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古代怪鳥




『──はい、今送ったよ』
「ありがとうシゲル、そっちはどう?」

アララギ博士とマコモ博士の研究所へ来てしばらくが経ち、機械の調整も終わり、後は「明日には着くだろうと」連絡をくれたサトシ達が来るのを待つだけになった今、サトシと会わせると約束したポケモンをナナカマド研究所からシゲルに転送してもらっていた。

『相変わらずさ。
………ところでハンナ』
「なに?改まって」
『君のポケモン達が最近血気盛んでね…』
「あ〜なるほど、わかったわかった。ごめんね〜血の気が多い子ばかりで」
シゲルの言いたいことは皆まで言わずともわかった。そう、血の気が多い子ばかりなのだ。しかし手持ちに入れられるのは6匹までなうえ育てたい子だって当然いる訳で。残された子達は最初は大人しいものの、たまに戦わせないと暴れ足りなくてさっきのシゲルの様子のように困ったことになるのだ。

『まったく…ハンナは血の気が多いポケモンを厳選してるのかい?』
「そんな訳ないでしょ。旅をしてく内にこうなっちゃったんですー」
『類は友を呼ぶってことか』
「なんか言ったか」
『いや?まあそれより化石復元成功するといいね』
「うん、本当に。なんてったって鳥ポケモンの祖先だから失敗は許されないしね」
『ドジ踏まないようにね』
「踏 み ま せ ん」
『どうかなあ?ハンナは毎回なにかしらやらかすから見てるこっちがヒヤヒヤするんだよ。気をつけてね』
「ハイハイ気をつけます、
……なんかどっちが年上なんだかわからないなあ」
『今更じゃないか。』
「あ〜もうなんか突っ込む気すら起きないよ。じゃあそろそろ切るね」
『わかった。頑張れよ』
「ん。シゲルもね、バイバイ」

(…相変わらず10歳らしくないなあ)
毎回のごとく口では勝てる気がしない。
あれでサトシやアイリスと同い年だなんて、ましてやあの年であんな研究成果を出せたなんて未だに信じられない。あのオーキド博士から受け継いだ血もあるが元々しっかりしてるし、素質もあったんだろう。だが本人談によれば前は博士の気を引きたくてだいぶやんちゃしてたみたいだけど、今のシゲルを見てたら信憑性に欠けるが写真を突きつけられたら信じざるを得ないのだ。



「(その写真の内容ですら10歳かを疑ったんだけど)
はぁー…
………

……………暇だ」



アララギ博士とマコモ博士の研究所へ来てしばらくが経ち、機械の調整も終わり、ナナカマド研究所からポケモンを引き取り、やることといったら本当に「明日には着くだろうと」連絡をくれたサトシ達が来るのを待つことだけになってしまったのだ。
サトシ達が来るのは恐らく昼過ぎだ、そこまで待つのも辛いけど、ぐーたら待つのもなんかいやだ。もし仮にだらけて寝過ごしてなんてところをアイリスに見られてみろ、冷ややかな目線では済まされないだろう。またぐちぐちと耳に痛い小言を聞かされるに違いない。

「…ラボに行ってみるか」


でもそんなわからないことを考えるよりもとりあえずやることを探すために調整のすんだ復元機械のある部屋へ行くことにしよう。



「というわけでマコモ博士、なにかやることありませんか?」
「と言われても…もう準備は済んだからこれといってやることはないのよね。」

そう言うマコモ博士の手元にはコーヒーが淹れられたマグカップに私物のパソコン、ディスプレイは絶妙な位置に居座るムンナによって遮られている。…ムンナで隠すくらい見られたくないなんて一体どんなものを見てるんだマコモ博士。

「…そうだマコモ博士、調整の時に思ったんですが復元装置のセキュリティちょっと甘くないですか?」
「えっそうかしら。充分だと思ったんだけど…」
「前にロケット団に狙われたんだから充分過ぎるくらいがちょうどいいですよ」
「まあ…手際いいわねハンナちゃん、じゃあちょっとお願いしようかしら」








──ナナカマド研究所
暗くなったディスプレイの下には、ポケモンと入れ違いで送られてきた紙の束。ナナカマド博士に渡してと纏められたレポートを掴んでパラパラと流し読みをしては感嘆の息を漏らした。…旅をしてるにも関わらずよくここまで内容密度の濃いものが書けるものだ。
グラフ計算など自分でさえパソコンに頼っているというのにそれを自分で計算して自分の手でグラフ化するなんて一体どういう頭をしてるんだこいつは…どういうことなんだ、毎回思わされる。それに加えて本人は電源落ちや手元狂うのが怖いからと機械から一歩置いてるが、ナギサのジムリーダーと絡んでたせいで僕から見たら機械操作の技術も並みじゃない。(その代わり料理の腕や普段の注意力に関しては最悪に等しい訳だが)

