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ジム戦、vsカミツレ



「ではこれより、ライモンジム、ジム戦を始めます。
使用ポケモンは3体。どちらかのポケモンがすべて戦闘不能になったら戦闘終了です。なお、ポケモンの交代はチャレンジャーのみ認められます。」





「エモンガ、スポットライトの中へ!」
しなやかに伸びる腕から放たれたボール。しっかり聞き取ったその名前。私がカミツレさんと戦うにあたって、1番警戒していたポケモン。

そのエモンガのためにこいつを連れてきたんだから。




「バトル開始!」

「行け、アブソル!」


バトルの火蓋が切り落とされたことによってさらに大きくなる歓声に、「さっきまで自分はこんなところでジム戦をしていたのか」と、ギャラリーから改めて自分のいた場所を目に焼き付けた。今は自分ではなく、ハンナが立っている舞台だが遠くから見てもハンナに目には歓声に押しつぶされそうだとか緊張しているという揺らぎはなかった。


先手は鎌鼬とともに現れたアブソルだった。カミツレの腕から滑らかに滑空していたエモンガだが、大きく振り下ろされた角から発生した鎌鼬によって体制を崩してしまった。でもさすが「バトルをショーだ」と言っているだけあって、地面に直撃しまいと直ぐ様立て直すものの、その動きの先読みほど容易いものはなく、アブソルの両前足によって地面に取り押さえられてしまった。アブソルの目は血を思わせるように赤く、炯々たる眼でエモンガを見下ろしている。

余裕の表情を崩さないカミツレだが、序盤でこれだけ一方的に圧せられてしまっては、ジムリーダーとしてのプライドが許さないだろう。それに、戦いの阻害になりかねないあの技がくるとしたらそろそろだ。

アブソルや他の子に杭を打たれる前に、こっちから打ち付ける。



「アブソル!挑発!」







「間髪入れずって感じね、ハンナさん。ほんと"攻撃が最大の防御"戦法というか」
「エモンガのために連れてきたってことは多分、今回ハンナの手持ちにはメスのポケモンはいないってことだね」

だからバトル開始早々に引っ捕らえてからの挑発でメロメロ封じ。
"守る"では連続で防げないし、エモンガのすばしっこさだと数撃っちゃ当たるって訳にもいかない。
エモンガの身体では自分で羽ばたく鳥と違って風に乗って滑空するから、いつまでも飛べるわけじゃない。
絶対に休むためにどこかしら着地するそのタイミングに鎌鼬を当ててしまえば、いくらでも体勢を崩すことができるだろう。





「なるほど、あなたにとってのメロメロはそこまでの脅威だったのね。」
「そりゃあただでさえ男ばっかの所帯ですから。相手はなんたってジムリーダー様ですし、対策しないに越したことはないでしょう?」
「ふふ、そのジムリーダー様にここまで一方的な攻めを食らわせたあなた、なかなかすごいわよ?でもね、メロメロだけが手段じゃないわ。

今度は私があなたをクラクラさせる番。


エモンガ、エレキボール!」




「直撃は避けろアブソル!」

アブソルは、"アブソルにしては"もともとの素早さは結構ある方だとは思うが、相手が悪かった。
鍛え抜かれたエモンガと攻撃に特化し過ぎたアブソルの素早さ。エレキボールは直撃して、さらにアクロバットのコンボを決められてしまった。




「一気に状況悪くなったな…」
"コンボで終わればよかったんだけど…"
そう呟くハンナの目の前には、震える足でやっと立ち上がっているアブソルの姿。
静電気とは本当に、地味に厄介な特性だと痛感する。それと同時に思うことがひとつ。



"相ッ変わらずツイてないんだねえアブソル…"
さすが災いポケモンと言うべきなのか否か。


そう、シンオウで出会った当初からツイてないのだ。
通信交換でしか進化しないはずのメスのカイリキーの群れに、まるでカゴメカゴメのように取り囲まれて腰が抜けているという衝撃的な絵面の出会いに始まり、ナナカマド研究所に預けているハンナの仲間内でのエサの取り合い、もとい生存競争ではいつも貧乏クジ。女の子にはフラれる。当たる確率が極めて低い一撃必殺は、「これ実は自分から当たりに行ってるんじゃないのか」と言わんばかりの百発百中という脅威の命中率。エトセトラ。
当のアブソルも自覚してるのか、反らす目がなんとなく哀愁を漂わせている。



「まあでも、アブソルがやるべき仕事は充分こなしたよ。後は任せて、ありがとう。」
そうだ。アブソルの役割はエモンガを倒すことではなく、対策。それに加えてお釣りまで出る働きをしてくれた。



「さ、余裕を持って準備を始めようか。行け、ペンドラー!」

ズシン、と巨体がフィールドへ現れる。
"緊張で体が動かないとかはなしだからね?"と言えば、それに反論するかのように地面を慣らす。
初めてのジム戦にしては、充分すぎるやる気だろう。
ペンドラーの調整は十二分に行った。
ばか正直な攻撃型から見間違えるほど一新した。


「アブソルが稼いでくれた時間、思い切り使ってねペンドラー。」





(あちこちが傷だらけな体躯は、努力の印)
(相手から背けない目線は、自信の現れ)





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