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ヒウンシティ





とある森の広場にてひとつの戦闘音が地に耳に響いた。ハンナの相手である巨大な虫ポケモンは攻撃を受けても尚立ち上がり反撃を仕掛けてくる。


戦い始めてから結構な時間が経ったにも関わらず、未だに衰えることのない気迫にハンナは嬉しさに身震いした
「ハッサム、バレットパンチ!」

だがいくら気迫が衰えないとはいえ誰にだって体力の限界というのがある。あれだけ攻撃を受けて、本気で攻撃し続けたら持つ訳がない。
「(必要な情報は全部わかったし、もう十分かな)そこまで!!

お疲れ様、ペンドラー、ハッサム。」

ハッサムをボールに戻したハンナの横から興奮したサトシとピカチュウが喚声をあげた。その隣にはあまりの勝負の激しさと凄まじさに口を開けたまま呆けたアイリスとキバゴ、そのまた横には

「ん〜!まだまだ熟成が足りないが激しさとダイナミックな味わいを持つペンドラー、無駄がなくスタティックで時折見せる攻撃捌きが鮮やかなハッサム!素晴らしい!!」


得意のテイスティングをするデント。「ありがとう、」とお礼を言いペンドラーの傷に薬を塗ってあげる。


先ほどのバトルはペンドラーの今の戦闘力を見るためのものだった。ペンドラーは負けてしまったのが相当悔しかったようだ、だがこのバトルでペンドラーのことがよくわかった。
「ハンナ、ペンドラーのこと何かわかった?」
「そうだね、かなりわかったよ。」

そうしてペンドラーに軽い応急処置をしつつペンドラーについてを述べ始めた。
「まずペンドラーはかなりのバトルを積んできたのがわかる。よく見れば体が傷だらけだし、多分タイプの有利不利なんて関係なく片っ端から戦ってきたんだと思う。」
「なんでそんなことがわかるの?」
「このペンドラーの覚えてる技だよ」
「ああ、確か最初ハッサムを見たときに岩雪崩れをしてたね」
「岩雪崩れはペンドラーにとってかなりの強みなんだと思う。今までそれで同属の虫タイプに、ペンドラーにとって天敵な飛行タイプと炎タイプを潰してきたんだよ、だからハッサムを見たときに虫タイプだって認知して一気に片付けようとしたんだと見た。さすがに鋼の複合まではわからなかったんじゃないかな」
「だから経験を積んでここまで進化したのか…」
「多分…ペンドラーと喋れる訳じゃないから私の推測だけどね

だけど強いことは確か。覇気も大したもんだけど動きに無駄がありすぎるし、猪突猛進そのもの。見境なく攻撃するその癖は直さなきゃね、ペンドラー」

喋り終わるのと同時に最後の箇所に湿布を貼り終えた。最初に会った時のような聞く耳持たずといった暴れん坊とは違いペンドラーはハンナの言葉にちゃんと耳を傾け、頷いた。根はちゃんとした子なんだろう


「これから頑張ろうね、ペンドラー」
今日はゆっくり休んでね、とボールへ戻した…






「っていうことがスカイアローブリッジに入る前にあったけど…これはなにか関係あるのかな?」

無事スカイアローブリッジを抜け、リザードンから降りてボールに戻そうとホルダーに手をつけようとしたのだが


「ハンナさんリザードンに乗るなんてズルいぞ!!」
「まあまあサトシ落ち着いて…」
ハンナに追い付いたサトシ一行、ズルいぞと地団駄を踏むサトシを宥めるデント。そんな様子を見て子どもねとため息をつくアイリス。だがハンナの様子が少し変なことに気づいた。
「ハンナさん、どうかしたの?」
ハンナの目線を辿るとガタガタと震える腰のホルダーに着いてる2つのボール
しかし震え方が尋常じゃなかった。

「なにそれ!?」
「んー…わからない…」
「中に入ってるのってハッサムとペンドラーよね?」
「うん。なんだろう…この前の続きでもしたいのかな」
「ああ、ありえるかもな!それかジム戦に出せ!!とか」
「なるほど…
ハッサム、あんたは前回活躍したからここでは違う子出すつもりなんだ…ごめんね」


「ハンナさん…それ納得しちゃうんだ…」
「やんわり断ったよね。ハッサムの震えが一瞬止まったけどジム戦に出たかったのは一応合ってたんだ…

まあひとまずヒウンシティに着いたことだし、ポケモンセンターにチェックインして荷物置いていこうよ」
「そうね!!」


ハッサムとペンドラーはこの裏で起こっていることを示唆していたがハンナやサトシ達に伝わるのはこの後だった。


「他の町と違ってポケモンセンターでかいね!ビジネスホテルみたい!!」
「はしゃぎすぎよハンナさん」
「まあヒウンシティはビジネス街で港もあるからね、宿泊施設は多いよ」
「じゃあヒウンジムってどんなのなんだろう…やっぱ高層ビル?」
「っよーし!いよいよジム戦だ!!」
まずはサトシを筆頭にヒウンシティを見て回ることにした。
どこもかしこも雲に届きそうなビル、ビル、ビル。

「でもやっぱりヒウンシティってでかいわねー…」
「本当…スカイアローブリッジから見るより迫力が違うよね」
「あ、そうそう!ここにはとっても美味しいと評判の゛ヒウンアイス゛っていうのがあってね、是非食べてみたいんだけど!」
「それコンビニで買った雑誌で見た!!私も食べてみたい!」
「いいわね!ジム戦の前に食べにいこうよ!」

3人がアイスの話題で盛り上がるなかサトシが待ったをかけた
「ダメダメ!ジム戦が終わってから!」
「え―!?サトシは食べたくないの?」
「まずはジム戦!!」

こういうサトシは何を言っても聞かないからなあ…「しょうがないわねえ」というアイリスの声をはじめにジムに向かうことにした。(これで売り切れてたら次買うときサトシの奢りにしてもらおう、)とジムに向かいながら企てた。


「ジムはこの先だ、セントラルエリアを通って近道をしよう」
「ビルの中にも自然があって…いいところだね」
噴水を中心とした公園、子どもと散歩したりポケモンと戯れる人。住み良い町として有名なヨスガシティを思い出す。メリッサさんやミズキは元気だろうか

「サトシ、ハンナさん、ジム戦の準備は出来てるの?」
「もちろん!でも先発はまだ決めてないや」
「とにかく俺は思いきってぶつかるだけだ!!

