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消えたホタチ




『…おや、こんな年寄りに電話だなんて珍しいと思ったらハンナじゃないか』


ポケギアを通して聞こえるのは、老齢だが人を落ち着かせるおだやかな声音。
今ハンナがいるのはキャンプを張るには打ってつけなとある草原の木陰。現在サトシは『ケニヤン』という少年にバトルを挑まれてバトル真っ只中である。

「お久し振りですタツ婆さん!相変わらずお元気そうで何よりで…早々で悪いんですが、ガブリアスは元気にしてますか?」

『ガブリアスは元気すぎて逆に心配なくらいさ』
「ならよかった!!それと流星群はどうなってますか…?」
『流星群はやっと一度に3発発射というところじゃな、まだまだかかりそうだけど気長に待ってやりなさい』
「はい、これからもガブリアスをよろしく頼みます。タツ婆さん」
「ホホ、こんなに教えがいがあるとわしも腕がなるわい、必ず完成させてみせるからな。
お前さんもガブリアスに負けんよう旅を頑張るんだよ」


「はい…!」








「──…っていう電話の最中に、ミジュマルのホタチがどこかに蹴り跳ばされていったということね…
なんか騒がしいと思ったよ」

ハンナが見てない間にあった出来事をデントとアイリスのわかりやすい説明を聞いた末に゛こりゃ難儀だね…゛と苦笑いすればハンナの足にミジュマルが引っ付いて『そんなこと言ってないで一緒に探してよ』と言わんばかりに涙目で引っ張ってくる。可愛いミジュマルのためだ、ハンナも草を掻き分けてホタチを探しに入ることにした。
…が、小さいカブルモやムウマの協力を借りて探すが全然見つからない。

「ねえ、本当にこの辺に落ちたの…?」
『ミジュ…』
「だと思うんだけど…ミジュマル、ここはアイリスの考えに聞いてみようぜ!」
あんなに小さいホタチが探す人数が増えたからといってそう簡単に見つかるはずもなく、アイリスの提案を聞くことにして一時休憩に入ろうとした。



「ミジュマル、これならどうかしら。
このイアの実を使ってみて!きっとうまくいくわ!」
「本当だ、ちょっとホタチっぽいね」

「(木の実は強度的に危ないんじゃ…)」
それに水分があるから通電するだろう…ミジュマルはすでにイアの実を片手にホタチみたく素振りをしてはホタチとしての感触を確かめている。


「木の実はやめたほうが「どうだミジュマル、ピカチュウの10万ボルトで試してみるか?」

(うわあ…)」


なんという死の宣告。
ミジュマルに至ってはなんの戸惑いや疑いもなく笑顔で頷くからもう止められないだろう

デントの隣で静かに両手の平を合わせて心のなかで「ご愁傷さま…」と呟く。
目の前に繰り広げられる実験現場では、案の定無惨にも丸焦げて真っ二つにされたイアの実と、同じく焦げたミジュマルが横たわっていた。
その後もデントのクロッシュ、イシズマイ特製のホタチ型の盾と再度に渡り実験は繰り返されるも、これと落ち着くものはなく、今は疲れて木陰で横になっている。


「やっぱり自分のホタチじゃないとダメなのかな…」
「まあ…ホタチがあってこそ本来のミジュマルだしね。」

゛そうだよなあ…゛とハンナの発言に頭を押さえるサトシにアイリスが追い打ちをかけるようにさらに続けた。

「ていうか…ホタチに頼ってばっかだからダメなんじゃない?」



「そう言うなよ」とアイリスの一言にサトシが反論するが、ミジュマルには厳しいけど否定はできない。サンヨウジム戦、シッポウジム戦──そして見てはいないが今回のケニヤンとのバトル。
今までミジュマルのバトルを見てきたが、ホタチがなければ、ほぼ゛なにもできない゛に等しい。自身の力ではなく物に頼りすぎというのは今のミジュマルに当てはまる。


「!、守りのテイストよりも攻めのテイストを高めてみれば?」
「え?」
「ほら、ハンナとアロエさんのシッポウジム戦でもあっただろう?゛攻撃こそ最大の防御゛って言うじゃないか」
「そういやあったねそういうの」

懐かしいシッポウジム戦、そういえばあそこには図書館がある。シキジカとメブキジカについての本ならあるのではないか…?イッシュで一番大きい大図書館ならリーフィアやグレイシアの進化岩に関しての本もあるかもしれない。
(また近いうちにでも行こうかなあ…)シッポウシティならヤグルマの森も近いし丁度いい、下調べもできる。しかもネイティが場所を記憶しているからテレポートで移動できる。今回の調査は結構やりやすいんじゃないか。好条件がこれ程までに揃っていると少し怖いがいいに越したことはない。



「ハンナさんさっきからニヤニヤしてるけど…」
「そこはニコニコって言ってあげようかアイリス
…きっといいことでもあったんじゃないかな」


(いつ行こうかなー)
一旦考えにのめり込むと周りが見えなくなるらしい。気づいたらデントの言うニコニコと笑った顔面で、10万ボルトに吹っ飛ばされたミジュマルを受け止めていた。





「本当、呑気でドジって致命的な組み合わせよね
危なっかしいというかなんというか…ハンナさんは注意力が散漫しすぎよ」
「まったくです…」

本当に、まったくもって何も言い返せない。年上ながらなんと情けない、最近本格的に年上と年下という立場が逆転してるような気がする。
心なしかシュン、と落ち込んで見えるハンナにアイリスが言い過ぎたかもと慌てて口を塞いだ。

「そう落ち込まないでハンナ、アイリスだって心配だから言ってるんだよ。まだちょっと鼻が赤いけど大したことはないから大丈夫だよ」
「ありがとうデント…」


ホウエン地方にいる友人のアスナ、状況は違うけど本来フレンドリーなのに威厳を出すためにキャラを作ろうとしたアスナの気持ちが今ならわかるよ…年下とはいえこうもズバズバと言われると辛いものがある。
まあアイリスの言ってることは事実だから仕方がないことなのだが。


「(今に始まったことじゃないし、好きでなったことじゃないものを悩んだって仕方がない)」
どう付き合っていくかが大事だ。

「よし、ちょっとホタチ探しに行ってく「待った!!
行くなら晩ごはん食べた後にしようかハンナ」

いざ行こうと立ち上がったハンナを間髪入れずに制したのはデント。

゛君を探すのは意外と大変なんだよ゛




ホウエン地方にいる友人のアスナ、ちょっと私も威厳あるしっかり者のキャラを作ってみようかと思います。















「──見つからないなあ…」

仰げば白い満月が浮かぶ黒い空。辺りは木々に囲まれていて、すでに明かりがなければ迷いそうな時刻。
場所を少しずつ移動しながらのホタチ探しは未だ難航していた。はぐれて迷子になると困るからポケモン達はボールの中で休息中、それにしても一人であんな小さなホタチを探すのは思ってた通り結構腰に来る。グッとその場で体を伸ばすと、ふと月明かりできらきらと反射する湖面が目に入った。



「へえ、いいとこ見つけちゃったなあ…」
あまり大きくはないこじんまりとした湖だが、水が澄んでて水深は浅く、夜ということもあり静かだ。
(こういうところで本読みたいなぁ…)だが生憎今は本を持っていない。ちょっと休んでから今日は戻ろうとブーツを脱いでひんやりとした水に足を浸けた時だった。


「あれ…ミジュマル?」

2つの草影に挟まれるように腰かけていたのは、ホタチをなくした──湖面を眺めるミジュマルだった。




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