臆病者のブレッドクラム
「ノボリ兄さん、」
「ええ、クダリ。言いたいことはわかります。」
今、目の前にある惨状。
鉄が溶け、爆発によりさらに大破した列車。
爆発は内部からの衝撃だから、派手に壊れるのは容易に想像できる。問題は前者の溶けている状態。
「たった一撃であの威力、凄まじいパワーと破壊力です」
「しかも列車を熱で貫通とはね…」
そう、ポッカリ空いているのだ。列車に。爆発痕のせいで少々荒れてしまっているが。
「女の子だったね。」
「ええ、女性でした。」
「誰だろうね。」
「誰でしょう。」
もう動くことはないであろう列車を後に、2つの同じシルエットは線路を辿ってその場を離れていった。
*
ロケット団事件の翌日、重い足を引きずって訪れたライモンジム。
”先に行ってて”とデント達にはわがままを言ってしまった。
正直気まずい。昨日のニャースの一言は、確実に3人の耳に入ってしまっているだろうから。
「もし、そのことについて聞かれたらどう回避するか」について思考を巡らせていたせいか気づかなかった。
「あっ、ハンナさぁ〜〜ん!」
なぜか、自分が来た方向から手持ちもバッグもなしにやってきたサトシが、私を見つけてしまった。
さて、どうしようか。
(私は臆病者だから)
(触れてもらいたくないものを遠ざけて遠ざけて、そして自分もいつか逃げ出すんじゃないかと。)
「……!」
「ハンナさん、やっと起きたんだな!今ちょうどバトルの一時停止中なんだ!一緒に行こうぜ!」
(ああ、いや、でも)
この繋がれた手は、そう簡単には解かれないだろう。
自分へ向けられた言葉に、私を刺すものは何一つない。
今だけ、この優しさに甘えてもいいだろうか。
「サトシ、」
「ん?」
振り向いて向けられた目は、私と違って痛いほど真っ直ぐで、引き込まれるほど綺麗で。
「私の話、いつか絶対するから…だからそれまで待っててくれないかな」
「当たり前だろ?」
"ハンナさんが自分から話す時が来るまで、俺達待ってるから"
さ、行こう?
そうして後ろから小さく呟いた"ありがとう"は、涙に濡れて溶けていった。