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計画犯


「ハンナ!ちょっと!…切ったな。」

まったく人の気も知らずに、どこまでも奔放なやつだ。
長い溜め息をついても、すでに暗くなった通信端末の画面に映った自分の顔を見ては、再び溜め息をついてしまう。僕も僕だ。迂闊すぎる。研究漬けでハンナがどういう奴かをいつの間にか頭から抜けていた。しかも最近のハンナが妙に落ち着きがないことに気づいていながら完全に後回しにしていたのだ。
ハンナはなにも考えてなさそうでなにかを考えていて、決して他には漏らさず、誰にも言わずに実行する。しかも顔にはあまり出さない分、結構タチが悪い。
今回の原因は連日研究続きだったことだろう。
響きは悪いが、ハンナからしたらいつでも旅に出れるくらい僕や他の研究員達が隙だらけだったということだ。博士には報告してあったみたいだけど、きっかりノルマを片付けてから出て行くあたり、しっかりしてるんだかそうでないんだか。多分、ちょっと前から計画を立てていたんだろう。今思えば、他と比べてハンナはそんなに疲れを見せていなかった。


「事後報告はハンナの悪い癖だからなあ…」

素直に言ってくれればいいのに。
ハンナの状況から考えればひとりになりたいのもわかるんだけど、なんとなく突き放されているようであまり気分はよくない。

ただわかるとは言うものの、僕にとってみればその上をいく未知の領域なのだから、理解できないのは仕方ないのかもしれないとも思う。
この気分の悪さも、本人には言わないがもしかしたら羨ましいだけかもしれない。
いつかの自分が、本当の挫折を知って置いていったものだから。


「ああ…」

「なんだか無駄に疲れた…」
当たり前だ。ハンナが電話に出るまでどれほどこの広大な敷地を走り回ったと思っているんだ。その辺の長椅子に重力に従って沈めば、ずっと足元で丸くなっていたブラッキーに「寝るな」と軽く鼻先でつついてくる。今だけ許してくれ。起きたら博士にプラターヌ研究所のこと報告するからと鼻先を手で静止する。

「これじゃあハンナと一緒だなあ」

ブラッキーも折れたらしく、僕の足元から腹部へと移動して寄り添うように丸くなり始める。白衣越しに感じるポケモンの体温は人間より少し高い。そのおかげか、眠りについたのは目を瞑ったと同時だった。





翌朝、博士への報告と同時に仕返しと言わんばかりの大量の始末書をシゲルがハンナに送りつけたのが真相である。
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