番外

ナギサのジムリーダー


「ちょっとバク…なんなのこのバッジのバーゲンセールは…」
「だから言ったろ?ナギサのジムリーダーは戦わねえぞって」


"だからってこれはなあ…"
「せめてクレーンゲームで取るとかさぁ…」
「指摘するとこ違くねえか」


ナギサシティ。
最後の砦であるナギサジムには、シンオウ最強と言われる負け知らずなジムリーダーがいる。と、ゲンから聞いていたのだが。聞いた内容から膨らんだ想像と、無残にも目の前にある現実のギャップがでかすぎて言葉が出ない。ポカンと開いた口を、声には出さずバクが右手でだらしねえと閉じてくれたおかげで、やっと脳が働き出した。
うん、これはいわゆる職務放棄ってやつだな。

「まあーラッキーだと思ってとってけば?」
「なんだかやな感じだけど…ジムリーダーの方針だからしょうがないのかなぁ。バク、案内ありがと。」
「いいっていいって。ていうかお前これでバッジ8個目だろ?ちょうどいいや。いいとこ教えてやるから明日サバイバルエリア来いよ。」
「…? いいけど」
「あと手持ちは6体フルで。お前なりのガチ構成したポケモン連れてこいよ?これは絶対な。」



*


──と、まあ言われたとおり来たんだけども。
ポケモンセンター前に降りるときに見えた意外な人影に目を疑った。

「そういやゲンを鋼鉄島以外で見たの初めてかも…」


そう、ゲンがいたのだ。いつも鋼鉄島で波導の修行云々言ってるゲンが。
サバイバルエリア自体にきたのは今日が初めてだけど、サバイバルエリアというからにはもっと…なんというかジャングル的な雰囲気や強化施設が並んでるかと思ってたのに意外と見た感じリゾートエリアと変わらない。
ただ、一歩出ればサバイバルという言葉に似合う環境だが。

「お、早いじゃん。待った?」
「んーん今さっき来たとこだけど。」

"そっか!じゃあさっそく来いよ"
そう言って連れてこられたのはすぐ近くというには近すぎる、ポケモンセンターの隣にある白い家だった。

「ここは?」
「俺の家。」


・・・。

「ヘイ、パードゥン?」
「イェスイェス マイホーム!」

「・・・・・・」
「いやいや待てって!!回れ右すんなって!」
「触らないでええ!!連れ込んでなにする気だったんだこのチビ助!ド変態!!」
「勘違い甚だしいぞ!俺の理想は少なくとも自分より小さい奴だ!」


「お前ら何してるんだよ」
「中まで丸聞こえだぞ」





*


「──勝負処かぁ…それならそうと最初に言えばよかったのに。」
「まあ何も知らずに来ていきなり男の家って言われたらそりゃハンナも驚くさ」


ズズッとオレンジジュースの最後の一滴をストローですすると「行儀悪い」とゲンの軽いお説教。ここがなんなのかを聞き終えると、目があったバクが明からさまに目を背けてしまった。拗ねてしまっているんだろうが、これは私悪くないよね。

「違う意味でドッキリ成功だったみてえだなぁバク」
「うっせ兄貴」


「こうして兄弟並んでるとこ見るのは初めてかもー…髪質違いすぎだってあんたら。遺伝子色濃く主張しすぎだって。」
どうしたらそんなはっきり髪質が分かれるのかが非常に疑問である
「あ!?お前こそくせっ毛じゃねえかハンナ!」
「なんでそうすぐ喧嘩腰になるの!?」


「まあそんなことよりタイミングよかったぞお前ら。特にハンナ、お前絶対喜ぶぞ」



ほら、とオーバに指差された方を向けば、カランと鳴って響くアンテーィークドア。

雑誌で何度も見た目を引く容姿に、想像してたより高い身長。
仄かに薄暗い店内でも目立つ金髪のその人は、


「ナギサのジムリーダー…?」



シンオウ最強のジムリーダー、デンジだった。

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