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決意新たに





新たな決意を胸に、
中断していた修理の作業を再開し、ラストスパートを終えて「博士遅いな」と黒くくすんだ作業用の軍手を手から外した。
ふぅ、と一息ついて先程リザードンを戻したボールの形を確かめるように指を滑らせる。
…これからは思いっきりリザードンと戦おう。ただ存外気紛れ気質なことだからリザードンがやりたいと思った相手に限られると思うが。

「──それでもあとで博士にお礼言わないとね。」



(これからもよろしく、リザードン)
つ…、と指先を丸い表面から離した途端、部屋に続く廊下の奥からバタバタと忙しない足音が近づいてくることに気づいた。
足音の正体は博士とサトシ達で、聞けばロケット団にリグレーを奪われたとのことで、修理を終えたばかりの円盤で追いかけることになったのが、今のこの危機的状況から数十分前のこと。


置き土産だ、と。ロケット団のデスマスによるナイトヘッドがポケモンでもない、技の耐性皆無の円盤に向けられて円盤の飛行機能がみるみるうちに停止していく。墜落するなか地面すれすれのところでなんとか持ちこたえてくれたと思ったが高度は下がる一方で、この先にある崖を越えれれば助かるのだがそんな余力ありそうにもない。


(リザードンの腹太鼓でパワーを最大まで上げてもこんなスピードで墜落する円盤なんかを持ち上げられない!)
できたとしても体力が大幅に削られてしまうからリスクが高過ぎる。


崖に差し掛かり、力尽きた円盤が重力に従って下へ下へと墜ちていく
──今度こそ本当にもうだめだと柵を握る手にこれでもか力を入れて固く目を瞑ったその中で、ガクッと斜めになっていた足場が平行になり、気持ち悪いくらいの浮遊感もなくなった。

え?と目を開けば、上に流れる岩肌で埋め尽くされてた光景はそこにはなく、あったのは博士の自宅兼研究所だった。



「──お前のテレキネシスのお陰で助かったわい。」
「でもせっかくの円盤が…」
「(そうだよねえ…)」

口には出さないものの、一応私も修理で触った分だけ円盤が壊れたのが残念で仕方がない。


「壊れた物はしょうがない、また作ればいいんだ」

「………!」


チラッと見えたデントの横顔。博士の言葉になにか思うことがあったようで、小さく柔らかい笑みを浮かべていた。

「博士、円盤が完成したらどうするんですか?」
「そうだな…できることならリグレーを宇宙へ送り届けたいと思っている。」
「宇宙へ…ですか?」
「うむ。リグレーが宇宙から来たというのも、宇宙へ帰りたいというのもわしの思い込みかもしれん。だが…それは宇宙へ行けばわかることじゃ」

「…すごいな!」
「うん、夢がある!!」
「リグレー、その時は一緒に宇宙へ行こうな…

……!」



「リグレーとっても楽しそう!」
「今のってリグレーの記憶?」
突然頭に流れたイメージは博士とリグレーが出会った頃を始めにとしたこの半年間の思い出だった。

「でもなんでこのイメージを送ったんだろう」
「……(そうだ忘れてた…)」なんでリグレーはあの夜私にイメージを見せたんだろうか


「うーん…もしかしてリグレーは宇宙へ行くよりもイモリ博士とこのまま暮らしたいんじゃ…」

デントの推測が見事的中したのかそうでないのかはわからないが、三色の光を点滅させたリグレーの様子を見た博士はそうなのか?と問いかけるが、やっぱり未だ誰にも解明されていない点滅パターンでの返答。

「──まあええわい、とにかくこのまま一緒に暮らしていこう。お前達、さっきの騒動で疲れただろう。行くんなら一休みしてから行ったらいい」





「イモリ博士」
日が西に傾きかけた頃、自宅の前に佇む壊れた円盤のの前に立つイモリ博士の元にやってきたのはハンナだった。


「どうした、もう行くのか?」
「はい、今サトシ達が出る準備をしてるんでその間に個人的な挨拶しようかなと思って…───イモリ博士、ありがとうございました。」
「フン、後輩の相談くらいいくらでも乗ってやるわい。だからハンナ、今お前が何をしたいのかを大切にしなさい
…研究にバッジ集めと若いくせして大変だが頑張れよ」


「はいっ!
あ……そうだ、実はUFOを見た夜に姿は見てないんですけどリグレーにイメージを送られたんですよね…ずっと謎だったんですけどなんでだと思います?」

「…お前のことだ、多分夜中に一人で悩んでたんだろう」
「あー、否定はしませんが答えになってなくないですか博士…」
「待て待て、まだ続きがある。リグレーの特性はテレパシーだ、どんなイメージを送ったかはわからんがきっとお前のことを元気づけたかったんじゃないのか?」

「私を…」
あの時点では全く面識のない見ず知らずの筈の私を、一人で泣いてた私を元気づけるためにあのイメージを送ったということなのか。

「リグレーめちゃくちゃいい子ですね」
「ハッ、今更じゃな」
「…そんないい子なリグレーとの夢を叶えてくださいね」

「ああ、そうだな。
お、あっちは行く準備が整ったみたいだぞ」
「本当だ。では博士、私はこれで!」



゛またいつか遊びに行きますね!!゛
去り際に振り返り、大きく開いた口でそう言えば、いつの間にか博士の近くまで来ていたリグレーと博士が控えめに手を振ってくれた。
向こうで待つ三人の影を追いかけて、まだまだ遠く道の長いライモンシティへと向かった。

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