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一足先に




「──化石の復元?」


「そう!こんな貴重なことめったに見れるものじゃないしサトシ君達にとってもいい経験になるんじゃないかなと思うの
もちろん、ハンナちゃんにとってもね」

日が西に沈み辺りが静寂に包まれる頃、デントが食器の片付けをする横でハンナは静かに食後の時間を過ごしていた。草木のざわつきに混じってポケギアの電子音が耳に入り、ディスプレイを見ればアララギ博士からのテレビ電話だった。博士からの話はアロエさんから提供された『羽の化石』の復元を実現させるというもので、途中横割りして入ってきたマコモ博士からは「夢の実現にぜひハンナちゃんにも携わって欲しい」とのことだった。


「もちろんこちらこそお願いします」と、程なくして電話が終わったわけだが。


「また私だけ別行動か〜…」
「まあまあ、化石の復元なんてなかなかお目にかからないビッグチャンスなんだから仕方ないんじゃないかな」
「そりゃそうだけど…」


そう、化石の復元は簡単なものではない。何百何千、あるいは何万何億も前に生きていた生き物を現代に生きる化石として再び息衝かせるのだから、デントの言う通り化石復元のためなら別行動は仕方ないのかもしれない。

「……それもそっか、そうだよね。あ、それじゃあ私一緒に行けないからデントに研究所の場所教えるよ。ちょっとタウンマップ貸してもらっていい?」

「いいよ」



゛はい゛と手渡してからというもの、説明書を読んだわけでも使い方を教えたわけでもないのだが迷いなくスムーズに動く指にタッチタイピングを繰り返す手慣れた手つき。前になんでレポートや論文をアナログで書くのかと聞いた時、たしか融通の効かないものを扱うのは苦手だからと返された筈だが…

「(これは融通が効かないから苦手なんじゃなくて、たんにハンナのドジによるタッチミスなんじゃないのか…?)」
ドジった度合いにもよるが、多少のことは気にしない気質のハンナでもトラウマになるくらいのミスを連発してしまうのなら避けるのもわかるが。というよりそれくらいしか避ける理由が浮かばない。


「──羽の化石かあ…きっと古代の鳥ポケモンなんだろうね
シゲルも大分前に琥珀からプテラを復元したけどマコモ博士がいるってことはまた違うやり方で、…夢のエネルギーで復活させるのかな?」
「それはさすがに行ってからじゃなきゃわからないよ。ハンナは化石の復元を見るのは初めてなのかい?」
「ううん、2回目。
化石から復活した子なら今ナナカマド研究所に1匹だけいるよ」
「えっハンナさん化石から復活したポケモン持ってるの!?」

見ないと思ったら食後に軽い運動をしてたのか額にうっすらと汗を流すサトシが話に食いついてきた。

「なんの化石から復活したの!?」
「う〜んハンナは攻撃型から補助技でじわじわ攻める型のポケモンが多いけど比較的アタッカータイプだから攻撃の高いポケモンかな?」
「へえ、デントはよく見てるよねえ〜さすがソムリエだわ」
「えっいや…」
「攻撃が強いやつか…
……どれも強そうだからわかんないよ」
「あっはは、まあアララギ博士から化石復元を見ないかってお誘いきてるからその時に会わせてあげるよ」
「本当!?ていうか化石の復活が見れるの!?」
「ああ、さっきハンナのポケギアにアララギ博士から電話が着たときに僕達に見ないかって誘われたんだって」
「その準備に私は一足早く行かなきゃいけないんだけどね。」
「いつ行くんだい?」
「そうだね…行くんだったら今夜にでも行こうかな。サトシ達が見に来るんなら気合い入れてやらないとね…そうだ、アイリスは?」
「ドリュウズと寝るからって寝袋持ってどこかに行ったよ」


「…ならもう心配はいらないね。」
サトシの言葉を聞いて口元を和らげたと思ったら、スッと椅子から立ち上がりボールからリザードンを出した。

「デント、タウンマップに研究所の場所をマーキングしといたから
アイリスなら大丈夫だろうし、さっそく私は行ってきまーす」


地面から離れていくハンナにいってらっしゃいと手を振るサトシの横で゛いくらなんでも早すぎないかい!?゛と驚くデントに見送られて、博士から送られた地図が映ったポケギアを片手に、満月に照らされた森の上空を渡って研究所へと向かった。







──コンコン、


「!」

翌日早朝、漏れそうになった欠伸を噛み締めて復元に使うマシンの部屋へ調整のために入ったマコモの耳に、控えめなノックの音が入ってきた。
なにかしらと辺りを見回せば、庭に面した窓ガラス越しにこちらに手を振るリザードンに乗ったハンナがそこにいた。パッと眠気の吹き飛んだ明るい表情になったマコモが、夢見る乙女思考である彼女らしいピンクのノートパソコンを片手に窓の方に近づきなにやらキーボードでなにかを打ちこんでディスプレイをハンナの方へ向けた。


<この窓ガラス開かないからちゃんと玄関から入ってね>






「久しぶりねハンナちゃん!夢の跡地ではありがとう、会いたかったわ!」
「あはは、お久しぶりですマコモ博士、今回は化石復元に呼んでくださってありがとうございます!」
「やだ堅苦しいから普段通りのしゃべり方でいいわよ!」


(同じ博士とはいえイモリ博士とはえらい違いだマコモ博士…)
マコモ博士がイモリ博士みたいな感じだったらそれはそれで嫌だが、それよかサンヨウシティで会った時より幾分かテンションが高くないだろうか。
そうこうしてるうちに、他愛ない談笑を交わしてるハンナとマコモのところへ扉の奥からアララギ博士がやって来た。


「アララギ、ハンナちゃん来たわよ!」
「あらハンナちゃん早かったわね」
「アララギ博士!お久しぶりです!」
「連絡したのは昨日だったのに…夜通しで来たから眠いでしょう。仮眠室があるからまずはそこで寝てきなさい」

「じゃあお言葉に甘えて…リザードンを回復させたらちょっと寝てきますね」



このちょっとの一言が災いして
博士2人がハンナの寝起きの悪さを思い知らされるのは数時間後のことだった。




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