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ソムリエ対決





「バトルは2対2よ。いいわね?」

「ああ、それでいいよ」



フレンドリーショップ横の開けた地、そこでデント対カベルネのバトルをすることになった。
「いよいよソムリエ対決だ、こんなの見るの初めてだぜ!」
「でもなんだかめんどくさいバトルになりそうな感じ」
「私はもう自分の腹筋が心配だよ」
「安心して、ハンナさんはただの笑いすぎ」


ギャラリーの和やかなムードとはまた変わってフィールドの両者はソムリエのプライドを懸けたバトルを始めた。
「行け、フタチマル!!」

軽快な音とともに飛び出したのはフタチマル。(そういえばフタチマル以外のポケモンはまだ見てなかったな)バトルの実力は間違いなくデントの方が上。腹筋の心配よりあのカベルネがどう出るかの興味方が勝った。


「水タイプには草タイプが有利よね」
「ああ、ここは当然草タイプのヤナップでバトルだな」
「相性ひっくり返してイシズマイだったりしてね」
「デントに限ってそれはないでしょ」
「そお?」

デントはカベルネに『マニュアル通りの判断だけではダメだ』と言った。それをわからせるために一番手っ取り早い方法といえばこれしかないだろう

「行け、僕のポケモン!」





「え、イシズマイ…?」
サトシやアイリスの予想とは違いヤナップではなくイシズマイだった。
デントの先攻が何かを警戒してたカベルネがふと笑みを浮かべた

「ボンジュール、テイスティングターイム!シルブプレ!」
ソムリエの決め台詞ってやっぱり健在なんだ…

「シ…何?」
「『シルブプレ』はお願いしますって意味のフランス語だよ」
「すごい!!ハンナさん外国の言葉にも詳しいんだ!」
初めてバトル以外で褒められた気がする



「あ〜ら、水タイプに虫岩タイプのイシズマイを出すなんて、あなたの腕もコルクの栓を抜く前に腐っちゃったのかしら?」

「ふ、イッツ…テイスティングタイム!!
それはどうかな、まずは君のポケモンをしっかりとホストテイスティングさせてもらおう」
「フン、私が勝ったらサトシへのテイスティングが正しかったって証明されるわよね?」
「そんなことは絶対あり得ない」

「…じゃあ勝ったらサトシの持ちポケモンを全部入れ替えさせるって約束してよ?」



「哀れサトシ…」
「ええ!?なんで!!?オレ関係ないだろ!?ハンナさんも何笑ってんだよ!!」

゛ポン、゛
゛肩ポンすんなよ!!゛
(ダメだ、ハンナさん完全に面白がってる…)
ハンナに遊ばれてるサトシを横目に子どもね…と肩を竦めるアイリス。


「だってデントはあなたとポケモンの関係はいい距離って言ったわ。だけど私のテイスティングではあなたとポケモンの相性は

ダメダメのダメなのよ!!」

「そんな無茶な…デント、何とか言ってやってくれ───」
「いいだろう」


この場面で一番カベルネに話が通せるのはデント。サトシの選択は間違ってなかった。だがそのサトシの希望を言い終える前にデントは軽く跳ね返す。
サトシは「え…、」と絶望的な声を漏らした

「カベルネ、君の申し出を受けよう!」


゛ええええええええ!?゛
横では手持ち総入れ替えの危機に晒されたサトシが叫び
゛アッハッハッハ!!゛
さらに横ではそんなサトシとまるで話を聞かないデントを見て腹抱えて笑うハンナ
アイリスはただ゛デント、早く決着を着けてくれ。゛と祈るばかりであった。


「Aクラスソムリエの名に懸けて、もし負けたら僕の責任でサトシのポケモンを総入れ替えさせる!!」
「勝手に約束すんなよ!!!!」
「安心しろ!!


