
「でかいは余計だよ。地図送ってくれたから場所は大丈夫っぽい。場所も目立つし」
「そりゃあ…目立つはずよ。これ、3ツ星レストランよ。」
「……うっそだ〜、だって待ち合わせでしょ?それはないって。ビオラの記憶違いじゃないの?」
「私がカロスに何年いると思ってるの?」
「・・・・・まあ、それもそうだよね…とりあえず行ってみようかな」
「そうね。」

そこからミアレに着くまではそう長くはなかった。途中ビオラがシャッターチャンスと言わんばかりにカメラを構えて、各国の違う模様をしたビビヨンの大移動という珍しい光景をシャッターに収めて寄り道したくらいのことだ。ビオラ曰く、カロス以外の模様のビビヨンが混じっていることが本当に珍しいとのことらしい。
そしてその珍しさから、カロスにはビビヨンやコフキムシ、コフーライのバイヤーが存在しているという話も。

ミアレに着くなり、さっそく待ち合わせに向かおうとするハンナをビオラが引き止めた。
「なに?夕方頃にプリズムタワーの下で落ち合うんじゃなかったの?」
「それはそうなんだけど、ハンナってフォーマルなワンピースとか持ってる?ミアレを出たら私ショウヨウ方面にあるバトルシャトーってところに向かうんだけどよかったらハンナも参加しない?多分見てるだけじゃ物足りないだろうしハンナも参加したがると思うの」
「バトルシャトーがなんなのかわからないけど…正装なら確かボックスに入ってた気がする」
「じゃあそれを持ってプリズムタワーにくること!私はフィルム蓄えなきゃ。じゃあまた後でね!」


ビオラを見送り、再びポケナビで地図を確認した。
今ハンナが立っているのは4番ゲート。目的地はルージュ広場の近くにあるから結構離れている。こういう時、スクーター持っててよかったと心から思える。プリズムタワーを目指して直線で行けば大回りするよりは早く着きそうだ。
スクーターに跨り、エンジンを鳴らしてさっそく目的地である三ツ星レストランへと向かった。所持金は大丈夫だったっけ、と少し不安になったが待ち合わせだし大丈夫かとルージュ方面へと向かう。

ルージュ広場の近くのポケモンセンターの駐車場に停めて、歩くこと数分。目的地にたどり着いた。



「こ、これは…」

着いて早々、まず圧巻させられた。
道行く人々は立ち止まり、この石造りの建物を柵越しから眺めるほどの存在感を放っている。この中を入っていくだけで多少ではあるが勇気がいる。
立ち止まる人達は建物に釘付けだが、その建物へと進んでいく人がいれば今度はそっちに目が向く。一人で進むとなれば余計目立つのだ。

「まったくなんでこんなところを待ち合わせに選ぶかな〜もう…」
意を決して進む。当然のごとく浴びる視線の数々。扉を開けば、中心にある噴水や水路を基調とした空間が開放感と格式の高さを物語っている。ウエイターがこちらへやってくるやいなや、「ハンナ様ですね。」と。
案内についていくと、「ああ、なんかそれらしい人がいるな」と思える人が一人。黒い服に水色のストール。いかにもクールで愛想のなさそうな風貌。
間違いない、この人だ。



目が合うと、向こうから言い出した。お前がハンナか、と。



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