番外

ラッシュその2


「やっぱりリゾートと言っても涼しいなぁ…」


リゾートエリア上空、リゾートとは言え北国ということに変わりはない。
「リザードン、そのままの高さ保って」デボンの御曹子であるダイゴさんの別荘だ、そんじょそこらの別荘より立派なんだろう、歩いて探すよりは空から探した方が早いはずだ。

「…あれかな?」
小高い場所にある庭とプール付きの一際目につくでかい別荘。まわりの別荘と比べるまでもない、絶対あれだ。
確信したハンナとリザードンはプールの横に降り立った。
「あら、ハンナじゃない」



不意に後ろからかけられた凛とした声
振り向けばプールの際に肘をかけて、黒いサングラスを頭に掛け直しこちらを仰視するスルーしたくてもできない眩しいくらいの金髪の女性

「…黒ビキニとか寒くないんですかシロナさん」
「温水だから平気よ、それにしても久しぶりねえ…ナナカマド博士はお元気かしら?」
「はあ…変わらず元気ですが…シロナさん、チャンピオン業は?」
「今日リーグは定休日よ」
「研ky「今日はオフよ」…さいですか」
「もう、ハンナはいつからそんな真面目な性格になったのよ」
「いやいやあなたに突っ込みどころがありすぎるからですよ(リーグに定休日なんてないでしょーよ…)」
オーバがナギサに来るときは暇を見つけて来てるんだし…
しかしこの茶目っ気がシロナさんの魅力でもあるのだから不思議だ
「!、そうだ…ちょうどいいわハンナ、」

シロナさんがプールから上がってパラソルの下にあった鞄からひとつのケースを差し出してきた


「はい、プレゼント」

シロナさんから渡されたのは透明な筒状のケースに入れられた卵だった。
「…卵ですよね?」
「ふふ、それ以外に何に見えるのかしら?」
「(さっき文鎮と間違えました)これ随分重くなってますね、多分もう少ししたら生まれそうだけどなんの卵ですか?」
「それを言ったらつまらないでしょ?生まれてからのお楽しみ!」

そう言うとシロナさんから新しいモンスターボールを渡された。
「これで5個目か…(生まれてからの世話が大変そうだな)」
仲間が増えるのは嬉しいことだがその反面、一からものを教えて育てるというのはものすごく大変なのだ。
それが5匹ともなると大変どころでは済まされないだろう

「え、他に卵あるの?」
「そうなんですよ。今は研究所にありますけど…ちょっとフィールドワークで研究所を空けてる間に…」

「すごいじゃない!そんな短時間で4個も卵が出来るなんて。」
事の概ねを簡潔に話せばシロナさんの第一声はこれだった

「育て屋以外で見つかることってあまりないでしょ?よっぽど仲が良いのねその二匹。素敵じゃない。

それで石を求めてダイゴの別荘まで来たってことね」


「そうだった!シロナさん、ダイゴさん今いますか!?」
話し込んでたら本来の目的を忘れてた。ああ、リザードンの視線が痛い。
小さな風で寒く感じたであろうシロナさんが再びプールに入り水に浸かった髪が揺れた。「いるはずよ、さっきまで石を愛でてたもの」と言えば潜水していってしまった。どこまでもマイペースなのは健在だった。さっそく別荘へと足を進めた、シロナさんの泳ぎ方にはあえて何もつっこまない。



「ダイゴさ―んいますかー?ハンナですけど入りますよ―…っと」
「名乗る以前にもうドアを閉めてる段階までいってるじゃないか。久しぶりハンナ」
「お久しぶりですダイゴさん。…相っ変わらず石まみれの部屋ですね、落ち着くんですか?」
「もう天国だよ」
「さいですか。
さっそくですがダイゴさん、進化の石あったら譲ってくれませんか?」
そう言うとダイゴがなんだそんなことかと言わんばかりに目を丸くした。

「ハンナが僕に会いに来るなんて珍しいと思ったら…それならお安いご用だ。ちょっと待ってて」


部屋に飾ってあるタイプ別のジュエルを眺めること数分、「ハンナ」とダイゴが私に手招きをしてきた。


「はい」
「…えっと、ダイゴさん」
「何だい?僕のお古じゃ不満だったかな」
「いやお古も何もないですよねこれ」

私の手に渡されたのはヘルメットとつるはしだった


「自分で掘りやがれってか!」
あの自信満々の「お安いご用だ」とは一体なんだったのだろうか

「いやあげたいのは山々だったんだけどどれも最後の一個で愛着が…」
「なんでそこで観賞用、保存用、実用って揃えなかったんですか!?」
「やだそんなオタクみたいな…」
「あんた石オタク!!」


だんだん口が悪くなっていくハンナ
しかし尚余裕綽々なこの男ツワブキダイゴ
決して嫌いな訳ではないが話すと一年分の気力を労したくらい疲れるので極力関わりたくなかったのだ。「僕に会いに来るなんて珍しい」の理由はこれである

「大丈夫だよ、きっとハンナも石に目覚めるって!」

゛ぽん、゛
゛肩ぽんすんな!!゛

「じゃ、僕は忙しいから」
「さっきまで石を愛でてた人がどの口でそんなことが…」
「そのセットはハンナにプレゼントするよ。じゃあね」
「あ!!ちょっと…」


エアームドに乗って行ってしまった。ハンナは自分の手の中にあるヘルメットとつるはしを見やる。
「うわ──…ヘルメット似合わね…」
むなしいかな、鏡に映った試しにと装着したヘルメット姿の自分を批評した。
普段は高い位置で髪を結んでいるがそれだとヘルメットが入らないため今はほどいている。
ハンナがヘアゴムを左手首に通してもう一度鏡の中のヘルメットを見た

(でも私も「ダイゴさんならくれる」って大前提に考えすぎてたかも)
人に頼るのは大事な事だが頼りすぎるのはかえってよくない。(それを言いたかったのかな…)それなのにあんな口悪くするなんて、浅はかにも程がある
「次会ったときに謝ろう…」


「(よかった、最後の一個達が無事で)」
ハンナが反省しているなんて露知らず、シンオウ地方の上空にいる当のダイゴは全くそんなことはなかった。



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