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赤い園に青ひとつ


出迎えというより、ほぼ歓迎会だった。
研究員の人たちはみんな常にゆるすぎるプラターヌ博士の周りにいるせいか、なかなかしっかりしている。博士の言動にすかさず突っ込む様子はなんとなくシンオウの研究所やシゲルを思い出す。

「ハンナちゃん、シンオウからここまで長旅だったでしょう?ゆっくりしたかっただろうに博士が歓迎会するってすごい張り切ってて…」
「いえ、ここに来るのを決めたのカロスに入ってからなんですよ。それに他の研究所にお邪魔する機会って今までなかったから逆に緊張がほぐれました。」
「ならよかった!私はソフィー。この歓迎会が終わったらハンナちゃんの部屋とこの研究所内の施設を案内するわね。施設の案内には博士も同行するわ。これからよろしく」
「私の方こそ、よろしくお願いします。」


見たところこの研究所に私と同じ年頃の研究員はいないようだ。ずっとシゲルというパートナーと一緒に研究所で寝食を共にしてたし、自分でやったとはいえ私のポケモン達もリザードンとヒトツキ以外はナナカマド研究所にいるから、それだけが少しだけ寂しい。

「ハンナちゃんってバトルが好きってことはやっぱりこっちの地方のジムにもチャレンジするの?」
そう聞いてきたのはソフィーさんだった。耳に入ったのか、他の研究員の人たちもこの話題に反応してきた。


「いいなあ、俺もバトル強かったら今頃モテてたんだろうなあ」
「バッカ、悲しくなるだろやめろ!」
「ごめんねハンナちゃん、お見苦しいもの見せちゃって。」
「ハハ…なんて反応したらいいんですかこれ…」

「そういやあさ、聞いたか?ミアレジムの話。最近評判すこぶる悪いんだってさ」
「え!?ミアレシティにもジムがあったんですか?一通りぐるっと回ったはずなのにそれらしき建物見当たらなかったからないと思ってた」
「そっか、ハンナちゃん来たばかりだもんね。ミアレジムはこの研究所からだけじゃなくてミアレシティのどこにいても絶対見える建物なんだよ」

「どこからでも絶対見える…?」
部屋の窓を開け放って、身を少しだけ乗り出して街を見渡すが、やはり研究所より高い建物に阻まれる中で必ず見えるものなんて…そう思った時、ある一点にもしかしてと指を向けると、ソフィーさんが大きく頷いた。


「そう、あれがこのミアレのシンボルであると同時に、この街のジムよ!プリズムタワーって呼ばれているの」


「プリズムタワー…すっごい高いですね!どんなジムリーダーがいるんだろ…」

「あっ!」と思い出したようにその研究員は再び話を持ち出した。
「そうそう!その話の続きなんだけどさ、超上から目線で所持してるバッジが4つ以上じゃないとバトルしてくれない、その上追い返す時は電撃からの落とし穴、負けたらアドバイスも何もなしに即刻退場させられるんだってさ」
「それ本当なの〜?」
「本当だって!俺5人には同じ愚痴聞かされたんだから間違いないよ」
「な、なんかバイオレンスだな…バッジ4つってカロスのバッジのみってことなんですかね?」
「多分そうじゃないかな。かなり融通きかないって聞くし」
「腕試しに挑戦してみようと思ってたんですけど…残念だな」


研究所の後はさっそく話にもあった悪名高いジムにと思っていたのに、出鼻をくじかれたみたいで上がっていた肩が下がった気がした。まあまあ、と宥めるソフィーさんの後ろから、少しの間席を外していたプラターヌ博士が戻ってきた


「なに君たち歓迎会なのに苦い顔してるのさ?ハンナ、そこの鉢植えのところ見てみなよ」
「は、鉢植え?」
プラターヌ博士が指した方にある2つ並べられたなんの変哲もない鉢植え。特に変わった物は何もないのだが「もっとよく見てごらん」と諭す博士につられて一歩ずつ一歩ずつ鉢植えに近づいて見るが
、植えられてる花の色が赤で統一されてる中に不自然な青がひとつ。

「なんか色のバランス悪くないですか?紫陽花みたいな感じでもないし」
「そこ?!さっきからずっと君のことを見てたんだよその子」
「その子…?どの子です… ん?」



パチッと、博士の言う『その子』と目があった気がした。

じっと見つめていると、そろそろと顔を少しずつ少しずつ覗かせて、私がその子を見ているとわかったらピュっと元の位置へ隠れてしまう。


「指を近づけてみてごらん?その子は臆病だからそっとね。」
博士に言われたように、屈んで少しずつ、慎重になりすぎず、かといって思い切りが良すぎないように近づいて、そっと指を青い花の雌しべのあたりへと近づけてみた。
「私末端冷え性なんですけど…冷たくないかな、大丈夫かな」
いつの間にか、部屋の中がシンと静まって私とその子の様子をみんなが見守る雰囲気になっている。

「怖くないよ」なんてベタなことは言わないけど、少しの緊張と楽しみと好奇心が混じったような、自然と笑みが溢れてきた。雌しべの影から出ようか出ないか迷っているのがとても可愛いのだ。


「フラベベ、その子はハンナ。怖がらなくても、ハンナは君と同じように仲良くしたがってるみたいだよ?」


「フラベベ…?」
博士に「フラベベ」と呼ばれたその子は、恐る恐るではあるが、ハンナの差し出した人差し指にチョンと触れて、雌しべから姿を覗かせた。

再び目があったときには、お互い笑顔で向かい合っていた。

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