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母に憧れて




──エミーとクリムガンの件から数日。
まだまだ離れているライモンシティへ向かう道中、ランチを終えた昼過ぎに少し休憩を取ろうとハンナ達は木陰で一休みをしていた。


デントはクロッシュを、サトシはバッジを磨き、アイリスは木の上でキバゴと木の実を食べている。
その中でハンナは幹にもたれてポケギアをいじっていた。お腹の上にはカブルモが気持ち良さそうに寝息を繰り返している。

「なんか最近動き悪いな…」


この静かな心地よい一時にハンナがそう不満を漏らせば、磨く手を止めて「なにが?」と返すデント。
サトシは磨き終わったのかカバンにケースを締まってポケギアのディスプレイを覗き込んできた。
黒い画面の中心には読み込み中の文字が。たしかに動作としては早いとは言いがたい。


「シッポウシティでポケギアをアップグレードしてくれたのはよかったんだけど…データが重すぎたみたいでね。
フォルダを整理しようとしても画像がなかなか表示されなくてさ」

そうハンナが言い終わるのと同時に、パッと黒い画面から一変したポケギアの画面を見たサトシが「あ、」と指を差しながら声をあげた。
「これって小さい頃のハンナさん!?ヒトカゲとミニリュウがいる!」



「「ミニリュウ!?/小さい頃のハンナ!?」」

タイミングは全く一緒だけど食いついたところは全く違った2人が、光の速さでディスプレイを覗くと、そこにいたのはミニリュウとヒトカゲに挟まれて笑っている女の子の写った写真が「写っている」画像だった。



「なんで写真をさらに撮ってるんだ?」
「ああ、旅してるうちにボロボロになっちゃって…だからポケギアで撮ってから写真はボックスに預けてるんだ」


たしかに写っている写真の四隅がよれている。へぇ〜、と再びポケギアに目をやるサトシ達をよそに、一人興奮気味でディスプレイに映る写真に釘付けだったアイリスにひとつ疑問が浮かんだ。
「あれ…ねえハンナさん、このミニリュウちょっと小さくない?もっと180cmくらいあるポケモンじゃなかったっけ」

「その時はまだ子どものミニリュウだったからね。」

旅に出る前のハンナがよく遊びに行ってた、トキワの森の中にある湖にいたミニリュウ。ポケモンの成長は早く、今ではハクリューになり写真に写っているサイズだったとは思えないくらいでかくなっている。
「あ、長いって言うべきかな?」

「でもカイリューには進化してないのね!」
「ハクリューはあの姿が気に入ってるみたいでね。青い体からいきなりオレンジになるのといきなりずんぐりな体型のカイリューになるのはなんかハクリューにとって気に入らないみたいで…」
「ええ〜カイリューかっこいいのにー…」

「まあハクリュー自身がそれがいいって言ってるからね。
…それにしても意外だったのはハンナって女の子にしてはかなり身長高いけど昔はかなり小さかったんだね」
「好きでこんなサイズになったわけじゃないからね。
旅を始めたのが9歳だったっていうのもあるけど、旅の途中で急激に背が伸びたんだよ」
「ハンナさんよく食べるものね〜…あ、でも身長高いせいもあって足は長いわよね」
「でっしょ〜?
アイリスも私みたいに食べればなれるかもよ」



普段アイリスには呑気やらなにやら言われっぱなしだったから褒められて少し調子に乗ったハンナが、前に買った雑誌に載っていた『カミツレ』さんのポーズをとってドヤ顔で言えば
゛あんな食べ方しなきゃいけないなら私は今のままでいいわ゛と言われてしまった。


アイリスの言葉はたまに刺々しく容赦がない。
「あ…、そう」と、顔に影が落ちたハンナなど気にせず、その後アイリスが普通に「ハンナさんってハクリュー意外にドラゴンタイプのポケモンいるの?」と聞くあたり悪気なしで素で言ったのだろうか、だとしたら恐ろしい子だ、アイリス。

「うーん、ドラゴンタイプはそんなにいないかな。カントーじゃミニリュウ系統しかいないから稀少だし、ハクリューのほかにガブリアスがいるけど今シンオウのタツ婆さんのところで修行中だし…ハクリューとガブリアスの2匹だけだね」

「「修行中?」」



アイリスとデントが頭にはてなを浮かべる横で、「タツばあさん懐かしいな、ピカチュウ!!」と久々に聞いた名前に懐かしむサトシとハンナに2人だけで楽しんでないで私たちにも教えてよ!と頬を膨らませたアイリスと、うんうんと頷くデントにハンナとサトシがタツ婆さんについて話始めた。


「タツ婆さんは流星群を教えてくれる人なんだ」
「そう。で、私のガブリアスが今まさにその流星群を獲得しようと頑張ってるってこと!
…ただかなり時間がかかるだろうって言われてさ、特殊攻撃のセンスが本当になくてなかなか手こずってるみたいなんだよね―…」



タツ婆さんにガブリアスを預けてそれなりに時間も経つ。流星群の獲得難易度は数少ないドラゴンタイプの技中トップに君臨する最高レベルだ、特殊攻撃がてんでダメなガブリアスがそんな流星群を覚えるとなるとタツ婆さんの「かなり時間がかかる」という言葉にも納得できる。


「…元気にしてるかな」



遥か遠く離れたシンオウにいるガブリアスを始めとした自分のポケモン達。茂る葉の隙間から覗く空を仰ぎ見ては思いを馳せる。


(今度タツ婆さんに電話してみよう。)
たしか完成したらいつでも教えてもらえるように番号は登録してたはずだ。
「そうなんだ…でもなんでそこまでして流星群を?」
そうハンナへ問うデントに、膨大な登録数のアドレス帳からタツ婆さんの名前を探しながら「ああ、それはね…」と答えようと口を開くハンナ。3人は静かに耳を集中させた。

「研究所で見たチャンピオン防衛戦でのシロナさんのガブリアスの流星群を見てね









大方自分の母を見て憧れたんだよ」






──木陰にもたれて木漏れ日を感じる静かな一時
その心地よい静けさは仲間達の驚きと、それによって飛び起きたカブルモの虫のさざめきにより打ち消された、とある昼過ぎ






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