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収束




───ヒウンシティ

相変わらず至る場所にフシデがいることには変わりない。『摩天楼が立ち並ぶ街に大量のフシデ』文字に表しても、実物を目にしても、異常とも異状ともとれる、異様な街と化していた。
アーティさんやサトシにアイリスが走って移動する中、ハンナはリザードンに乗って移動していた。

今はボスのフシデ探しに専念するべきだ。
「アーティさん、どうやってフシデのリーダーを見つけるんですか!?」

たしかに、こんなうじゃうじゃ街中にいる中からたった一体のフシデを探すなんて色違いを見つけるより難しいんじゃないか?全く見分けがつかない。見分けがつくとしたら地下水道で合った湿布を貼ったフシデくらいなもんだ。

しかし常識で考えたら上記みたいになるがアーティはただ提案を言っただけでなくちゃんと目星をつけて発言していた。

「野生のポケモンは常に危険と隣り合わせだ──」


アーティが説明してる間にも交通がすでにストップしてる大きな十字路に差し掛かった
どうやら目星をつけていたポイントはここにあるらしい

「…─そんな危険をいち早く察知できるポケモン、それがリーダーの資格を持つ。だから、リーダーは群れの周囲を監視できる場所にいる場合が多い。」


(──なるほど、さすが虫使い。確かに理にかなってる)

「─もしかしてアイツとか!?」
アイリスがそれらしいフシデを見つけて指を指した。だがアイリスの勘は毎回変なところで当たる。

微妙に当たりで、微妙に違う。



前回のヒウンアイスの店がいい例だろう。
どうだろうな…、と経過を見ていたら

「あ…あのフシデ体が他のより大きい!」


(…え)

「それもリーダーの条件の1つだ。そしてもしアイツがリーダーなら、接近してくる相手に真っ先にバトルを挑んでくるはずだ」


時計塔の天辺に佇む一回り大きなフシデに、アーティが挑発的な仕草を見せたら案の定フシデが挑発に乗ってきた。

「ア…、アイリスの勘が初めて当たった!?」
リザードンに乗ったまま深く感動して拍手を叩くハンナにアイリスが軽く癇癪を起こした。

゛脱!微妙なシッスクセンスおめでとう!!゛
゛なによそれ!?゛


パチパチとハイペースで鳴る拍手が実にアイリスのボルテージを上げていく。そんな茶番の横にフシデが時計塔から飛び降りてきた。

「お前がリーダーだな
ここにいては群れの皆が危ない目に遭う、僕に着いてきてくれ」
相手は群れのリーダーということもあり極力刺激しないように優しげな口調で言ったつもりだったが、リーダーのフシデはアーティに向かって威嚇行動に出た。

「待て、落ち着くんだ!フシデ──」
「火炎放射だ!!」


説得の最中だった。突如現れたシューティーがランプラーに攻撃指示を出した。
ランプラーの頭の中にある紫の炎が大きく揺れ、勢いよく炎を放射したが、危険を察知する役目であるリーダーのフシデにはまるで造作もないといったように軽く避けられた。しかしフシデの反撃をランプラーもかわす。サトシにやめろと言われてもお構いなしに攻撃を続けるシューティー。

(シューティーはさっきの話の何を聞いてたの?)
シューティーの度重なる行動に内心は穏やかなものではなくなってきた。自然と眉の間に皺が寄る

「むやみに攻撃するな!!」
「リーダーを倒せば群れはバラバラになり排除しやすくなる──それだけのことさ」
「なに勝手なこと言ってるのよ!」
「セントラルエリアに移動させるから攻撃はしない約束だろ!?」

「無駄だ。フシデのリーダーは聞く耳をもたない」





……、



「(…いや一番もってないのはあんたでしょ)」
さすがに場をわきまえ喉の奥に収めた

「ランプラー、強制排除だ!」
高く振り上げられたランプラーの両手の間に黒いエネルギーの塊が生じる

(シャドーボールか、)
シャドーボールがフシデ目掛けて発射されたがそれをサトシが「危ない!」と身を呈してフシデから守った。タイプ一致のシャドーボールの威力は馬鹿にならない、サトシの体は大きく弧を描いて後ろに吹っ飛んだ。


