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ヒウンジムにて





「──はい、これで大丈夫よ」
「ありがとうジョーイさん!」

ヒウンシティポケモンセンター内、ハンナはムウマを手持ちに戻し、ダーテングとペンドラーを研究所に預けるついでに前の騒動で負傷した手の包帯を替えてもらっていた。

「ふふ、本当にお疲れ様。でも無茶したらダメよ、女の子なんだから」
「私は少し無茶するくらいが普通なんですよ…っと、」


゛さぁジムに行こうかな!゛
ずっと座って少しばかり凝った体を伸ばしながら言えば「もう、」と眉を下げてハンナに苦笑いを向けたジョーイさん。その時タブンネがトレーに乗せた手持ちのボール5個を持ってきてくれた。

「ありがとうタブンネー」
『タブンネ〜』
「んー、この弾力めっちゃ落ち着くわぁ…」

ギューッとタブンネに抱きついてみたら見た目通りの弾力のある体、これが案外、いや本当に落ち着くのだ。
「タブンネの抱き枕って絶対ヒットすると思う」
「ハンナちゃんたら…、ジムに行くんでしょ?」
「そうだった…それじゃあジョーイさん、タブンネ、ありがとうございました!!」
「ジム戦頑張ってね!!」
『タブンネー!』


向かうのは入り口でもジムではなく、同じくセンター内のパソコン。
「(元気にしてたかなー…)」
ナナカマド研究所のボックスから転送されてきたボールを腰に着け、今サトシが挑んでいるであろうアーティさんのいるヒウンジムへ元へ向かうことにした。






一方ジムでは、サトシ対アーティ戦が行われていたがサトシの一体目に黒星がついてしまい幸先はいいとは言えない状況にあった。
早くも二体目を出したサトシにギャラリーにいるアイリスは些か不安げな様子だった。

「アーティさんに知られてるポケモンだから不利なんじゃない…?」
「いや、クルミルのバトルを見ていない」


「すんごいジムだねぇ…まるで植物園みたい。
どう、サトシは。バトルは順調?」

バトルを見ながら悠長にデント達の隣へと歩いてきたハンナに、アイリスとデントはバトル中であるから声を抑えてはいるものの、驚きは隠せないでいた。
「ハンナさん!左手大丈夫なの!?」
「そんな大袈裟な…大丈夫だよ。ちょっと打っただけなんだから」
「僕らから見たらその゛ちょっと゛がちっとも大丈夫じゃないんだよハンナ」
「まぁ大丈夫ったら大丈夫だよ。ジョーイさんからもGOサインもらったし。で、今どんな状況なの?」

「ポカブがやられて、今サトシが二体目出したところ。」
視線をハンナからバトルへと戻す2人。「…そう」とハンナもバトルの様子をしばらくじっと見る

(イシズマイに炎タイプのポカブはちょっと判断ミスったんじゃないかなサトシ…)
岩を複合した虫タイプのイシズマイには炎は等倍のダメージしか与えられない、やる気を買って出したのかは知らないけど相手が悪かったな。


「虫食い!」
二番手のクルミルがイシズマイに虫食いを仕掛けるが、イシズマイはそれを守るで防いだ。守るで弾かれたクルミルをアーティが見計らい、指示によってイシズマイが岩石砲を打ち出す。

「糸を吐くで避けろ、葉っぱカッター!!」
クルミルの頭の葉っぱから無数の鋭い葉が放たれるがまたも守るで防がれる。


「アーティさんは守りを重点に置いたバトルなんだね…サトシ大丈夫か?」
「イシズマイの守るがやっかいだな」


「…っ、どうすれば…」
あらゆる攻撃を守られて焦りが表に出始めたサトシにアーティは容赦しなかった。
「岩石砲だ!!」
「糸を吐くで絡めとれ!」
「シザークロス!」
ひたすら猛攻するアーティの流れに乗ってきたという時、シザークロスにクルミルの捨て身の体当たりでイシズマイの背中の岩を離すことに成功し、一気に流れがサトシ側に逆転した。

