番外

ラッシュその3


──前回のあらすじ
シロナさんから卵をプレゼントされ、ダイゴさんからヘルメットとつるはしをプレゼントされた。

簡潔すぎるがあの文章量で起きたことといったらこれだけだった。しかしシロナさんからもらった卵はさっきからガタガタと震えている。本当に今にも生まれそうな勢いだ。現在私はリザードンの背中の上だ、そして雲が近いこんな上空で殻を突き破って生まれられたらぶっちゃけ困る、次の目的地は鋼鉄島。着くまではなんとか待っててほしい。


リザードンが更に加速すると鋼鉄島が見えてきた。見覚えのある建物、あれはトウガンさんの別荘だったっけか。だが今はそんなことどうだっていい、とりあえず一番近い比較的安定した岩場に降りた。


「っわ…、」
腕に抱えていた卵が突如光を帯びだした。急いで自分の上着を平らな岩場に敷き、卵を置く。
──…ついに生まれる



瞬間的に眩しいほどの強い光がハンナとリザードンを覆った、細めた目を開けばそこにいたのは…

『カフッ』
パチパチと大きな目を瞬きさせるフカマルがいた。
「フカマルだ…っ」
背ビレに切れ込みがあるということはこのフカマルはオスだ。嬉しさが込み上げフカマルの脇下に手を添え、両手を伸ばして抱き上げた。所謂高い高いの状態で「フカマル、」と一言呼んでみれば元気に返事を返してくれる。ひねくれ者ではないようだ

「フカマル、私はハンナ。今日からフカマルは私の仲間になるんだよ」
しかしいきなりこんな長ったらしいことを言われたフカマルは頭を横に傾けた(そりゃ生まれたばかりだからわからないか、)
今は実に歓喜している、生まれた喜びに笑顔が絶えない、思いきって溢れんばかりの嬉しさを前面に出した

「これからよろしくね、フカマル!!」
高い高いからギュッと抱き締めれば笑顔のフカマルが短い手足をばたつかせながら楽しそうな鳴き声をあげた。随分賑やかな子だ、この子は最初のように言葉だけではなく、言葉と体で示した方が伝わるらしい。
フカマルを地面に降ろし、岩場に敷いた上着を叩いて再び袖を通せばフカマルが興味深そうにリザードンを下から凝視していた。それにリザードンも見返す。

なんだか異様な光景につい笑ってしまった。


「はぁーおっかしい…」
少しばかり笑いすぎたようだ、脇腹が痛い。一旦フカマルをシロナさんからもらったモンスターボールに入れてまた出してあげた。
(もしも手違いで誰かにゲットなんかされたら堪らないもんね)

それからフカマルを自由に鋼鉄島を歩かせてハンナはそれに着いていった。鋼鉄島の外部内部は把握している。危なかったらボールに戻せばいい
本来の目的とは大幅にずれてしまったがまあいいか、とひたすらフカマルに着いていった。フカマルのテンションは変わらず高い。ウキウキと島を散策している。

なんとなくだが、ひとりでもものすごく楽しそうである。


「陽気な子なんだな―…」
そういえばこの子はどんな技が使えるんだろう、ふと浮かんだ疑問だがあいにく今は調べる物がない。(研究所に帰ってからだな)
しかしテンションは変わらずとはいえ生まれたてだ、そろそろフカマルが疲れてくる頃だろう。
チョロチョロ動き回るフカマルを捕まえて抱っこの状態で鋼鉄島のポケモンセンターに向かうことにした。

「ジョーイさーん!」
「はーい…あ、ハンナちゃん、今日もナナカマド博士のお手伝い?」
「いえ、今日は私用で来たんです」
「ふふ、いつもお疲れ様…あら?このフカマルは、」
「さっき生まれたんですよ。生まれたばかりなのにすごい動き回るんですよ」
「なら、回復と生まれたばかりだから検診もしましょうか」
「お願いします!」