「リザードン」
素早く反応したリザードンがサトシの上着を掴んで地面に衝突するのを防いだ。

「意味のないことを…」
「シューティー君、もうやめるんだ!」
呆れたといった感じでサトシを蔑むシューティーにアーティが間に入る。その間にゆっくり地面に下ろしてあげればアイリスがサトシに駆けつけてきた。
「全くシャドーボールに突っ込むなんて馬鹿じゃないの、大丈夫?」
「本当よ!子どもなんだから!」


「ハハハ……」
体を張って守ったのにこの言われよう、まあ当然である。そこに見覚えのあるフシデがサトシに寄ってきた。背中の湿布。間違いなく地下水道で合ったフシデだ。きっとリーダーを守ったサトシを心配して来たんだろう。
「見ろシューティー、フシデは本当はこんなに優しいポケモンなんだ!だから、攻撃的になったのは何か理由があるんだよ!」


「理由なんてどうでもいい、大事なのは結果さ」
「だったら君に止める権利はない!僕達が純情ハートでやろうとしていることの結果はまだ出ていないからね!」
「そうよ!」
「それまで待ってくれ!」



並んで「そうだ!」と言いかけたが、タイミング良くしジョーイさんとタブンネを連れたデントがやって来たから声が喉の奥に引き返してしまった。


「戻れランプラー、
…勝手にするがいいさ。結果はわかっているけどね」

(相変わらず上からの物言いだよなあ…)
そう吐き捨てて踵を返したシューティーをハンナが追いかけていった。







「シューティー」
「…なんですかハンナさん」
空から現れたハンナに敬語で返事をするものの、声の調子はぶっきらぼうそのものだった、しかしハンナはそんなことは気にも留めずに話し始めた。

「シューティーの言いたいことはわかるよ。でもちゃんと聞いてね」
「……」

「シューティーは最初に言ったね。フシデ達を排除するのは゛人間を襲ったからだ゛って。でもフシデ達がどうして大移動したのかについては゛どうでもいい゛って言ったね?

理解しようともせず一方的に強制排除するなんて理不尽にも程があると思わない?まあフシデ達も人を襲ったのは事実だから攻撃を向けたのは仕方ないかもしれない。
だけどね、たかが話の末端をかじっただけでリーダー潰しさえすりゃいいと考えるなんて浅はかにも程があるよ。一を聞いて十を知れると思ったら大間違い。

バラバラになって排除しやすくなるなんて大嘘。その逆だよ、司令塔がいなくなってもっと好き放題って場合もあったんだよ

サトシが守らなかったらもっと最悪の事態になってたかもしれない。
それにアララギ博士が調査中なのにそれを蔑ろにする気だったの?」

シューティーは黙って俯いて聞いていた。何も言えなかった。
ハンナの言葉のひとつひとつが刺さる感じがして何も言い返せなかった。



「言いたいことは山程あるけど私もフシデ達を誘導しなきゃいけないからここらでやめとくけど、少しは自分の言動を反省しなよ」

それだけ言うとハンナはリザードンに乗って行ってしまった。



(ちょっと言い過ぎたかもしれないなー…)

「我ながら大人げなかったな。まあ、私まだ大人じゃないけど」


(反省するのは私も同じか)
元いた時計塔の前まで戻れば、アーティさんがオカリナのような変わった笛の音色で大量のフシデ達を誘導していた。

すでにサトシ逹ははぐれたフシデ達を群れに戻す作業に入っている。



「出番だよ」
アーティさん逹が向かった方角とは逆の向きからフシデ達を誘導する前に…

「よっしゃ、ペンドラー、よろしくね」


ペンドラーの統率力が試される。
すでにペンドラーがボールから出てきた時点で周辺のフシデ逹がこちらに注目している。ハンナはリザードンに乗って空からフシデ達をペンドラーが率いる群れへと戻すことにした。

エルレイド、ハッサム、ダーテングをボールから出してペンドラーの援護をするよう指示した。ダーテングにとって虫タイプは天敵中の天敵だが速さはあるしペンドラーやエルレイドにハッサムがいるから大丈夫だろう。


そしてそんなに高さのないビルの屋上にラプラスを出してあげた。ラプラスは地上では鈍足同然だ、高い位置からさせることにする。
「ラプラス、妖しい光でフシデ達を群れに誘導してあげて」

゛当てちゃだめだよ?゛
混乱したら意味ないからね?と念を押してから、さっそくリザードンとビルに這ってるフシデ達を群れに戻す作業に入ることにした。
今向こうで爆発音がしたけど気にしない。