「葉っぱカッター!」


チャンスを逃すことなくイシズマイに葉っぱカッターを浴びせる、岩がない無防備な状態のイシズマイに攻撃のダメージはでかかった。

「すぐに岩に戻るんだ!」
「そうはいきませんよ、体当たり!」
今までのお返しだと言わんばかりに刺さるクルミルの体当たりにイシズマイがフィールドに叩きつけられる。すかさずとどめに葉っぱカッターを決めればイシズマイは力なく倒れた。


「イシズマイ戦闘不能、クルミルの勝ち!」



「うまくやられたなあ…イシズマイ、戻れ」

「やっと一勝か…ここからだね。」
「あれ?ハンナさんボールがひとつだけ違うけど…」
「ああ、ペンドラーとダーテングをアララギ研究所に預けた代わりにムウマを引き取ってナナカマド研究所からもう一匹連れてきたの。」
「なになに!?どんなポケモン?」
「それはバトルでのお楽しみね、私のお気に入りの子だよ」
「そのボール見たことないけど…なんていうボール?」

赤と白が一般的なボールの配色だがそのボールは緑と白、緑の部分に赤い点が3つ、ボタンの上にあるイッシュでは見かけない変わったボールだった。


「これはフレンドボールって言ってね、ジョウト地方にあるボングリって木の実から作るガンテツさんってボールの職人さんにもらったの」
「木の実からボール作れるんだ!」
「これの他にも種類はいっぱいあるんだよ。ジョウト行く機会があったら行ってみてね」


しばしの雑談が入ったが再びバトルに視点を置く。
アーティの二番手はホイーガというポケモンだった。どことなくペンドラーに似てるな、と感じつつハンナは図鑑で確認する
『<ホイーガ>まゆムカデポケモン
フシデの進化型。普段は動かないが襲われると高速回転して走り回り、体当たりで反撃する』

(ペンドラーの前の姿か…)

「ホイーガ、純情ハートは燃えているかい?」
アーティの問いかけに答えるようにホイーガは真ん中の目を軸に高速回転してみせた。

「またやっかいな相手ね…」
「ああ、ホイーガが虫・毒タイプ」
「じゃあそのタイプに有利なのは?」
「飛行タイプ」
「…って、ハトーボーはアララギ研究所に送っちゃったわよ!」
簡潔に答えたデントだがアイリスのいう通り、今はハトーボーはいない

「エスパータイプ」
「エスパータイプなんて持ってないし!」
ハンナもデントに便乗して答えるもそれ以前の問題だった

「それと、炎タイプのポケモンも有利だよ」
「ポカブは先に出しちゃったし…こりゃ前途多難だわ、このバトル」
「同じ虫でも複合タイプが相性の悪い草だからね」
だがこちらであれこれ言っても、戦うのはサトシ達だから仕方がない。ハンナはこのバトルを見てある程度の気休めのような作戦を練ることにした。


「ホイーガ、毒針!」
「糸を吐くで避けろ!」

(糸を吐くって結構便利な技だよなー…)作戦を練るはずが早くも糸を吐くの利便さに思わず心の中で感嘆をあげていた。糸を使って空中に上がったクルミルがホイーガを糸で絡めたが、回転を利用して切られてしまった。

「ハードローラー!」


「ハードローラー?」
ハンナにとってもサトシにとっても初めて聞いた技だった。
「ホイーガのように回転して相手を押し潰す技だよ、怯むこともあるんだ。」
「へぇ…、ふみつけみたいな感じの技か」


するとホイーガが高速で回転し始め、土埃をあげながら凄まじい勢いでクルミルに突っ込んでいった。「ホイーガに轢かれた」、というのが端的に表した言葉だろうか。まさにそんな攻撃だった。

「もう一度ハードローラー!!」
フィールドのエンドラインギリギリの所でターンしてきたホイーガが、瞬く間にクルミルとの距離を縮めていく。そこで葉っぱカッターで迎え撃とうとするも、やはり4分の1のダメージしか与えられない草タイプの技は全て弾き返され、まんまとハードローラーはクルミルに命中した。
サトシが大丈夫かと声をかけるも当のクルミルにハードローラーは相当なダメージを残していた。

「力強い攻撃だ…美しい。
ホイーガの純情ハートは燃えに燃えているようだな」


(芸術家としてのあの余裕の見せっぷりはジムリーダーならではだな…)
だんだんサトシに苦しいバトルになってきた、それにひきかえまだまだ余裕のアーティにホイーガ。純情ハートの精神は伊達じゃないってことなのか?

