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勝ち取ったのは



「デントー、ライモンシティまであとどれくらい?」

「うーん…まだあともう少し歩くかな。この先にポケモンセンターがあるからとりあえずそこまで行こうよ」


"うぇ〜どんだけ遠いの?"
ヒウンシティから出てどれだけの時間が経ったのだろうか。
そろそろライモンシティについてもいいはずなのに思いのほかヒウンシティから結構な距離があったみたいだ。ところどころ話を飛ばしたのにヒウンシティから今まで20話は使ってる。長い、長すぎる。
ライモンタウンに寄り道したせいもあるとは思うがあれはあれでいい経験にもなったし

(──ニャースが来たのが予想外だったからなあ)
あの場所で出会わなくてもどの道ニャースが狙ってやってくるのは必然だったからまあライモンシティまでの辛抱だな
でもズルズキンの騒動じゃ意外と動いてくれたからその点では連れてよかったかもしれない。ズルズキンの言ってることがわからずにフルボッコなんていう結末にならなくて済んだ。あれだけ穏便にことを解決するために動けるならロケット団よりもっと有意義なところがあっただろうに。



(…とりあえずポケモンセンターに着いたら次のジム戦に向けて調整するかな)
ペンドラー達を連れて話し合わないと。


*



『──はい!今送ったわ。』
「ありがとうございます。アララギ博士」
『いいのよ、旅はどう?次はライモンジムに挑戦だったかしら』
「ええ、まだ着いてはないけど調整はしとこうかなって」
『その姿勢が大事よハンナちゃん!がんばってね、応援してる!』




「ペンドラー、がんばろ…う…?」
転送マシンに固定されたにも関わらず、小刻みに震えるボールを手に取ると、なにかに激しく反応してるかのように震えてボールから飛び出した。200kgの重さは伊達じゃなく、ズシンとセンター内に地響きがなるとともに柱に隠れていたニャースが飛び出してきた。
あからさまにガンを飛ばすペンドラーを宥めて振り返れば、しまったといいた気な表情のニャースと目線がかち合うと、ロケット団だった時の条件反射なんだろう。すぐさま隠れようとするニャースに対して、片足が行く手を阻んだ。


「おみゃーは口も悪いけど足癖も悪いのかニャ」
「残念、プラス寝相もだよ。なにコソコソしてんの」首根っこ掴んでこっちを向かせれば「別に?ライモンまで暇だからちょっとうろついてただけにゃ」
まあたしかに。ニャースからしたらほぼ用なしな寄り道だろう。
「あんたも呑気だね、柱に縛り付けて置き去りにしてもいいんだよ?」
「それだけは簡便だけどまさかズルズキンを人と勘違いしたおみゃーに呑気だなんて言われるとはおもわなんだ」
「だってフード被ってたんだから間違っても仕方ないでしょ?セーフセーフ」
「それにしたってにゃ〜…」

「なんだかんだで1番ニャースと馴染んでるね、ハンナ」
いつもの聞きなれた控えめな笑い方。かすかに笑いをこらえながら近づいてきたのはデントだった。
(『馴染んでる』ねえ…)これにはニャースも同じことを思ったようだ。壁に設けられた姿見に映ったハンナとニャースの表情が一致している。
そりゃあ腹探って約束した仲だ。でもそれはあくまで一時的な関係に過ぎなくて。表面に笑顔を貼り付けたニャース、ニャーストのそれに対して約束を信じきっているデントを見ていると、少なからず罪悪感は生まれてくる。


デント達には黙っといてあげるから、手を出すな。



(ライモンに入ったらそれこそ野放しになるってことだ)
それはライモンに入った瞬間暴露するのを解禁ということ
とは言っても、我ながら勝手な約束をしたもんだ。院内に張られたポスターのスローガンがやけに目に付く。自分の今してること、ニャースの手助けにしかなってないんじゃないのか。

「そう見えるだけだよ。どうかしたの?」
「とくにこれといった用じゃないんだけど、ペンドラーが出てたからなにかあったのかなって」
「ああそっか。ごめんごめん、戻ろうかペンドラー」
すっかりここが屋内だということを失念していた。最後にニャースをきつく一瞥して戻っていったペンドラーだけど、たしかニャースと対面するの初めてじゃなかったっけ?意外と勘が鋭いのだろうか。

