一六三七年の遠雷

物語の見果ては見えず


 政府との会合といえど、毎度毎度そうぐったりするような話し合いはしない。
 どうやら今回はそのパターンだった。連隊戦前に各々が率いる本丸の状況を報告するだけにまとまる。集まらなくてもいいと最初は思っていたが、総代ともなると愚痴や情報を共有できる場と機会というのは思うほどない。
 会議が終わる。分単位のスケジュールで動く役人は足早に退出し、審神者だけが残る。扉の外から足音が遠のくと段々と会議室内の空気が和らいだ。年長者である老齢の審神者はくたびれたように椅子にもたれる。

「この戦いと会議さえなければ、余生の過ごし方としては最高なんだがなあ」

 大っぴらに言うと周囲の総代達は表情を変えて頷いた。それを皮切りに各々が過ごしたいように動き出す。
 総代の中には審神者を多く輩出している家の者もいれば、芙蓉のように完全な一般家庭からある日突然審神者としての生活が始まった者もいる。
 双方の考え方の違いで些細ないざこざはあれど、刀剣達を率いて戦うという目的は同じだ。重傷や刀剣破壊は率いる者の心に大きな傷跡を残す。喜びは刀剣達と分かちあえるが、悲しみの原因は審神者の指揮のミスによるものも少なくない。政府による理不尽な出陣命令なども総代となれば請け負ったり他本丸に指示することも増える。責任は一際大きく、上からも下からも板挟みにされることも多い。
 同じ総代同士、何事もなければ何もないが、何かがあればある程度の協力は必ずしてくれる。そうでなくては戦えない。そのせいか全員仲良しとまではいかなくとも、会えば談笑を楽しんだり、泣いて痛飲したりして不安を本丸に持ち帰らせないような付き合いをしている。総代は一般的な審神者とは少し違う独特のコミュニティを持っていた。
 皆心の内に秘めたものをそのまま刀剣達には吐き出せないものを抱えている。会議後の室内で思うがままに発散し、何事もなかったように本丸へと帰るのだ。

「芙蓉さん、ちょっと……」

 会議が終わってすぐに手招きして話しかけてきたのは、同じ総代である歳が近い女性の審神者だった。名のある名家から審神者として輩出された彼女は、以前から芙蓉にとある相談と報告をしていた。

「どうかしました?」
「あの、前にお話しした件の続きなんですけど……」

 頬を朱に染めて話す彼女を見て、芙蓉は「ああ、」と彼女と壁際に並び肩を寄せ合う。耳打ちをしてどうぞと表している。なかなか言い出せない彼女は、声を震わせて囁いた。

「──光忠に、想いを伝えました……!」

 驚いた芙蓉は目を見開いて、彼女の正面を向いた。歓喜と祝福で、両者とも頬を赤く染めている。彼女は、自身が顕現させた燭台切光忠に長い間想いを寄せていたのだ。それがついに成就した。

「本当ですか……!?」
「はい! 最初は驚いていたんですが、ありがとうと……僕も主のことを今より大事にさせてほしい、と。ずっとお話しを聞いてくださっていた芙蓉さんに一番に伝えたくて」
「すごい、おめでとうございます……!」
「ありがとう芙蓉さん、もう、なんだか心が踊ってしまって、さっきの会議の話が全然耳に入ってこなくて……」
「今日はそこまで重要な話ではなかったから大丈夫ですよ。それより早く燭台切のところに行ってあげてください。会議は短かったとはいえ、きっと首を長くして待ってます」
「はい! ではまた、今度なにかお礼をさせてくださいな」