…Aクラスソムリエのリストに、『見立て違い』という言葉は無い!!!!」

一瞬デントの背景が変わった気がしたけどきっと気のせい。
「そんなぁ…どういうつもりだよデント…」
「デントはテイスティングタイムになると性格が変わっちゃうのよね」
「ハァ、あれは人格的に変わってるだろ…」
「負けたらどうすんだよ…」
「ていうかバトルは…?」

「…ハンナさん、ハアハア言ってるけど大丈夫?座ったら?」
ハンナは笑いすぎですぐ後ろの木に片手をついてもたれ掛かった状態で会話に入っていた。

「大丈夫。笑いすぎただけだから」
「そ、…んーデントのことだからきっと何か考えてると思うけど」
「イシズマイなら大丈夫だよ、あの程度のフタチマルなら難なく倒せる。」
「そんな腹筋抑えてる状態でもちゃんと見るところは見てるのね…」


すごいんだかそうでないんだか…よくわからないなとアイリスがこめかみを軽く抑えるとバトルは始まった。
「フタチマル、みずでっぽう!」

「守るだ」

勢いよく発射されたみずでっぽうだが守るによって上空に向かって弾き返された。続いてカベルネが連続切りを指示するもまた守られる

「守ってばっかりね…」
「やっぱり虫岩タイプのイシズマイじゃ水タイプのフタチマルには歯が立たないんじゃ…」
「いや、私がデントだったら同じことをイシズマイに指示してるよ」

あのフタチマルはサンヨウのジム戦でも見たがただ攻めるだけで隙がありすぎる。デントのやり方から見るとイシズマイの特性はシェルアーマーではなく頑丈持ち。一方的に攻撃させつつこっちは守って相手を疲れさせてから殻を破って一気に決めるつもりだろう。アイリスやサトシはまだわからないみたいだが(特性を生かしたソムリエらしい戦い方ではあるな)
さすがはジムリーダーをやってただけある。


(まあ殻を破って著しく低下した防御力のイシズマイにフタチマルがアクアジェットをしてきたらそれで終わりなわけだが)
ジム戦では使ってなかったし、まだ修得はしていないだろう



「守ってばかり!Aクラスソムリエにしては単調すぎる戦略ね
やっぱりイシズマイにとってフタチマルは最低のマリアージュだったわね。次の攻撃で決めるわよ!」




「サトシ、アイリス、そろそろイシズマイが本領出すよ」
「「!」」


「水の波動!!」

技が直撃し殻にこもったイシズマイを見て勝利を確信したのも束の間、効果が抜群だったにも関わらず平然と立て直していた。


「水の波動を耐えきったの…!?」
「このイシズマイの特性は゛頑丈゛なんだ」
「…ッ!」


「さすがデントね…」
「あれ、フタチマル…どうしたんだ?」
「攻め疲れたのかも…」


「イシズマイの芳醇さが香りたつのはこれからだ!殻を破る!」


(どうするカベルネ)今じゃ笑いも治まりじっとカベルネの様子と判断を見る。

「シザークロス!!」
殻を破ったことによりイシズマイの技は倍に上がる。それに加えタイプ一致のシザークロス。弾き返すにしても力負けするだろう。
そのイシズマイに対するカベルネの指示はシェルブレードだった。
空中でお互いの技がぶつかり合うがやはり疲れが大きく出たようだ


──フタチマルは目を回して倒れた。

「フタチマル大丈夫!?戻って、」


「まずは一体目だね、」
「イシズマイが勝ったぞ!」
「守りを捨てた分イシズマイの攻撃力が上がったのね!」


「わかったかい?」
「…っ」
カベルネが悔しそうに眉を寄せる。そこへデントがフタチマルにイシズマイをぶつけた理由を述べた。
「僕のイシズマイの特性なら水タイプの攻撃にも耐えられると読んだうえでフタチマルにぶつけたんだ。

ポケモンの奥は深い。だから、マニュアル通りのテイスティングではダメなんだ。」

「それを私に教えるためにわざと不利なマリアージュを…?」
「君は未だ、テイスティングの本質を理解していないようだ。ソムリエは否定するだけでなく、一体一体のポケモンの個性を見抜いて生かしてあげなければならないんだ!」


「おぉ…」
「なんでハンナさんが納得してるの…」
「いや、ついね…。」
「全く呑気ねー…」
「アイリス、サトシに対しては子ども、私に対しては呑気ばかり言ってない?」
「事実でしょ?」
「なっ、誰が子どもだよ!!」