ポケモンセンター内の一角にあるソファーに腰掛け、センター内の自販機で買ったミックスオレを飲みながら回復と検診が終わるのを待つことにした。
人がぽつぽつといるセンター内、今は夕方前。(これから人が増えていくんだろうな)ちょうどいいタイミングに来たのかもしれない。手持ちの子達を受け取ったらエーフィも待ってるだろうし、今日は真っ直ぐ研究所へ帰ろう

ミックスオレを半分くらいまで飲み終わったところで今ハンナの座ってるソファーの向かいに誰かが座った。(どうせ島で修行をしていたトレーナーだろう)と思っていたから特に目を向けたりはしなかった
だが目の前から感じる強烈な、何かに食い入るような視線がそれを許さなかった。

「──怖いんだけど」
「私じゃなくてルカリオに言ってくれ…」
「どうせまた休息無しで修行してたんでしょ」


゛飲みかけでよければあげる゛、と言えば素直に缶を受け取り飲み始めたルカリオ。相変わらず動作が人間臭いというか器用というか…これもゲンの修行の賜物なのか
「一応言っておくけどそんなこと一切教えてないからね」
「波動で人の考え読むなんてプライバシーの侵害ですよ〜」
「そんなことしたなんて言ってないけど?」
「汚ないさすが波動きたない」
チートにも程があるぞ波動使い!!


「まあそれは置いといて、ハンナっていつからヘルメット被るようになったんだい、イメチェン?」
「ゲンがイメチェンって言うとなんかやだ…」
「それにつるはしまで持って…」
「(華麗にスルーしたな…)進化の石を求めて鋼鉄島に来たんだよ。ゲンを探そうとしたんだけど卵からフカマルが生まれたから予定変更で散策してたの

このヘルメットとつるはしはダイゴさんからのお古。」

「(進化の石…)…ハンナ、ここは鋼鉄島だ。」
「うん?」
「多分そのつるはし使って発掘しようとしたんだね」
「そうだけど」
「残念だけど鋼鉄島にはそういった石はないぞ

メタルコートならあるけど」



「…………はあああ!?ないの!?」
「いや普通に考えたらわかるだろ、それに仮にあったとしてもなんで私を探したのかな」
「…波動で石を探せばいいんじゃないかなー、と。」
「波動は探知機じゃないからな?」


「なんだないのか〜…」
とんだ無駄足だったと自覚した瞬間どっ、と疲れが出てきた。
「でもそのセットがあるなら地下通路で探してくればいいんじゃないか?」
「…あー、確かにあったねそういうの」

シンオウ地方全域に広がる巨大地下通路。そこには欠片やら玉、進化の石や戦闘で使える物が採れるんだと誰かから聞いた気がする。


「でも今日は疲れたから石探しは明日でいいや…」
ぐでーん、とだらしなくソファーの背もたれに寄りかかるハンナにゲンがコラ、と一喝した。こんな時くらいこうさせて、なんて言えるはずがなく代わりに「リザードン達遅いなー」と呟いた。
フカマルの検診に時間がかかってるのだろうか。
「そういえばさっき卵からフカマルが孵ったって言ったけど石をフカマルに使う訳じゃないんだろ?」
「ちょっとフィールドワークにいってる間に私のエーフィが卵を4つも持っててさ」
「4つ!?」
「そ、4つ。だから石を探してるの。内の二匹はリーフィアとグレイシアにさせるつもりだけどあとの二匹は石を使って進化させようと思って。」
「そういうことか…」

(そういえば徹夜明けだったな…)くぁ、と欠伸を漏らせばジョーイさんのアナウンスが入った。



<♪〜>
『ハンナちゃん、回復と検診が終わりましたよ』


「お、やっとか。じゃあゲン、私研究所戻るわ!」
「ああ、気を付けてな」
「うん。ゲンもルカリオに無理ばっかさせちゃダメだからね。バイバイ!」
「(あ、ヘルメット被ったまま行くんだ…)」

