ジム戦、vsアーティ(前)
「それじゃあハンナ、サトシ君達、ちょっと待っててね」
サトシ対アーティ戦が終わった今、アーティさんは手持ちの回復のためにポケモンセンターへ行ってからハンナとジム戦することになった。ハンナは樹木が植えられている花壇の縁に腰かけてジム戦に出す子のボールだけを腰に付け、あとの子のボールは鞄の中にしまった。
「そういえば、」
「ん?」
「ハンナさんはバトルの時って大体その時必要な子だけ腰に着けるよね。」
「ああ…そうだね」
確かに突然挑まれたバトル以外はほとんどそうだった。特にジム戦の時は毎回。
「私バトルの時フィールドから目を放さないからたまに出す子を間違えることがあってね
何体って決まってたらあらかじめ決めとくようにしてる。」
「まぁジム戦は予め何体か決めるルールがあったりするけど…でもそれ以外のもしもの事態の時は不利じゃない?自分で条件縛りにしちゃって。」
「その時はその時だよ。むしろそっちの方が燃える」
「燃えるって…」
「あ、ハンナ!アーティさん来たよ!」
デントが控えめに指差す先にはこちらへゆったりとしたペースで向かってくるアーティさんだった。何か大きめの袋のような物を大事そうに抱えている。だが歩調からもとれるようにずいぶんリラックスしてるというかジムリーダーの余裕というか。リラックスしてるのは自分も同じだが。
これからジム戦だ、気持ちを切り替えなきゃいけない
「よし、三人とも応援よろしく!」
「頑張ってハンナさん!」
「ハンナさんとアーティさんのバトルか…楽しみだな、ピカチュウ!」
「僕も2人のバトル、どんなテイストになるのか楽しみだよ」
「遅くなってごめんね」と、アーティがフィールドに入ってくるのと同時にハンナはフィールドの位置へと歩んだ
「それではこれより
ヒウンジム、ジム戦を始めます。
使用ポケモンは三体。どちらかのポケモン全てが戦闘不能になった時点で試合終了です」
「ハンナ、君の三体の中にリザードンは入ってるかい?」
「いいえ、入ってないですよ。向上心はあるくせに極度の気まぐれだから出たいときに出てくるような奴で…信頼はあるけど案外面倒くさい相棒なんですよ」
「そうか…残念だ。」
「それにジムの植物園でボヤ騒動なんて起こしたくないですしね。」
「それもそうだね、賢明な判断ありがとう。」
「いえいえ…」
「さて、そろそろ始めようか。僕はさっきのままの三体だ。順番も同じだよ。」
「手の内を明かしすぎやしませんか?」
「それくらいハンナとのバトルが楽しみでしょうがないんだと受け取ってよ。
出てこい、イシズマイ!」
言ってることは嘘ではないらしい、本当にイシズマイが出てきた。正直さっきサトシと戦った時とは違うメンバーで来ると思ってたから少し拍子抜け
「…行け、ロトム!」
対するハンナのトップはロトムだった。
「…洗濯機?」
「意外なテイストだ…」
「あれはロトムだよ」
サトシが図鑑を開いた
『<ロトム>プラズマポケモン
プラズマでできた体を持つ。電化製品に潜り込み、悪さをすることで知られている。』
「ロトムは電化製品に入ることでフォルムチェンジするポケモンなんだ」
「なるほど…ハンナが気に入るわけだ」
「フォルムチェンジに詳しいハンナさんらしいっちゃらしいポケモンね」
「ロトムか…(相手がロトムじゃイシズマイの素早さはあまり意味がない)
イシズマイ、岩石砲だ」
いきなりの岩石砲にギャラリーにいるサトシ達が驚いた
「ロトム、受け止めて」
避けることも迎え撃つこともなく、ロトムの周りの洗濯バサミの形をしたオーラのような、お世辞でも頼りになるとは思えない手で、ただ泰然と構えて岩石砲をガッチリと受け止めた。
「んぬう…意外とパワフルなんだねん──穴を掘る」
ロトムのことを評価しつつもすかさず指示を出した
「…──あの岩石砲で、ポカブがやられたんだよな」
「サトシ?」
不意に呟いたサトシにアイリスとデントがサトシの方に振り向いた
「なんか改めてハンナさんとの差を知ったというかさ、…やっぱすげえなハンナさん」
「…自分とハンナを比べることはないよ。差を知ること自体は悪いことじゃないけど、それ以前にサトシはサトシなんだからさ
今のサトシのペースで進めばいいんだよ」
「そうそう。ハンナさんはよくドジかましたりしてるけど、あれでも先輩なんだから差がない方がおかしいわよ。」
「あれでもって…」
ひどい言われようだが、普段のハンナを知っているため誰も否定しなかった
「それにシッポウのポケモンセンターで言われたこと忘れたの?」
──いろいろな経験を積むもんだよ、最初からなんでもできるやつなんていないんだからさ
「…決めた!今度ハンナさんとバトルするよ
いっぱいバトルして経験積んで、いつかハンナさんを越えてみせる!!」
