番外

目覚める進化論2






ヒワマキから飛び出して、傘も差さずにどしゃ降りの中ぬかるんだ泥道を走り抜けた結果。
風邪を引いてしまった。


「なんか胡散臭いなー」
目の前にいるこのサングラスの人が今現在いるこのポケモンセンターまで運んでくれたらしいのだが、誰と問うなりいきなりあのシロナさんが率いるシンオウ地方の四天王だと言い出したのだ。

「誰と言ったのは君ですけど」
「だっておかしいもん。なんでシンオウ地方の四天王がホウエンにいるの?」
「それは──」
「ていうかまず見た目が怪しい」
「見た目が怪しい四天王なんて私以外にもわんさかいますが…まあそれはいいとしてそろそろ昼になりますし私はこれで…」


<ぐううううううぅぅぅ…>



「…おいとましようと思ったけど、どうせですしなにか食べに行きましょうか?」





*



そういえば昨日から何も食べていなかった。熱は体温計などを見て自覚した瞬間思い出したように頭痛を引き起こすが、空腹もそれと同じで何も食べていなかったと自覚した時の腹の主張っぷりは異常なのだ。

「奢ってくれるなんてゴヨウさん神様じゃないですか。ありがとうございます」
「女の子なんだからせめて落ち着いて食べるか呑み込んで喋るのかどっちかにしなさい。それにしても小さいのによくそんなに食べれますね、いつもそんな量を?」
「うん。でも昨日の昼からは全然食べてなかったからいつもよりは食べてるよ」
「そういえば今朝はなんであんなところに?」


忙しく動く口が止まった。
ハムスターの頬袋みたく膨らんだ頬がゴクリと喉を鳴らしてスマートに戻るのと同時に、もう何枚目か数えるのも嫌になる皿の塔に新しい層を作ればジトリと特有の目付きでゴヨウを伺う。
「私でよければ聞きますよ?」と付け足せば、なにやら改まった様子で「ゴヨウさんはエスパー使いなんですよね?」と目の前にいる少女

ええ、と頷けば、今に至るまでをぽつぽつと紡ぎ始めた。
話を聞けば今朝の茂みにいた理由はトレーナーなら比較的誰にでもありそうな悩みと話ではあったが、ゴヨウの着目した点は別にあった。


「ハンナはエルレイドを持っているんですね」
「うん。ラルトスの時からの仲間だったんだけど…キルリアとかサーナイトって女の子みたいな姿してるじゃん?」
とハンナは言う。
確かに、ラルトスの時はさておきキルリアやサーナイトの見た目はどちらかといえば女性的である。
「キルリアに進化した時私が可愛い!って言ったせいか妙な意地張ってサーナイトに進化したがらないってダイゴさんに言ったら『この石をキルリアにあげてごらん』って言われたから…」
「…なるほど、ダイゴさんにですか」
この子はシロナさんといい大御所によく出会うのだろうか。
「ダイゴさんから教えてもらったエルレイドって名前以外のことが全くわからなくて…キルリアの時みたいにバトルしたら、なんか知らないけど指示を無視して素手で相手を全力でボコボコにしに行くし…鬱憤溜まってたのかな」
「………………。」



(…それはもしやインファイトでは?)
擦れ下がったサングラスを掛け直して話を最後まで聞くことにしよう。


「なんとなくだけどサイコキネシスの威力も落ちてる気がするし、図鑑で調べるにも登録されてないから名前すら出てこないし──…」

静かにハンナの吐露するひとつひとつの言葉に耳を傾けているが、インファイトを知らないことが発覚した時点ではっきり言えることがある。
(この子の悩みはバトルでの指示ミスが原因なんじゃない)


「エルレイドのやる気を買ってヒワマキのジム戦に出したのはいいけどキルリアの時よりダメージがでかいような気がするし…」
「当たり前です」

ゴヨウが割って入る。もう続けなくても原因は明らかだからだ。
「エルレイドはキルリアから目覚め石を使って進化することでエスパーと格闘の複合タイプになるんですから」
「格闘と…複合タイプ?」

今までの悩みに合致する回答を得たことによって、ハンナの表情が徐々に不安から確信に変わっていく。
ハンナは、根本的にエルレイドのタイプと戦い方を、違う地方であるが故の情報の少なさから知らないだけだ。


「出ましょうかハンナ、エルレイドのことについて教えてあげます」





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