カウンターに向かう途中で振り向き大きく手を振ればゲンが振り返してくれた。ルカリオも缶を片手に控えめに手を振り返した
カウンターでボールを受け取りそのままジョーイさんに軽く挨拶をしてからポケモンセンターを後にした。
もうじき暗くなるだろう、急いで研究所へと向かうことにした。



「ただいまー…」
「おかえりハンナ、随分遅かったね(なんでヘルメット…?)」
あたりはもうすっかり暗くなった頃にハンナは研究所の自室に帰ってきた。やはり徹夜明けの影響がもろに出たようだ、疲れきっていてそのままベッドの下段へと倒れ込んだ。(下段は僕のベッドなんだけどなあ…)

「石は手に入ったの?」
「…明日地下通路でゲットしてやんよ…」
「(結局ダメだったのか)今日はもう寝なよ、僕のベッド使っていいからさ」
「ん〜、そうする…ありがとうシゲル」

モゾモゾと布団に入れば腰に何かが当たった。
「あ、卵達はここだったんだ」
卵の殻は意外と頑丈だ、相当な衝撃を与えない限り割れはしないだろう。卵と一緒に寝ることにした。ウエストバッグとボールを着けたままだとさすがに寝心地が悪いから枕元に置いてそのまま寝ようとしたら開いた鞄からチリン、と心地よい小さな音と共にやすらぎの鈴が出てきた

それを手に取りチリン、と軽く鳴らしてみる。
「やすらぎの鈴で人にもやすらぎを与えてくれないかな…」


限界にまで達した睡魔に抵抗することなく、ハンナは眠りについた








「…ハンナ、ハンナ、起きて!!」

夜中の深夜1時頃、シゲルの慌てた声によって眠りからたたき起こされた
シゲルの声と、もうひとつ、少し高めの…鳴き声…?

「ぅ゛…何…?


………あ、」

一気に覚醒した。
一匹のイーブイが私の顔を覗き込んでいたのだ、それに…
「え、すごい!!色違いのイーブイ!?」


そう、栗色の毛ではなく銀色の毛に覆われたイーブイがそこにいた。いきなりのハプニングに呆けてるハンナの顔をひと舐めした。
「うわあ…私色違いのイーブイなんて初めて見た、」

よろしくねイーブイ、と笑いかければ突然イーブイの体を光りが包み込んだ。
「え、」とシゲルも驚きを隠せずにいた。みるみるうちにイーブイの体が光を発しながら変化していく、


黒に覆われた肢体、本来なら黄色のラインの箇所が水色に、悪タイプの妖しさを醸し出す赤い目は金色の目になっている。色違いのイーブイから神秘的な雰囲気を持つブラッキーに進化した。
「ブラッキーだ…でも生まれたばかりなのに進化したのは…?」

窓から入る僅かな月明かりに淡く反応してほのかに輝くブラッキーの水色のラインを撫でようとしたら手に何かがあたり音を発した
「あ…、もしかしたらこれかも」

チリン、と鳴らしながらシゲルにそれを見せたらシゲルが「なるほど」と納得した。やすらぎの鈴を握ったまま寝てしまったのがイーブイになつき効果をもたらしたのだろう。現にイーブイがブラッキー進化した。


「でも神秘的ですっごく綺麗…ブラッキー、これからよろしくね」
カーテンの隙間から刺す月明かりに照らされ、まだ少しばかり眠気が残るとろんとした目で微笑んだ。

「…っハンナ、明日は地下通路に行って石を探すんだろ。」
「あ…そうだった。
ブラッキー、明日のためにもう寝よっか
シゲルも起こしてくれてありがとね、おやすみ」

「…おやすみ」


ハンナはブラッキーをボールに仕舞わずそのままベッドで一緒に寝始めた。
2人の間にはまだ孵っていない3つの卵。

自分にとってハンナは姉と同じように思っているが静かにしてると普通に綺麗なのだ。上段に登りながら一人顔を赤くして眠りにつくシゲルだった。

- ナノ -