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コアルヒー


とある町から少し外れた広場から、爆発音とともに黒煙が立ち上る。今は昼時、昼食待ちがてらサトシのズルッグ対アイリスのキバゴはバトルの練習をしていたところだった。

「ゴホッ…本人は無傷とな…?」


バトルの横で簡易テーブルのイスを持ち出して観戦していたハンナは爆風に押されてイスごと後ろにひっくり返っていた。
「ごめんハンナさん、次はちゃんと逃げてね」

(あ、人を巻き込まないようにするとかないんだ)
まあ前ほどではないからいいか、と上半身を起こすと食事の準備ができたとついでに私を引っ張り起こしてくれた。
「ありがとうデント」
「いいよこれくらい。怪我はない?」

──日に日にお母さん度が増していませんか?と思ったがこれを言われて喜ぶ男子はまずいないだろう。黙っとく。
すると足元に何かが引っ付いてきた

「ミジュマル、」

゛どうしたの?゛と言葉を続けようとした時だった。視界の端からいきなりサトシが消えた、慌てて駆けつけるがたまたまサトシの手から落ちたボールを踏んでしまい前のめりで地面にダイブした。条件反射で目を固く閉じるがなかなか地面にぶつからない、おかしいと目を開いた途端ようやく地面とこんにちはをした。本当に、つくづくタイミングが悪いよなと自分にむなしく悪態を吐く。視界は暗く上から砂や土の塊が落ちてくる。

゛サトシと私は穴に落ちたのか゛と気づくのは容易だった

急斜面のど真ん中で止まってくれたのが不幸中の幸いか、些か滑りやすいがゆっくり降りていくことにした。




「嘘でしょ―…」
ようやく出口にたどり着いたのはいいが着いた出口より先は落ちたら骨折は免れない高さの崖だった。
しかしハンナより先に落ちていったサトシがいない。

「この下で倒れてますとかはないよね…?」
出口付近は斜面ではないので四つん這いになって顔だけ出して崖下を見るが誰もいない。
「(とりあえずここから降りよう)リザードン、空からサトシを探そう」







「たしかに木が邪魔だけどさ…自然破壊はやめてねリザードン」
あんた攻撃の一回一回が容赦ないんだから、博士に叱られるわ



葉っぱが障害になってなかなか見つけられないことに苛立ちを感じたリザードンが火炎放射をしようとしたのでそれはさすがにまずいだろ、となんとか止めた。邪魔だから燃やしてしまおうってお前はどこぞの破壊神かと言いたくなった
あんま遠くには行ってなさそうだけど葉っぱで道が見えないとなると見つかるものも見つからない。
「しょうがない、低空飛行で行こうか」
木の天辺があたるかあたらないかくらいの高度に下がったとき、突然紫の液体がリザードンに向かって発射された。いきなりだったがギリギリ避けれた。液体が落ちた先を見るとどんどん木が枯れていくではないか
あんなものが人肌に触れたら爛れるどころじゃ済まされない。
「自然破壊はよくないって今言ったばかりだったんだけどな!!」

今見たあれは溶解液かどくどくか、いずれにせよ空にいる私達に向かっていきなり攻撃するところはかなり血の気の多い毒タイプであることは間違いないだろう。技が出てきたポイントに向かって行けばそこには懐かしくも不憫な目に合わせてしまったあのポケモンがいた。


リザードンの背から降りてそこにいたポケモンを見る、正直うわぁと思ったが目の前にこっちから姿を現したのだ、今さら退っ引きなんてできやしないだろう
「君あの時のペンドラーでしょ」
『!?』


目の前にいるペンドラーは大層驚いていた。当たりだったのだろう、ペンドラーなんて野性のポケモンは探せばいくらでも…とまではいかないが当然探せばいるし、一体一体をいちいち見分ける訳がない。
「顎の下の傷、ドリュウズにやられた時のでしょ?」
ハンナが自分の下顎の首辺りを指差して言った。