「(出来ることと出来ないことの差が極端すぎるんだよなあ…)……本当に大丈夫かなぁ」










「ハーイ、これが羽の化石!シッポウ博物館のアロエさんから提供していただいたものなの」

翌日、予定通り研究所に訪れたサトシ達へアララギ博士が羽の化石、最古鳥ポケモンのアーケンについて、復元後想像図の挿し絵を添えながら説明に移っているのを横目で確認しながら、マコモ博士の隣で調整に入っていた。


「へえ、アロエさんから!」
「…ただの石って感じ」

だが差し出された羽の化石に関心を示すサトシとデントとは打って変わって、あまり興味を示さなかったアイリスのこの一言にはさすがに「夢がなさすぎ」とつっこみたくなる。
まったく、と目頭に指を添えると目の奥がズンと重くなる感じがして眉間にシワを寄せた時だった、隣にいたマコモ博士から「昨日今日と画面に並んだ文字とにらめっこしてたら疲れるわよ、ハンナちゃん充分仕事してくれたし一段落着いたら少し休んできてもいいわよ」というありがたい言葉をもらったから、アーケンが復活したら少し目のために休ませてもらうことにした。

「私達の夢の実現よ!準備はいい?マコモ、ハンナちゃん!」
アララギ博士によるサトシ達への簡単な説明は終わったようだ。「いつでもどうぞ」と言うマコモ博士に「私も大丈夫です」と続けば、笑みで返してくれたアララギ博士が化石を装置に固定し始めた。
緊張はするが嫌な緊張感ではなく、変なプレッシャーもないむしろ良い影響をもたらしてくれる緊張感で、むしろ遺伝子情報を解析と装置の完全起動してる間にはしゃぎ回るマコモ博士に落ち着いてと促せるくらい落ち着いていた。
復元装置の僅かな隙間からはピンクの光が漏れだし、復元完了まであと少しだということが見て取れる。

「完了まで3、2、1…


システムは安定、すべて正常値よ。そして…
内部に生命反応!!」

復元結果にサトシ達含め全員が装置の扉に集まった。ハンナも例外ではなく、ビデオカメラを構えたアララギ博士の隣でさっきまでとはまるで違う緊張感が胸のなかで踊っているような、落ち着かない様子で扉が開くのを待っている。

「いい?開けるわよ」
「いつでもどうぞ!」


固唾を飲んで見守るなか、煙を吐きながら開かれた扉から鳴き声とともに現れたのは、描かれた想像図からそのまま出てきたかのような派手な原色の羽に身を包まれた古代のポケモンアーケンだった。

「すごい…!!マコモ博士、アララギ博士、ポケギアで写真撮っても…」


いいですか!?と言おうとした時だった。装置から飛び出したアーケンがハンナの肩に飛び乗ったと思いきや、高い位置で結われたサイドテールを口で挟んで力の限り引っ張りだした。それだけに止まらず、その場にいる全員がつつかれたり引っ掻かれたりなどの被害を受けることとなってしまった。
復活早々パニックを起こしたように暴れまわったアーケンの動きは実に忙しいもので、無色透明のガラス窓にぶち当たって大声で泣き叫ぶわで、サトシと頭同士でこんにちはをした後に力尽きて今は静かに眠ってしまっている。

「あぁ…ステキ…!
古代と現代が今時空を超えて同じ時をともに過ごしている…」

「さっきの今で切り替え早いですねマコモ博士…」
「ふふ、ようこそアーケン。
長い眠りから覚めたばかりでびっくりしたのね。



───…<これからゆっくり私達の時代を知ってほしいわ>』



「…大した連中ね。ムシャーナのエネルギーをこんな形で利用するとは」

盗聴アンテナから繋がるヘッドホンを外し、そう呟きながらニャースの方へと向き直す。部屋の窓際に僅かな日光が差す薄暗い廃ビルの中にロケット団の三人はいた。

「でもあの中にあのハンナってやつもいるわよ。どうする?」
『今の狙いは復元装置のデータを盗み出すことだから関係ない、実験が成功ならこっちもハッキング開始だニャ
すぐに復元装置のデータを盗み出すのニャ』
「すでに始めてるさ。だが、ネットワークには入ったが…研究所のセキュリティーが思った以上に手強いな…」


『時間が掛かっても構わん

ポケモン復元装置の設計データ、並びに実験記録をなんとしても入手するのだ』
パソコンを通じてゼーゲル博士より銘じられたこの一言に、三人の目は窓から見える研究所へと向けられた。





「っあ〜本気で禿げるかと思った…デントは大丈夫だった?」
研究所の廊下、復元に一段落着いたハンナは仮眠室へ、デントはアーケンのご飯を作るためにキッチンへと向かっていた。

「僕は平気だよ、…なんかこうして白衣着てるのを改めて見るとハンナって本当に研究者なんだな。」
「いや本当に研究者なんだけどね。じゃあ仮眠室は上だから、またなんかあったら呼んで?」
「わかった。


お疲れ様、ハンナ」




(休んだらサトシ達とアーケンにあの子を会わせてあげるか)



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