 そう言って彼女は会議室から近侍達の待機室へと向かって行った。

「……すごいなあ」
 純粋にそう思った。手を振って後ろ姿を見送ると、ぐるりと会議室を見渡す。特にめぼしい話題もなさそうとその日は会議室を後にした。


 向かうのは近侍達が控える待機室ではなく、政府が現世から連れて抱えている茶や菓子から文具、和服や洋服の仕立てから装飾雑貨などの老舗や名店が並ぶ嗜好品の店の区域。待機室には他の本丸の近侍が多数いるとはいえ、あまり松井江はお喋りな性格ではない。会議が終われば、いつもすぐさま店の方に赴き暇を潰している。
 必要なもので尚且つ気に入ったものだけを買う松井江や審美眼のある歌仙は、万人受けしてなんでも取り揃う万屋より、それぞれの専門店が並ぶこっちの方が趣味に合うらしい。政府の職員も利用する店なので値段は高めで手が出しづらいが、その分質がいい物が並んでいる。財布の紐が少し緩めな歌仙は連れて行きにくい。

 芙蓉は芙蓉で、菓子屋にまず足を運んだ。執務室や自室の棚にこっそりおやつとして置いているのだ。一緒に仕事をする松井江の分や、ちょっとした融通を効かせるための賄賂用の日持ちがする羊羹などを毎回買っている。今回は栗が入っているものを選んだ。前回は最中を買った。今回のおやつはどうしようかショーケースを眺める。大福もいい、カステラもいい。歌仙は練り切りを買ってくると喜んでお茶を点ててくれる。

「今回も悩んでいるね」
「どら焼きもいいなと思い始めて」
「僕はこっちの桜のきんつばもいいと思うなぁ」

 ショーケースを指差す爪先には、縹色のネイルが施されている。見上げると、見慣れた笑みが芙蓉を見下ろしていた。

「やっぱり少し赤っぽいものを選ぶのね」
「好きだからね」
「……そうね」

 松井江の好みは知っていたが、さっきの今で「好き」という率直な単語は先ほどの光忠と結ばれた彼女を思い出す。
 実際、刀剣男士に好意を伝えられたらその後どういう関係になっていくんだろうと考えても、あまりピンと来なかった。結ばれるのは喜ばしいことだとしても、芙蓉にとっては替えなんて効かない大切な家族に近い存在で、特別な感情にはあまり結びつかない。
 政府は別に顕現した刀剣男士と審神者がどういう関係になるかまでは突っ込んではこない。だが見た目は人間でも、神様なのだ。たとえ好き合ったとして一線を超えたとしても子どもなんて万に一つでも出来やしない。寿命だって違う。「ずっと一緒に」だなんて、適うはずがないのだ。

 刀剣男士を顕現する本来の目的は歴史修正主義者への対抗手段としてだ。その目的が果たされた時は、審神者としての使命が終わる。本丸の解体をされ、刀剣男士達は役目を終えては姿を失う。あの広い本丸の中から全員の姿が消えて自分だけが現世に戻される。
 いつ終わるかわからない戦いではあるが、政府側からすれば長期化は避けたい。その証に、煮えを切らしたように昔より審神者への小言の入電が少しずつ増えた。早くこの金ばかりが掛かる不毛な戦いを終わらせろと。

 どちらにせよ、早かれ遅かれ、それがたとえ神様と結ばれようが、結局最後は離れ離れになるのだ。
 そこまで考えて、ばつが悪そうに目を瞑る。祝福した後だというのに、何を考えているんだと自分の嫌な性格に辟易した。
 だけどそうなった時のことを考え出すと止まらない。自分もいつかは一人になるのだと、心が千々に乱れて翻弄される。
 この戦いが終わった時、審神者は現世に、審神者になる前の日常に、きっと強制的に戻されるのだ。もうそっちの方が非日常と思うほどに忘れた、どれほどの血が流れているかも知る由もないあの平穏の中に放り込まれる。
 異様な悪寒が背筋を駆け上がり、全身の毛が総毛立つ。