゛あの時はごめんね?やったのは私じゃないけど゛と言って許してもらえる筈がなく。ペンドラーの二本の角が光を放ちこちらを目掛けて突進してきた。(メガホーンか…)案外ハンナとの距離が近かったためボールを手にとる余裕がない


「…リザードン」













元いた広場からだいぶ離れた場所にてアイリスとデントが落ち合った。デントはサトシとハンナが落ちた穴から辿って現在命綱を使い崖を降っているところで、辺りに爆音が轟いた。
震動で命綱から手が離れそうになったがなんとか耐えきった。

「なんなの!?」
「…アイリス、あれ!」
デントの指が示す方を見れば先程のキバゴの竜の怒りの煙とはまるで規模の違う、そこだけ煙焔が天にみなぎっていた。
「何あれ…」
「とにかく行ってみよう、あれだけすごい炎ならハンナかサトシがいるかもしれないし火事だったら大変だ」
2人の捜索は一時中断。アイリスとデントはミジュマル達を連れて煙焔に向かって走り出した。




「参ったな…」
゛これはどうしたらいいの゛と呟くハンナの目の前にはペンドラーでいう土下座なのか。リザードンによってボロボロにされたペンドラーが私に着いてくるのだ。私が前を向けば着いてきて、振り向けば土下座。そんな私達の横ではラプラスが必死で消火活動中である。リザードンは手加減が大嫌いな気質だ、案の定派手に周りを巻き込んでしまった。ラプラスが頑張ってはいるものの通報されないかがものすごく心配である

犯人であるリザードンはボールの中で昼寝中だ。「なんてやつだ」と思わざるを得ない。



「これはあれか、リザードンの強さに惚れた感じなの?」
するとペンドラーがブンブンと首を千切れるんじゃないだろうかというくらいに縦に振った。(まじで?)自分より強い者を見つけて、その強さに惚れて着いていく。こんなありがちなパターンを口に出してみたら本人はまさかの本気だった。


「んー仲間になるのは全然いいけど…」



サトシやアイリスやデントが知ったらどうなるだろうか(ドリュウズを見て暴れられても困るし、トレーナーとしての腕が試されるな)と軽く頭を掻いた時だった
目の前に水が勢いよく左から右へと走っていく


突然すぎて声も出なかった。本当に目の前、眼前。おかげで顔が濡れた。ペンドラーも驚いて技が来た方に体を向け戦闘の体勢になっている。だんだん近づいてくる草を踏む音にペンドラーが今にも攻撃をかましそう、袖で顔の水滴を拭いながらペンドラーに落ち着けと促した

(足音が多いな…警察沙汰だけは本気で勘弁だぞ…)
ペンドラーに落ち着けと言った反面、内心かなり焦ってる。
「……

………あれ、」



じっと前を見据えて構えていたら草むらからものすごくこちらを見ている見慣れたキバと頭の鶏冠みたいな赤い毛、便利なホタチ。
それに続いて出てきた緑の髪にボリュームのある濃紺の髪と小麦肌


「ハンナさん!!やっと見つけた」
「アイリス、デント…!よかった警察じゃなくて」
「なんで警察の心配?」
「さすがにこれだけの炎だとバトルでなったって言っても放火犯に間違われるかもしれないじゃん?」
「…バトルでなった?これってバトルこうでなったの?」
「うん」



平然と「バトルでこうなった」と言うハンナに一体何をしたらこんなことになるんだと驚きを隠せないデントとアイリスだった。炎はラプラスとミジュマルのおかげで徐々に鎮火しつつある。そろそろ本題に戻そう


「じゃ、ペンドラー」

゛…私と一緒にくる?゛と真新しいモンスターボールを手にとりペンドラーの前に差し出す。すると自らモンスターボールに頭を近づけるがボールが小さいこともあり触覚が邪魔でなかなかボタンに当たらない。本人は結構必死そうだ
(意外と可愛いところもあるんだな)クスッと笑い、今度はハンナからボールを軽くペンドラーの額に押し当てたらペンドラーの体が赤く発光しボールに収まっていった。


