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苦難のジムリーダー


「ミアレジムの…ジムリーダー…?」

なんのことだと顔を見合わせるサトシとセレナに、呆気にとられる私。「うわやばい、バレた」と言いたげなこめかみに冷や汗を垂らすシトロンにユリーカちゃん。まるで時間が止まったように固まるこの兄妹。
時間差でものすごい慌てだしたところで、あの噂について聞こうとした途端、「さて、中古屋に行くんだったな」とまだ話をうまく飲み込めない私を引っ張って原付に乗せられ発進されてしまった。


「あの、リモーネさん…本当にシトロンがジムリーダーなんですか!?」
未だに信じられない。まだこのミアレではない違う街のジムリーダーというのならともかく、悪名高いミアレジムのジムリーダーだなんて。

「そうだぞ?なんたってウチの息子は電気タイプの天才児って言われてるからな!」

きっとリモーネさんにとって、シトロンは自慢の息子であって、その通り名とジムリーダーというものは親としてとても誇らしいものなんだろう。後ろから見るリモーネさんの嬉しそうな笑顔と、途端に少し顔に掛かる陰りは先ほど言っていた「家に少しは顔を出せ」ということか。やっと混乱が落ち着いてきた。


確かにジムリーダーは忙しい。いつ来るかわからないチャレンジャーを待ちつつ、自身も個々の目標に向かって鍛えなければならない。まず趣味の時間はあまりとれない。それに、ジムリーダー業はジム戦だけじゃない。町の貢献にも手を出さなきゃいけない時もある。そう考えると、なかなか家に顔を出せないのも頷ける。
趣味の時間も取れず、絶えないチャレンジャーの相手、親から顔出しの催促。あの歳でかなり多忙な毎日だったんだろう。
やりたいことやって燃え尽きてバトルすることを放棄してジムの入口が常にジムバッジの最大100%オフのバーゲンセール状態だったナギサの誰かさんに聞かせてやりたい涙ぐましい苦労話である。


「まさかそれのせいでグレたからあんな噂が…?」
「んー?なんか言ったかハンナちゃん?」

シトロンはあまり怒らなそうだし怒りを溜めやすそうな顔と性格してるから本当にそうかもしれない。
いろんな憶測で噂とシトロンのことを考えているうちに中古屋に着き、リモーネさんの知り合いの店ということもあり安く買えた原付。

「そういやハンナちゃん肝心なこと聞き忘れたけど免許あるのか?」
「シンオウで一応とったんですけど向こうって豪雪地帯ですから乗る機会あまりなかったんですよ。まあすぐに慣れると思います。」
「なら俺はこのへんで仕事に戻るよ。よかったら今度うちん家に遊びに来な!ご馳走振舞うぞ!」
「是非!私大食いですから!リモーネさん今日はありがとうございました!」


原付に乗って仕事場へ戻るリモーネさんとデンリュウを見送って、ヘルメットを頭につけて、私は私で事の真相を知るために目的地であるプリズムタワーへと向かうことにした。


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