 ──いや、戻れない。

 あの時の諦めを、光景を思い出す。
 家族に見放された、ただ一人の神様に「ただ一人の主」と頼られる非力な人間になった瞬間を。
 違う。私を見放されたのではない。きっと彼らにはこの現実を知る権利がなかっただけだ。
 だとしてもこの胸の内の乾き切ってひりつくような空虚感を埋められる、納得できる理由には至らない。考えれば考えるほど気が遠くなっていく。

「──主!!」

 いつの間にか、松井江に支えられるようにショーケースにもたれかかっていた。

「どうしたんだい、顔が真っ青だよ……?」

 松井江は冗談じゃなく心配した顔で芙蓉を見ていた。自分でも気づかないうちに、心臓がバクバクと脈打ち、額からは玉のような汗をかいている。

「やだ、お菓子を選んでただけなのに……疲れてたのかな」
「お客様、お加減が悪いのですか……? 中で少しお休みされていかれては……」
「そうさせてもらえるとありがたい。主、少し休もう」

 店主である初老の男は松井江の言葉を聞くと、中から妻を呼ぶ。中から出てきた女性は松井江に抱えられた芙蓉の姿を見るやいなや、大慌てで中へ案内した。


   * * *


 申し訳ない顔で芙蓉は布団の上に横になっていた。傍らには松井江が座っていて、横にはお茶と小さい和菓子が懐紙の上に二つお盆に置かれている。

「お茶にお菓子まで出してもらっちゃって、悪いことしたわね」

 松井江は何を言ってるんだと呆れた顔をした。

「こういう時くらいはありがとうと言うべきだよ。それにしても……さっきの会議でなにかあったのかい?」

 静かに首を振る。目は天井を見つめていた。

「違うの。会議自体は報告だけで特に大したことはなかった」
「じゃあ、他の審神者に何か言われた?」
「それも違うわ。嬉しい話題は聞いたけど、そうじゃない」
「だったらどうして……」

 理由を知りたい松井江を見てほんの少しだけ口の端を上げた。

「大丈夫よ、そんな深刻にならないで。少しだけ昔のことを思い出しただけだから」
「思い出しただけで普通あんなに顔色を悪くして倒れるかい?」

 心配させないつもりで言ったが、逆効果だった。寧ろ怪訝な顔をしている。

「そうね……普通そうはないわ」
「何が貴方をそこまで──」

 くん、と下から弱い力で引っ張られる。松井江の言葉を遮ったのは、芙蓉の手だった。羽織っているブレザーの上着の裾を指先でつまんでいる。

「……だめ。松井には言ってあげない」

 意地悪い顔をして言い放つ。そのまま布団から身を起こして手を伸ばし、松井江の白いシャツの襟元に、指を掠めるように触れた。薄い布越しに触れて、小さくきめ細かい何かの感触が指先に伝わる。それだけで大変繊細なものだとわかる物がある。ハッとした顔で松井江は芙蓉を見た。

「覚えてる? ずっと前にこの首飾りについて私が聞いたら貴方、内緒って言ったのよ?」

 触れた手を戻す。この服の下に隠れた銀色の首飾りは、松井江からの初めての拒絶だった。

「いつか話せる時が来たらって言うから待ってたのに。あれから何年も経ってるのに教えてくれないから、これは当てつけね」
「それは……!」
「松井が秘密を教えてくれたら、私も教えてあげる。……これでお互い様でしょう?」

 目を細めて、穏やかだが不敵に笑う。いつもの芙蓉の調子に戻ってきた。

「他に知ってる人は……?」

 不服そうな顔で松井江はいかにも面白くないといった顔だった。

「本丸の中では誰も。歌仙も知らないわ……でも政府にいる中で一人、知ってるのがいるわね。でも松井と会うことは多分ないと思うわ。……そんな怖い顔しないで? 私から見た貴方と豊前の関係に近いものよ。その人とは特別仲がいいわけではないけれど、ただただ腐れ縁なの」

 そう言ったものの、松井江は表情を変えなかった。
 近侍として側に置いて見ているから自分のペースを崩されるのは好まない質とは思っていたが、これだけのことでここまで気を損ねるとは思わなかった。一度こうなると機嫌が元に戻るまでが長い。