「一緒に強くなろうね、ペンドラー」
今の所持してるボールが7個目なためボタンは赤いままだった。(とりあえずヒウンシティまでは誰かにアララギ博士のところに行ってもらおう)データ取りたいって言ってたし

それまでペンドラーの戦闘力と性格やら癖を把握しときたい。(まずは見境なく攻撃するその癖を直さなきゃね、)とボールにむかって軽く笑う。火はとっくに消火され、これがきっかけでミジュマルとラプラスが仲良くなった。
二匹でハイタッチをしている

「さっきからキバゴが怯えてるけどもしかしてそのペンドラーって…」
「まさかあの時の…?」


「え、そうだよ」







あのペンドラーを手懐けたハンナを純粋にすごいと感じた2人だった。それからサトシを探し始めてから数分、デントとアイリスから初めてコアルヒーの存在を教えてもらった。
「で、またクロッシュを盗られたと。しかしまあよく取られるね…」
大人気だね、クロッシュ。
あまり嬉しくない人気だけどね


(いろんな意味で感心だよ)と苦笑いをこぼす
「ねえ、あっちの方騒がしくない?」

アイリスの言う方向を見れば小さい閃光が見え隠れして微かにだが鳴き声も聞こえる
「サトシとピカチュウで決定だね、行こう!」






そのまま走って開けた場所に出てきたら何かがピカチュウによって飛ばされていった。見たことのない技サトシにとっても知らない技だったらしい。「ピカチュウ、今の技は?」と問うがピカチュウに聞いてもしょうがないのでは?と思ったらデントが答えてくれた。「エレキボール」、「エナジーボール」の電気版と言ったところか
「エレキボール?」


「そんなことも知らないの?子どもね」




(……………なんだろうこのなんともいえない感じは)年下に子どもねと言われるこの敗北感。当のアイリスは私がエレキボールを知らないことを知らないわけだが。それよりサトシの横にいるワニみたいなポケモンが気になった。
「この子…」
「サトシ、その子は?」
コアルヒーって顔はしてないしな…
「こいつあの時のメグロコだよ。いつかの砂風呂の!」
いつかはわからないがアイリスとサトシには面識があったらしい。
「でもどうしてここに?」
その時背後からけたたましい鳴き声が耳に入った
見ただけでわかるいたずらっ子さ。なるほど、あれがコアルヒーか、と一人納得しているところで三体が各々攻撃してきた。私とミジュマルの所には熱湯が向かってくる。

「あっつ!!」
ギリギリ命中はしなかったけど飛び散った水滴が顔やら足にかかった。しかしミジュマルはかかるどころか顔面に浴びている。

(水滴だけでも熱いのに顔面に命中って…)
想像するだけでもおぞましい


慌ててミジュマルのお腹を掴んで回避させたが命中したことにはかわりなくかなり熱がってもんどり打っていた。


「なんなのよもー!!」
「なんとも不可解なテイストだ…」
「しっかしここまでくると小憎たらしい超えてムカつく顔に思えてきたな…」
めっちゃくちゃこっち見て笑ってるし…


「いけるかピカチュウ?」
ピカチュウ含め皆のボルテージが上がってきた。殺る気…ヤル気満々といった感じでピカチュウがほっぺから漏電している

コアルヒーにとってピカチュウは最悪の相性
できれば一発で、強烈なものを一発かましてくれないだろうか



と心の内で思ったりした。
「ピカチュウ、10万ボルトだ!!」

さすがは飛行タイプ。吹っ飛ばされても尚風に乗ってどこかへ逃げていった。




(そういえば昼ごはん食べてなかったなー…)
空腹を思い出せば控えめな音が鳴った。゛取り戻すものも返ってきたし何か食べようよ゛と言えば皆も同じだったようだ。早急に町へ戻ることにした。



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