<ピピピピピピ…>


ポケギアにかかってきた相手はアララギ博士だった
今は調査中のはず

預けてるムウマに何かがあったのだろうか


「もしもし?」
『ハァーイ、ハンナちゃん。』
「アララギ博士、どうかしました?」
『本当に突然で悪いんだけど少しあなたに頼みたいことがあるのよ、お願いしてもいいかしら?』
「内容にもよりますが…博士は今フシデの大量移動について調査中でしたよね、何か困り事でも?」
『あらら、なんで知ってるのかしら?…でも知ってるなら話が早いわ。

私は今からヒウンシティへ向かい街の北側にあるリゾートデザートへと向かい調査を始めます。ハンナちゃんはナナカマド博士の所で助手をしていたでしょ?
だからオペレーション頼みたいなーって、思ったんだけど…』

「あれ…、他に助手いませんでしたっけ?2人くらい見たと思ったんですが…」
そこでハンナの口が止まった
(いや、でも待てよ?2人くらいじゃなくて2人しか見てない気が…)


『その2人しかいないのよ〜…だから、ね!』

ドンピシャだった。
これはもう断れないぞ…


「あー、ぃ…いいですけど、あまり得意ではないですよ?」

そう、あまりそういった役柄は向いてない。一応人並み以上には機械を扱えるものの、機械に対する苦手意識から自分から使うということはあまりなく、レポートがいつも手書きなのはそのせいだった。


『ありがとう、助かるわ!じゃあヒウンシティのヘリのポートタワーに着く前に連絡するわね』
「わかりました。…はぁ、オペレーションか」
またサトシ達と別行動になるのかな、と肩を落とした。







「群れからはぐれたフシデ達も、全てこのセントラルエリア内に入りました!」

「よかったな、皆ここまで無事に移動できて」
サトシとピカチュウ、喜ぶフシデの横にはハンナの手持ち達が総出でその様子を見ていた。

しかし皆疲れているだろうからそろそろボールに戻してあげることにしよう。
「さて、ペンドラー。初仕事本当にお疲れ様!皆もありがとう。ゆっくり休んでね」


やっとフシデ達をセントラルエリア内に誘導し終わった時にはもう夜の帳が降りた頃だった。
「これでひとまず安心だ。アーティ君、ご苦労だったね」

「いえ、僕よりもこの子逹を褒めてあげてください」
「…あ、」
全員を戻し終わりふと顔を上げた時、シューティーと目が合った。向こうはすぐに顔を反らしてしまったが、ハンナは一歩後ろに下がりシューティーの元に寄っていった。

「シューティー、さっきはごめんね。つい言い過ぎちゃって」
「え…あ、いや…軽率な行動したのは僕です。ハンナさんが謝ることないですよ」
珍しくシューティーが狼狽えていることにクスッと笑ってしまった。


「アッハハ…、なんかシューティーがオロオロしてるのってレアだね」
笑いを抑えながらしゃべってるため目尻に涙が出てきた。いきなり笑い出したハンナにシューティーは反応に困ったが、それと同時に初めてこんな笑ってるハンナを見てシューティーの中での彼女の印象がガラリと変わった。
前にバトルクラブであった時もさっきみたいに説教する時も怒り気味な顔ばかりだったから。


──柄にもなく照れるなんて自分らしくもない、
「…じ、じゃあ僕はこれで」


「!、シューティー…?どこいくんだよ、」
離れていく足音に気づいたサトシがシューティーを引き止めた。

「次の町へ行く」
「ジム戦は?」
「問題が解決するまでまだまだ掛かりそうだからね…ここで無駄な時間を過ごすぐらいなら別のジムを先にまわるよ」


「せっかちねぇ…」
「余韻は短く味わいは渋く…──まあシューティーらしいと言えばシューティーらしいテイストだな」
「でも最初よりは言葉に棘はなくなってきたよね」

「なあシューティー、今度会ったらポケモンバトルしような」
「サトシそればっかじゃん」
「逆にそれをとったらサトシに何が残るのハンナさん?」
「おまえらなあっ」



「その時君にその価値があるのなら」

これにはサトシも苦笑いせざるをえなかった。



シューティーが行った後、ポケギアにアララギ博士からメールが入ってきたことに気づくのは、もう少しあとのことだった。
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