「……まったく、手のかかる近侍ね」
「何か余計な一言が聞こえた気がしたけど?」
「なにも言ってないわ。さて、話してたら元気になってきたからそこのお茶菓子を食べて、お菓子も買って帰りましょうか」
「もう大丈夫なの?」
「あまり長居しても悪いでしょう?」
「そうだけど……」
「心配しすぎよ。もう本当に大丈夫だから」
「……」

 気分を変えようとお茶を飲むために居住まいを正すと、松井江の影に紙袋が見えた。辞書が一冊入るくらいの大きさで、少しマチの厚みがある。表面には、見覚えのある店のロゴが印字されていた。

「あら? 珍しい……何か買ってたの?」
「……そうだよ」
「それ文具店の袋よね。実務用の?」
「ああ。経費で落としたから、僕の給料から天引きしておくよ」

 声は相変わらず素っ気ない。というより、拗ねている。

「もう、桜きんつば買ってあげるから機嫌直して」
「主にとって、僕はお菓子ひとつで事なきを得られる包丁と同じだと?」
「そんなこと言ってないわよ。本当に機嫌が悪いけどどうしたの……?」

 短く息を吐いた松井江は苛立つように芙蓉の正面に向き直った。前のめりになって、いともたやすく指で肩を小突かれて、芙蓉の身体は再び布団に横たわる。
 じゃれ合うにしては程度が悪い。江の兄弟がよく豊前江の膝だの腕だのを借りる光景と比べると、明らかに一線を超えた触れ合いだった。芙蓉の顔の横についた白い手は、血管と骨が浮くほどの握り拳を作っている。

「松井」
「……」

 芙蓉が呼ぶが、何も言わない。何かを言いたいのだろうが、喉元まで出かかった声だけが微かに聞こえる距離感が松井江の中にある葛藤を現すようだった。

「松井、これはなに?」
「……僕のことを全部知ってるくせに」

 口を噤んだままだった松井江は押し殺した声で言う。室内の明かりが逆光となって表情は暗いが、皺を寄せた眉間が苦しそうに歪んでいた。

「なんのことかしらね」

 とぼけたように少し笑う。それを見て松井江の毛先が揺れた。

「ちっともお互い様なんかじゃない。そんなの本当に当てつけじゃないか……一方的に僕のことを全部知っておいて、僕には何も教えてくれない。あんまりだよ」

 本丸には、刀剣男士が唯一立ち入れない所がある。
 そこには刀帳という刀剣男士についての情報が詳細に記載されているものがあり、過去の経緯から刀剣男士として顕現して全ての審神者からの書き記された情報が集約されているものが保管されていた。
 当然芙蓉もそこに立ち入る機会は何度かあった。どこまで見ているかは口にすることはないから定かではないが、初めてその存在を知った時に松井江の隠し事も恐らく筒抜けだと本能的に感じたのだろう。いい顔をしていなかったのが印象的だった。無粋だと思ったのだと表情からわかった。
 それに対して芙蓉が審神者になる前のことは誰も、何も知らないのだ。
 近侍であっても芙蓉が自身についてもあまりにも話さないので何も知らないに等しい。瞳に去来するものも、家族のことすらも松井江には知る由もない。そういった話の流れになろうとすると話が逸されるか、姿が消える。近侍である松井江ですら想像するだけだった。それを歌仙ならまだしも、他の知らない誰か一人だけが知ってるという事実に静かに怒りを燃やしている。
 恥ずかしげもなく言えば、嫉妬だった。素直に教えてと言えたらいいのに、そうは言い出せずに不公平だと騒ぎ立てる自分に対しても、あまりにも無様で腹を立てていた。

