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ジム戦、vsアーティ(後)




──ヒウンジム戦
互いに見る顔は笑ってはいるが、笑みに含まれるのは剣呑さを含んだ目線

「かなり私情含むけど正直な話、僕ハンナとのおしゃべり結構好きなんだよねん。
ジム戦終わったらちょっと時間くれるかい?」
「含むどころか私情しかないじゃないですか
…まあ手持ちの子達の回復してる間ならいいですよ」
「決まり、じゃあ2戦目といこうか。

ホイーガ、毒針だ」


いきなりやる気を削ぐような発言直後の毒針、これも地味な作戦なのか定かではないが、体力の高いラプラスを毒でジワジワ追い詰めようというのは手に取るようにわかる
「波乗りで呑み込め」

ラプラスの足元から渦を巻くように大きくうねる大波が生じ、毒針とホイーガを呑み込むが、ハードローラーの回転で波が二つに避けた

「おおう!さすがホイーガ、まるでモーゼの奇跡みたいだ」
「うわ…懐かしい(ポケモンスクールで聞いたことあったなそういうの)」
助手として就く前にナナカマド研究所テンガン山支部のポケモンスクールで体験授業を受けたことがあり、その時習った科目はたまたま世界史だった──基本的に語学文系と理系なハンナは堪えきれずに寝てしまったが、それだけは覚えていた


「ホイーガ、そのままハードローラーで突っ込むんだ!」
心なしかさっきのサトシとのバトルの時より威力が増してるように思える。それもそのはず、ホイーガが通った場所が地面を抉りながらラプラスへと突進していた。
(ラプラスじゃなくてエルレイドを出すべきだったかな)でもエルレイドの技は物理だ、どのみち鉄壁で苦戦するだろうからラプラスでよかったのかもしれない。だがあんな威力のハードローラーをまともに受けたくないというのが本音。

「ラプラス、周囲の地面に冷凍ビーム!」
ラプラスを中心に、ドーナッツ状の氷のフィールドができた。
ハードローラーの威力は変わらないけどツルツルになった地面では方向転換はできない。思った通り、ホイーガはそのままラプラスに直進していき、サンヨウのジム戦みたく接触した時を狙って10万ボルトを浴びせる。ある程度ダメージを与えることはできたが、ラプラスの体力にも限界があるから何回もできないし、アーティさんだって馬鹿じゃない、学習するに決まってる

──ホイーガがむやみにラプラスに近づけなくなったにしても氷のフィールドの外では自由だし、向こうにはソーラービームがある。
「(どうしようかなー…)」
でもさっき図鑑で見た限りではホイーガの特攻は高い方ではない…むしろ低い。ホイーガのソーラービームなら一発二発耐えてくれるだろう。

「(詰んだかな…?)ラプラス、なみのりから10万ボルト」
「ハードローラー」
氷を砕き、波を裂きながら迷わずラプラスへと直進し、波が引くのと同時に離れていく。


「…アグレッシブで地味にいやらしいやり方ですね」
「選手交替もありだけど?」
「する気はありませんよ」
「そう」

そう言ってハードローラーの猛攻を繰り返すジムリーダー
決していい状況ではない──どうにかしてハードローラーを封じたい


するとラプラスが突然指示もしてない冷凍ビームをホイーガの足元に向けて放った

「ラプラス…?

…───!」



──…ミミロル、冷凍ビーム!ヒノアラシ、火炎車!

──まーた勝手にボールから出てテレビつけて
あ、ヒカリだ…これグランドフェスティバル?
本当にコンテスト好きだね



初めてサトシと出会った鋼鉄島で、その時知り合ったトップコーディネーターを目指していた女の子──ヒカリのテレビ中継で見たグランドフェスティバルの演技を思い出した。

(…なるほど、回転するホイーガと火炎車のヒノアラシを重ねたのか)
コンテスト好きなラプラスの、なんとも単純な考えだけどやってみる価値は十分ある
今の状況だと鈍足ラプラスでは避けるのは不可能に近い。だけど来させないようにすることはできるのでは