「ペンドラーを手持ちに入れたって事は次のジム戦で出すのかい?」
「そのつもり。ほら、イッシュの電気タイプのポケモンて素早い子が多いじゃん」
「というと?」
「アイリスのエモンガとか、ラングレーのツンベアーを翻弄したバチュルとか。
ケニヤンのゼブライカだってニトロチャージで元々高い素早さを上げることだってできるでしょ」
「そういうことか、たしかにペンドラーは素早いからその点では対等に戦えるかもね」
「でしょ?じゃあ今から手持ちの子達と相談してくるから何かあったら外のフィールドにいるから呼んでよ」


「じゃあね、」そう言って入り口に駆けるハンナの後ろを見送ると、「あれ?」と上ずったような、突拍子もない声を上げたデントに「どうしたニャ」と声をかけた。


「ハンナは今何個ボールをつけてた…?」



*




「さて、みんな出てきて!」

昼にも関わらず、辺りは森に囲まれてシン、と静まったポケモンセンターのフィールド。両手いっぱいに溢れるボールを一斉に宙へ放つと、中から飛び出すように地に現れる。
大きい子から小さい子まで、陽気な子から臆病な子まで。いつも一緒にいる子から会うのも久しい子まで。
圧巻だなあ、ここまで大勢の子と一度に会うのはシンオウ以来じゃないのか。
行儀は悪いかもしれないがとりあえず地面に座ることにして、鞄から取り出したものを目の前に置いた。もの珍しそうに覗く子達の目には、いつの日かに賞金の代わりにと置いていかれた1枚のディスクが映っている。


「ドラゴンテール覚えたいやつ、挙手!」
まさに「ビシッ」、という効果音が似合う場面である。視界の端の窓からこの光景を見て肩をビクつかせている人が見えたが知らん振り。
目の前に並ぶ子達の手が限界まで伸ばされている。一部を除いて。
「さっすが私の子達だね!」見事に物理系のガチガチの攻撃型の子が率先して突き出る勢いで前に乗り出してきていて、その後ろではラプラスやムウマ、ロトムやキリンリキなどがあまり驚く様子もなく穏やかな目線を向けている。

「よし、技マシン使えるか判定始めようか!」


"まずハッサムからね!"
この言葉を筆頭に、技マシン判定の厳選が始まった


*



「──ハンナさん、何してるの」
「わ、技マシン判定の大厳選パーティ…?」
「パーティっていうより…お通夜?」


"そうかもしれない"

(お通夜…)
これまでの結果は惨敗。
「ねえねえ、覚える気満々であんなに張り切って手を上げたのに、覚えられなかった時ってどんな気持ち?ねえどんな気持ち?」目の前で項垂れるエルレイドの肩に手を添えてそう言いたげな目線を向けていたのは、ロトムだった。

君、決まって水曜は早く帰るんだね?という上司のあれにそっくりだ。そんな子に育てた覚えはないぞ、ロトム。
しかしこうもバッサリ切られるとは思ってなかった。エルレイドやハッサムはさすがに尻尾がないからなんとなく察しはついたけど、ここにいるほとんどの子が覚えられないなんて、予想外にも程があるぞドラゴンテール

「最後にあと残ってるのは…」




──フンッ

「…リザードンだけ、だね」
なんだかすっごい俺にまかしとけみたいな態度だけど。腕組んでズンズンとこちらへ歩み寄ってくる。
「リザードンなら覚えれそうじゃないか?」
「たしかに。尻尾も長いし十分鍛えてあるから攻撃も何発かは耐えられるから後攻でも問題なさそうだし…覚える?リザードン」

"覚えたい?"
技マシンをちらつかせた刹那、「あれ?」手にあった技マシンがなくなった。落としたかなと足元を見ると、横から聞こえた「リザードン器用だな」とのサトシの声。


──リザードンさん仕事早ーッ

さすが一瞬で技を会得できる技マシンなだけある。
顔を上げてみれば、あの一瞬でドラゴンテールを会得したリザードンが我が物顔で余裕たっぷりな笑みを向けていた。




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