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ビートルバッジと




「冷凍ビーム!」

「──守るだ」


頬に触れる空気がひやりと一気に冷え込む
冷凍ビームの威力は申し分ないが守るによって防がれてしまった。


「…接戦だな」
「ラプラスって生まれてからそう時間はたってないんでしょ?
…ここまで戦えたなら十分よ」
「ハンナさん、ラプラス頑張れ…!」


アーティさんの切り札のハハコモリ、ハハコモリと比べたら生まれたばかり同然の子供のラプラス。力量は明らかだけどラプラスのやる気を買った以上一六の勝負に出るしかない。

「ハハコモリ、糸を吐くだ!」
「10万ボルト!!」
顔から胴体までぐるぐる巻きにされ、10万ボルトでなんとかダメージを与えようとしたが糸の粘着性が邪魔して大したダメージを与えることはできなかった。
「悪足掻きだね。一か八かって感じだ
──ハハコモリ、リーフストーム」


「…ッラプラス!!」
糸で動けないから避けることもできない、顔もぐるぐるに巻かれてるから見ることも、冷凍ビームで迎え撃つこともできない──まともにリーフストームを受けてしまった。
爆風が晴れたフィールドには力なくぐったりと目を回したラプラスと悠然と構えるハハコモリがいた。

「ラプラス戦闘不能、ハハコモリの勝ち!」



ボールを前に差し出し、赤い光がラプラスを包み込みボールへと戻っていく。
「ホイーガを倒しただけでも本当によくやったよ」
゛ゆっくり休んで゛と、労いをかけてホルダーに戻し、次のボールに指を添えた。


「ハンナさんが負けたところ初めて見たかも。」
「そういわれれば俺もだ」
「うん…まあハンナも完璧じゃないんだから負けることだってあるさ。」


少し腰のボールにチラリと目をやり、その中のひとつを握って空に放り投げる
「ロトム、もう一度お願い!」
ボンッと軽快な音とイヒヒという笑い声とともに宙へ飛び出したのはロトムだった
「三体目を楽しみにしてたんだけどね…まあいいさ

リーフストーム!」


「避けて影分身!」
ハハコモリのリーフストームを持ち前の素早さでするりとかわして幾重にも分身が現れる
「糸を吐くで分身を消すんだ!」
「糸に注意して10万ボルト!」
ハハコモリを取り囲むように、渦巻きながら背後から電撃を浴びせたがハハコモリの素早い反応でラプラスのように糸に捕まってしまった。


「ああっ捕まっちゃった!!」
「あのロトムは水タイプも持ってる…これはまずいよ」
「ハンナさんどうするんだろう」



「………っ」

「ハンナ、君のラプラスもロトムもよく育てられてるね。
でもそろそろフィニッシュとするよ、リーフ…「アーティさん!!」

…なんだい?」


「ヒウンシティって中古屋あります?」





「「「「「…………。」」」」」
至って真面目な表情で、突然の質問にアーティをはじめとしたハンナ以外の全員が言葉を失った


「いきなりアーティさんの指示を遮って何を言うかと思えば…本っっ当に呑気ね!!」
「試合中になに言ってるんだ?」

さっき自分でアーティさんに言った言葉を忘れたの!?
と、沈黙を破ったアイリスとサトシの口を横にいたデントがサッと手で塞いだ。
「なにすんのよデント!」
「見てれば多分ハンナのやることがわかるよ2人とも、だから今は黙ってみてようよ」
何がなんだかわからないと言った表情なアイリスとサトシだが、自分達が騒いでも仕方がない。ひとまずデントに従うことにした。


「あるけど…それがどうかしたのかい?」
「いえ、あるとわかったならいいです。
止めちゃってごめんなさい、続きどうぞ?」

些か腑に落ちない様子だが気を取り直して再開することにした。
「うん、じゃあお言葉に甘えて──ハハコモリ、破壊光線!!」



(破壊光線ならいける!)
「よっしゃ!ロトム、洗濯機から出ろ!!」
破壊光線が命中する寸前、幸いぐるぐる巻きにされていない隙間からからロトム本体が出てきた。空になった洗濯機は破壊光線によって粉々に粉砕され、フィールドや辺りに飛散した。フォルムチェンジを解いたロトムは水タイプがなくなりゴーストタイプに戻る。これで破壊光線は撃っても意味はない

「思いきった作戦に出たね。でも僕もジムリーダーとして粘らせてもらうよ!」
片方の手段を無くしたふたつのうちのひとつの技が、ましてやあんなモーションのでかい技だ、来るとわかる攻撃を避けるのは容易い。

「来るよロトム、接近して!」
「リーフストーム!!」


向こうは接近するロトム目掛けてリーフストームを放つが、フォルムチェンジを解いたロトムの素早さであっという間に間合いを詰めてしまった。

「しまった…!」


「しっかりチャンスをモノにしてよロトム!10万ボルト!!」
ハンナの口が弧を描き、そう言い放った直後、眩しい程の電圧がフィールドを覆った。
眩しさに瞑った目を開ければ、フラフラとしたハハコモリがトサッと土埃をたてながら倒れるシーンだった。

審判の片手が高々と上げられる
「ハハコモリ戦闘不能、ロトムの勝ち!