…あ、アーティさん」
「?、どうしたの皆…」
「サトシ君、」


サトシや皆の向く方を見ればそこには木の下からなにかを観察している一人のスマートなふわふわの栗毛の男性がいた。とりあえず私達はアーティと呼ばれるその人の元へと近づいた
「今からヒウンジムへ行って挑戦しようと思ってたんです!」
「え、この人がジムのリーダーなの?」
「ああそっか、ハンナはあの時いなかったからね。知らないのも無理はないよ」
「へぇ…(確かにクセの強そうというかなんというか…)私はハンナって言います。」
「僕はアーティ、ヒウンジムのジムリーダーだよ
ところでハンナちゃんってもしかしてナナカマド博士の助手のハンナって子?」
「え!?なんで知ってるんですか?」
「いや、たまたまこの前雑誌を買いに行ったら間違えて2冊も買ってしまってね、その内の一冊に君が載ってたんだよ。君もジムに挑戦するのかい?」
「はい、そのつもりですけど…」
「そうかそうか…やっぱりね、うん。君とサトシ君とのバトルが楽しみになってきた…と言いたいけどちょっと待ってくれないか、気になることがあってね…」

そう言ってアーティが最初見たときのように再び視線を木に移した。
「どうかしたんですか?」
「昨晩から虫ポケモン達が何かを感じて騒いでいるんだ…」


目線の先にある木の茂みは大きく葉を揺らしてざわついている
「そういえば、大きな災いが訪れるときに虫ポケモンが騒ぐって…」
「え…じゃあさっきからこの二匹が騒いでるのって」
「ハンナちゃんのポケモンも?」
「呼び捨てで構わないですよアーティさん、ヒウンシティに入った時からずっとこの状態で…」

依然として震えたままの2つのボールを手に取った。
「虫ポケモンを二体も連れてる女の子って珍しいな」
「たしかにハンナさんって虫タイプに抵抗全くないよね」
今までサトシが一緒に旅した仲間の女の子が虫タイプが苦手な子がいた

「なんか昔から虫ポケモンに好かれるんだよ」
その代わりと言っちゃなんだが電気タイプのポケモンとの縁が本当に少ない。なぜだ。
アーティはそんなハンナを見て何かを閃いたように目を開いた、だがこっちの虫ポケモン達の異変が先、と割り切ってすぐに表情を戻した。

「でもなんでこんなことに…」
「虫ポケモンには人間に感知できない電磁波などを感じる能力があると科学的にも証明されている」

ここでアイリスの第六感が開花された
「たしかに…何か感じるわ、こっちの方角ね!!」

アイリスが自信を持って力強く指した方角に進んでいった…






が、
「あれ…」


「(サトシに奢ってもらう計画が…ッ)」
「ヒウンアイスの店に出たぞ…?
しかも閉まってるし」
「なんだよ…ただアイスが食べたかっただけかよ…」

なんとも言えないアイリスの顔、横からヒシヒシと感じるキバゴの視線が痛かった

「ち…っ違うわよ!!」


ヒウンアイスの店が閉まっていたため奢ってもらうという計画は立てただけで終わった。
だがその時ピカチュウが何かを感じ、サトシの肩から降りて一行のすぐ後ろのマンホールへ近づいていった。同時にハッサムとペンドラーのボールがさらに震えだした

「ピカチュウ、どうかしたのか?」
「ちょっとちょっと本当になんなのこれ」
ここまでくるとさすがに怖い、最早ホラーの域だ


出してあげたいけど街中で何かあっては遅いと思い、とりあえずピカチュウの指差すマンホールに集まった。
「アーティさんこの下にはなにが?」
「地下水道だよ。ずーっとこの先の荒野を流れる川まで繋がっているんだ…待てよ?そういえば以前、荒野に住んでいたポケモンがこの地下道を伝って移動してきたことがあったな」
「じゃあ、もしかするとこの下に!?」
「よし、行ってみよう」



こうしてマンホールに入っていくという初めての作業に直面した訳だがある問題が出てきた
「あ、しまった」
順番はアーティさん、サトシ、アイリス、デント、ハンナという順番になった。デントがレディーファーストだと言ったが降りるの遅いから、とデントに無理矢理譲った。

「最後じゃなくて最初に行くべきだったなー…」
゛私スカートだったわ…゛


うっかり忘れてた。デントはもう降りてるし…
「デントー?」
「なんだい?」
「今から降りるけど絶対上向かないでね?」
「え…、あ!」

どうやらデントも忘れていたようだ。

「だから先に行ってって言ったじゃないか!」
「忘れてたんだからしょうがないでしょー?デントが上向かなきゃいいだけの話!!ほら、下向いて!
上向いたらデントの顔面を踏み台にするからね」
「わ、わかったから絶対見ないからそんなこと言わないで!」

゛本気でやりそうだから怖い゛
上が気になるがデントは理性を保って無事降りていった。


「痴話喧嘩か…いいね、青春だ」
「それはなんか違う気がする…」
「なんの話だ?」


デント達が降りてくるまでこんな会話が繰り広げられていたのは内緒である。
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