「ひどい近侍。覗き見なんて、私がそんなことをする人間に見えるの?」
「手段を選ばない姿を僕は隣で見てるからね」
「内緒っていうのは、松井の口から聞くことに意味があるのよ」
「悪辣だよ」
「言えないのなら適当な嘘をつけばいいのに、いつか話すからって松井は言ったでしょう? だったら私は話してくれるまで待ちたいの」
「僕は嘘をつくことが嫌いだ」
「それは貴方の美徳よ」
「瀉血するよ」

 いよいよ爆発寸前なのか、声が低く、苛立ちが顕著になってきた。

「私のことなんて、そんな血を流すほどの大した話じゃないわ。あと……」

 下から伸びた手が不意に松井江の襟を掴んで引き込む。身体同士が密着して、不意打ちに近い形で芙蓉に覆いかぶさる。目を白黒させた松井江の耳元に唇を寄せた。

「情熱的なのは結構だけど、貴方ここが余所の民家だということを忘れてるわね」

 芙蓉に言われて思い出したのか、弾かれたように身を起こして離れた。目を丸くさせてすっかり忘れていた様子はもうただの人間にしか見えなくて、芙蓉は布団の上で丸まりながら身を震わせて笑っている。

「……本当に怒ってたんだけど」

 怒りの熱は急速に引いていったみたいだ。下火になった怒りは燻ってはいるが、焦っているような、複雑そうな顔をしていた。

「ごめんなさいね。でもこれ以上はなんか危ない気がして。私このまま抱かれるかと思った」
「主!」
「嘘よ。松井は怒ると面白いんだもの」
「そういうところだよ……」

 はあ、と長く溜息を吐いた。ひどく疲れたように項垂れているが、すぐに姿勢を正した。

「……一応言っておくけど、僕は中途半端な気持ちで近侍なんかしてないよ。動機こそ不純だと思うのは仕方のないことだけど、困難な決断をする人の傍にいることを自覚なしにここには立てない。誰よりも近い位置にいるし、その当てつけみたいな約束以前に僕が貴方のことを知りたい気持ちもわかってほしい。大事なんだ」

 耳を傾けていた芙蓉は寝たまま、笑うのをやめて静かに驚いていた。今の今まで、そんな心構えを持っていたなんて知らなかったのだ。

「貴方はさっきみたいに倒れたりしても、やたら強情だから僕が聞いても決して言わないだろう。だけど僕は僕で僕自身について言えないのは……喉元まで出かかってるのに、まだ踏ん切りが、心の整理がついていない。口に出したらそれを背負わせてしまう。自分で自分を許せないような、取り返しがつかないような気がして」
「松井は繊細だものね」
「また怒らせたいのかな」
「褒めてるのよ。そこが気に入ってるの。……だって気持ちがわかるもの」

 あまりに窄んだ声に初めて本心の一端に触れられた心地だった。だが次の言葉がなかなか出てこない。沈黙で芙蓉の痛みが知れるようだった。松井江は自分の言動を後悔するように視線を落とすと「すまない」と口にする。芙蓉はゆっくり首を横に振った。

「……こんなことを言うなんて。本当に私もどうかしてるわね。お互い、声に出す勇気もなければ受け入れる静穏もない……自分のことなのに、どうしたらいいのかずっと一人で考えあぐねてる」

 しばらく、松井江は芙蓉のことを見つめていた。
 知りたいけど、言えない。二人の間にある静寂は同じものだった。落としどころが永遠に見つからない事柄を背に抱えている。

「……やっぱり、もう少し休んでから帰ろう」
「業務が溜まってるわ」
「休養とサボりは違うよ」

 松井江の籠手がない方の手がゆっくりと芙蓉の頭に向かう。今度は小突くのではなく、髪の流れに沿ってそっと撫でている。
 心地よく感じるのは、やっぱり疲れていたんだろうか。硬く張り詰めていた神経がほぐれていくのを感じて、意識が暗転していく。これだけ安心した眠気は久々だった。
 さっきまであった不安感は、もう消え失せていた。



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