「(…それは関係ないか)」
自己完結で終わらせた。


「クルミル、虫食いだ!!」
負けじとホイーガに攻めるがアーティの守りの手法はホイーガにも取り入れていた。

「鉄壁を覚えてるなんてな…」
「…更に前途多難ね」



鉄壁で弾かれたクルミルに三度目のハードローラーが炸裂した。アーティもそろそろ畳み掛けを終わらせようとしていた。
「──さぁフィニッシュだ
ホイーガ、ソーラービーム!」


「ガラス張りの植物園」という環境を最大限に利用したソーラービームは、未だダメージで動けずにいるクルミルに容赦なく放射された。ガラス張りな分チャージも普通の室内より長く継続される──ここまでかと思ったその時、クルミルの体が進化の光に包まれて「クルマユ」に進化した。


「──あのポケモンは…」
ハンナは突然の進化に驚きながらもすかさず図鑑を向けた

『<クルマユ>はごもりポケモン
クルミルの進化型。葉っぱで体を包み込んで寒さを防ぐ。手近な落ち葉を食べながら森を移動する。』


(──…可愛いけど手近なものを食べながら移動するってところはケッキングに似てるな…)
まぁ特性が怠けじゃないだけマシなわけだが。

「ねぇデント…、」
「ああ、僕も似てるなと思ってたところだよ」


クルマユのあのふてぶてしい、少しやる気のなさ気なあのジト目は…
「「(ハンナ(さん)に似てる…)」」



〇〇に似てると同じことを思ってるにしても、根本的な意味合いではかなり食い違っていた。

「クルマユ、糸を吐く!!」
クルミルの時とは違い糸の束が増え、ホイーガに幾重にも巻きついていくがパワー不足でまたもや容易く切られてしまった。
「ビューティフルに締めようじゃないか…──ハードローラー!」

「糸を吐くで避けろ!」
今までずっと同じ回避をしていたらさすがのホイーガも学ぶだろう、天井に繋げた糸を断ち切ってしまった。ホイーガの回転は更に加速し、激しさを増していく
「進化した力を見せるんだ!エナジーボール!」


勢いを増した分、技が直撃した反動がでかかった。クルマユのエナジーボールを真っ向から受けたホイーガは弾き飛ばされたあげく横倒しにされてしまった。(手足もないのにどうやって立ち直るんだろう…)
密かに浮かぶ疑問を尻目にバトルは佳境に入ろうとしていた。

ホイーガに刺したとどめは体当たりだった。威力こそは高くないものの、命中した場所が場所なだけにホイーガは倒れてしまった。

そりゃあ軸である目に体当たりなんかされたら誰だって大ダメージに決まってるだろう。



「アーティさんは最後にどのポケモンを出すんだ…」
アーティがひとつのモンスターボールを手にして高々と掲げた


「出でよ、ヒウンジムの守護神…ハハコモリ!」



「なにあのハハーン…」
「ハンナさん、せめて名前で呼んであげよう」

『<ハハコモリ>こそだてポケモン
落ち葉が発酵する熱でタマゴを暖める。クルミルに葉っぱでおくるみを作る。』
クルミルはハハコモリが作ったおくるみをはごもり過ぎてクルマユになったんじゃ…


こう思った人は私を含めて何人いるのだろうか。
対するサトシはそのままクルマユでいくつもりらしい。


(──前途多難なジム戦、私はどう攻略しようか)
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