「…珍しく苦戦ね」

フィールドの外部──ギャラリーであるアイリスの一言に、サトシとデントの2人が小さく頷いた。
「でも大丈夫、ハンナさんなら絶対勝つ!」
「お、なにか策がひらめいたみたいだよ」


「ラプラス、ヒカリのコンテストを思い出してね」
ハンナがそう告げると、ラプラスが力強く頷いた

「そろそろバトルに動きをつけようか…ハードローラー!」
「冷凍ビーム!」


ハードローラーで高速回転するホイーガの足元から上にかけて冷凍ビームによる氷の塊が生じるが、ハードローラーの回転により中が削れて滑り台のような形を作っていく。
「な…っ!?」
「いいよラプラス!その調子!」


「…あれはヒカリの──…」
ギャラリーから見守るなか、サトシだけが懐かしさや驚きなど様々な思いを交錯させて目を見開いた


──調子よくいっていたが、ハードローラーの回転が強すぎて氷が砕け、宙に丸投げの状態になった
「(空中であんな高速回転したままな状態ならこっちのもんだ)ラプラス、怪しい光!!」

「ホイーガ!」
宙で身動きが取れないホイーガに怪しく瞬く光が命中し、地面に落ちた混乱状態のホイーガが、左右にフラフラとおぼつかない様子で転がっていたがとうとう横倒しになってしまった。



「横倒しになったホイーガがどうやった立ち上がるかは興味があるけど、決めようラプラス──冷凍ビーム!」
容赦なく横倒しになったホイーガを氷漬けにした。


「ホイーガ戦闘不能、ラプラスの勝ち!」



「ほらな、勝っただろ!!」
「誰もハンナさんが負けるだなんて言ってないでしょー?人の話を聞けないなんて子供ね!
ハンナさん、ラプラス、次も頑張ってね!!」


「ありがとうアイリス、
ラプラスもよく頑張った!」
と、ラプラスに労いの言葉をかけると、パチパチと控えめな音が耳に入った


「ラプラスの氷の滑り台──か、なかなか芸術的な技の使い方だったよハンナ、やっぱり君いいよ。ますます気に入った
でもあんまりしゃべるとまた長くなるから、僕の一番のポケモンを出すとするよ

行け、ハハコモリ!!」



(今回あれはないんだ…)
サトシとのジム戦で言ったあの台詞、結構インパクトあったんだけどな

「よし、ラプラス戻って…


……あら」
手にしたモンスターボールから赤い光が伸びるが、跳ね返されてしまった。


「ラプラスどうしたんだ?」
「このまま戦いたいんじゃないかな」
「意外と好戦的なのね…」




たまたま横にいる3人の会話が聞こえた。
「…ラプラス、このまま出たい?」
そう聞くとコクリと頷いた。
ハハコモリには相性的にあまりよろしくないけど本人のやる気を削ぎたくない…
「(私もサトシのこと言えなくなっちゃうな)…よし、じゃあ続けていってみよーう!」
意気揚々と言い放ったハンナにラプラスは嬉しそうに前足をパタパタとばたつかせて歓喜した



「いってみよ―うって…なんともライトなテイストだ」
「あんなノリで草虫タイプのハハコモリにラプラスを出すなんて…」
呑気ねえ…、と苦笑いするアイリス。
「いいじゃんか、俺ハンナさんみたいなやり方好きだぞ」

「………」
率直なサトシの応えに、些か複雑な心境になった。サトシの言った好きは自分が思ってるようなことではない、違う意味だとわかっていても気にしてしまう
「(こんなに嫉妬深かったっけ…)」
自分の気持ちに気づいてる分、器の小ささに自己嫌悪した。


(デントもサトシみたいにもっと素直に言葉に出したりしたらいいのに…)


本当、もどかしいわね…
「くっつくのはまだまだ先か…
みんな前途多難ねー、キバゴ」
『キバ?』

ハハコモリとラプラスがぶつかるなか、横目でデントの横顔を見ながら思うのだった。




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