よって勝者、トキワシティのハンナ!!」


「──勝った…ロトム!ラプラス!お疲れ様!!」
ラプラスのボールを片手に飛び込んだロトムを抱き締めたが、目の前にやって来たアーティに肩を掴まれた。

「えーっと…アーティさん、勝利の余韻に浸ってる途中だったんですが?」
「浸ってる中悪いとは思ってるけど


フィールドに散らばった洗濯機の破片、掃除してねん?」

ピシリと固まる私の顔とは対称的に、アーティさんはとてもいい笑顔でした。








「て…手伝ってくれてもよかったんじゃない!?」
ハンナが破片を回収してる間にサトシはバッジを受け取って談笑していた。みんな意外と薄情である。

「手をケガしてるにしてもジョーイさんから大丈夫って言われて、洗濯機壊す前提で掴んだ勝利なんだから、自業自得でしょー?」
「そんなあ…もう終わったからいいけどさー…疲れた」


重い足取りで花壇の縁に背中を預けて冷たい地べたに座った。もう腕も足も疲れて一歩も歩けない、縁に頭を乗せ上を見上げた。
「ハンナさん、スカートなんだから気をつけないとパンツ見えるわよ」
「いいよ面倒くさ、心配しなくとも誰も見やしないって…痛っ」
「まったく…なんでこうバトルの時みたくキリッとしないかな」
「アイリスさ…最近私が歳上っての忘れてない?」
「それも自業自得でしょ!」
「なにがよ!?」
「日頃の行い」
「うっわ傷つくわー…」


「これがガールズトーク…なわけないか」
「ガールズトークってなんだ?」
「なんでもないよサトシ
…、アーティさん?」
苦笑いするデントの横をアーティが颯爽と歩いていった。手にはハンナとのジム戦前に持ってきた大きな袋を大事そうに抱えている。

「ハンナ、もう疲れは取れたかい?バッジを渡そうと思うんだけど」
「ああ、もう大丈夫です…でもバッジってそんなに両手で抱えるほどでかかったっけ…?」
疲れで頭が回ってないハンナの発言をアーティが快活に笑い飛ばした。


「あはは、違う違う
これは君にプレゼントだよ」
「プレゼント…?」
手渡されたそれは袋越しにわかる丸み
袋の中を覗けば今まで何回か見たことのある楕円状の物体


「タマゴだ…!!」
「そう、進化について調べているんならきっと喜ぶと思ってね」
「嬉しいけどもらうようなことなんかしたっけ」
「フシデ騒動の時のお礼がしたくてね。
…誘導もそうだけど、市長に必死に説得してくれてありがとう。ハンナ」
「え、あ…ど、どういたしまして?」

こう改まれるとなんかこっ恥ずかしい…
タマゴを抱く手にやんわりと力が入り、どう返事するか迷っていたら頬に軽い感触。え、と目を見開いたのと同時に背後からアイリスのけたたましい声
サトシは見てなかったらしい、なんだなんだとアイリスやデントに尋ねている。

「…………」
「ハハハハ、そんな固まらなくてもいいのに
あ、タマゴ生まれたら連絡欲しいから番号登録しといてねん」
これ番号書いた紙、と片手を取り握らせた。
ハンナが固まってる後ろでは固まってるのがもう一人。

「ちょっとデント、なにあんたまで固まってんのよ!」
゛たかがほっぺにキスしただけでしょ!?゛と先行き不安になるアイリスであった





「と、まあそんなこともあったけども
ビートルバッジゲットだぜ!」
「あ!俺の真似するなよー!」
ヒウンジムをあとにした今、回復と手持ちを預けるためにポケモンセンターへと向かっていた。

「ていうかハンナさん立ち直り早くない?」
「だってあれはお礼でしょ?
挨拶みたいなもんでしょ?」


゛なら気にすることなんかないでしょ?゛
さすがにいきなりだったからびっくりはしたけどね、ニッと笑って言い放ったハンナが思い出したように抱えていた袋からタマゴを覗かせた。
「ラプラスに弟か妹ができるのかあー…」


゛どんな子が生まれるんだろう゛
新しい命の誕生を楽しみに、笑みがこぼれるハンナを見て3人は笑い合った。


小さい仲間が生まれるのは、もうちょっと先の話




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