「うーん…なにかが飛躍した感があるけど…」
「まぁ、いんじゃない?」
色々抜けてる感じが否めないけど本人にやる気を注げたからよしとした。
「──イシズマイ、シザークロス!」
「──影分身」
穴を掘って地中に身を潜ませ、死角から攻撃しようと目論んでいたが、穴を掘るで逆に反撃のチャンスを与えてしまったらしい。
穴から出たら視界に広がる空中を浮遊する無数の洗濯機──ロトム達がいた。これではどれに攻撃すればいいのかわからない。
未だに増え続けるロトムが、オロオロしてるイシズマイに背後から10万ボルトを浴びせようとするも、アーティの指示によって守るで防がれてしまった。
「(こりゃ持久戦になるかな…?)足元狙ってシャドーボール!」
「守れイシズマイ!!」
再び守るでガードするもシャドーボールが地面に当たり、破裂した衝撃で砂煙と爆発の煙が混じり、一気に視界が悪くなった。
煙から抜け出そうと守りを解いて動き出すイシズマイだが、突然何かに捕まれ、酷く慌てた様子で鳴き始めた。
「どうしたイシズマイ!」
アーティがイシズマイに呼び掛けるが視界が悪く何も見えない。
煙が晴れてきたその時、耳に入ったバタン、と何かを閉めるような音がした。
なんだ!?、と似合わず大きく反応するアーティにハンナが静かに言い放った。
「私のロトムって呆れるくらいイタズラが大好きなんですよ、アーティさん」
煙が晴れたフィールドにはイシズマイの姿はなく、洗濯機がポツンとあるだけだった。
しかし先程から耳に入るイシズマイの変わらない慌てた声は顕在し、それに混じって籠ったような、金属を叩くような打撃音。
「な…ちょっと、あれ…ロトムのドラムの中にいるのって…」
「あああああ!!?」
歯を見せてイヒヒッと笑うロトムの腹をよく見れば、洗濯機のドラム中にイシズマイが閉じ込められていた。アーティはおろか審判やサトシ達までが驚いた
「弱点を知り尽くしてるとは言えこんなイタズラ好きの行動までは読めないでしょう?
──ハイドロポンプ!!」
些か命中が不安定なハイドロポンプも本人の中にいたら避けるも何もないだろう、バタンッと勢いよく蓋が開いたドラムから押し出されるようにイシズマイがハイドロポンプによってガラス張りの壁に叩きつけられ、倒れた。
「イシズマイ戦闘不能、ロトムの勝ち!」
「よくやったねロトム!ありがとう、戻って休んでね」
呆気にとられて瞬き数回、しかし見たことのないユニークなバトルにアーティでいうインスピレーションが湧きかけたが、試合の途中ということもありやむなくそっちを優先することにした。
「戻れ、イシズマイ
─…やられたよ、でもまだ次がある。
行け、ホイーガ!!」
軽快な音とともに現れたのはホイーガだった
(…正直ホイーガに関してはほとんど策がない)
生かすところを生かして、ホイーガにはソーラービームがあるが…ラプラスの特防とタイプなら多分大丈夫だろう、ハンナの二番手はラプラスだった。
「さっきのロトムには本当に驚かされたよ。ハンナ、君はなかなかユニークな戦い方をするんだねん」
「アハ、そうですか?」
思わぬ褒め言葉に少し照れ気味に答えた。
「…だけどそんな君だからこそ思ったことがあるんだ。ひとつだけ聞いてもいいかい?」
「?、なんでしょう」
「君を知った雑誌を見て思ったんだ。4地方のジムを制覇という功績を残しておきながらなぜリーグには一回も出場しなかったんだい?それだけ抜きん出た実力やバトルにおける適応力の高さならリーグ制覇は固いよ。」
先ほどとは打ってかわり、口元は笑っているものの明らかに怪訝そうな雰囲気をしたハンナが答えた。
「何もジムを制覇したからといって必ずしもリーグに出なきゃいけないっていう規則はないはずですけど?」
「じゃあどうしてカントーのリーグには出場辞退したんだ」
「!!」
そういえば、とサトシとデントが頭にはてなを浮かべるなか、小さく反応したアイリス。おそらくアーティが買った雑誌というのは、カベルネと出会ったフレンドリーショップで自分が買った雑誌と同じであることを直感した。アイリス自身も読んでて疑問に思っていたことだったのだ。
「己を鍛え直そうと思って。」
「君が?リーグという大舞台でそんな理由で辞退するかな。僕にそうは見えないけど」
「…アーティさん、忘れてませんか。今はジム戦ですよ?」
たしかに、これを言われたら弱い。しかし反らすということは何かあったということの肯定だろうか。
気になるがハンナの言う通り今は公式のバッジをかけた試合中だ。自分としたことが、試合の途中に私情を挟むなんて
「(うまく焦点をずらされたな、)ごめんごめん、ハンナと話すとつい長話になるね
さて、2戦目といこうか」
「さりげなく私のせいにしてません?」
最後の言葉を聞いて先ほどの怪訝な顔つきから、やっとかと言いたげな笑みに変わった。