外野の空気とは全く逆なフィールド内、カベルネは次のポケモンを繰り出した。
「まだバトルは終わってないわ、メブキジカ!!」


「メブキジカ!?」
カベルネが出したポケモンは博士から調査を任された2体のうちの一体、メブキジカだった。頭の角には梅のような小さいピンクの花が咲いている。
(あとでカベルネに頼んで見させてもらおう)
ついでに回復もしてあげよう。

「メブキジカこそマイヴィンテージ、次は何をテイスティングさせてくれるのかしら?」

「お疲れ様、戻れイシズマイ。行くぞ、マイヴィンテージ…ヤナップ!!」


「(ヴィンテージうつった!)」
ソムリエって何かとワインに関する言葉を使いたがるなと思ったのは私だけか


「カベルネ、君のバトルには素朴な土の香りと、力強い底力を感じる。──しかし吟味され熟成されるまでにはまだまだ時間が掛かるようだ。」


デントやソムリエのテイスティングは比喩が多すぎてなかなか言ってることはわからないことがあるけどそんなことより、
「ヤナップあのポーズでデントの指示を待つなんてなんて健気なの…!!」
「ハンナさんて人よりちょっと視点がずれてない?」
「むしろそれがハンナさんだろ」
゛サトシにしては珍しく納得のいく言葉ね゛と思うアイリスであった。


「もお!!そのテイスティングが腹立つんだからあ!!!
ウッドホーン!!」
感情のままに指示を出すがヤナップはそれを穴を掘って回避した。

「止まれ、メブキジカ!


──華やかな味わいの奥に隠された秘密の香り…デントは何を考えているの…?」



(なかなかソムリエールらしいこと言うじゃん)
少し台詞が少女漫画チックだけど
最初は否定してばかりだったが少なからずデントからいい影響をもらったということだろうか

「カベルネ

今日は君にポケモンバトルの奥深さを、十二分に味わってもらう」


その時、メブキジカの後ろ足元からヤナップが地中から飛び出した
隙を逃すまいとカベルネが飛び蹴りの指示を出すがまたも穴を掘って回避される。
「タネマシンガン!」


デントの指示でヤナップが前後左右からタネマシンガンを浴びせ(前からはなかったが)メブキジカが翻弄されている。
なかなか攻撃が当たらないこともありカベルネの冷静さがなくなってきた。

「前から後ろから─…時には複雑な香りへ敵を眩惑する
これもまたポケモンバトルの味わい…」


──一方ギャラリーでは
「え、あれは誰?」
「本当だ、いつものデントの性格と違う」
「ね?言ったでしょ」



地面からひとつの亀裂が生じる、それを見つけたカベルネがすかさずメガホーンと指示する

「そして、ここぞというときに有無を言わせぬ強力な味わいで止めを指す!!

ソーラービームッ!!!!」











「デント…ノリッノリだなぁ…」
「ハンナさん緊張感抜けるからやめて!!」






さすがは太陽パワーなだけある、辺りが白に包まれた。デントが何かを言ったがそれどころではなく、強い光で視界がぼやけていたがクリアになったときにはメブキジカは横倒しになっていた。

「ああっ…メブキジカ!!大丈夫!?

…お疲れ様。ゆっくり休んでね」
メブキジカをボールに戻せばデントへ良いとは程遠いきつい視線を向けた。だが実力の差を思い知ったせいもありすぐに下へ向けた。
サトシやアイリスが何かを喋っているが私にはやることがある。





「カベルネ」

「…何かしら。慰めや同情はいらないからね」

「(相当キテるな…)違う違う。ちょっと協力してほしいことがあってね」
「協力?私が?」

そう、と頷いたあとにその旨を伝えればすんなり了承してくれた。








「よし、メブキジカの応急処置はこのくらいで大丈夫でしょ!」

゛次は調べに入るよー゛


私はボードを片手に、反対の手にはペンを持ちさっそくメブキジカの調査に入った。幸いこのメブキジカは大人しい子だった。(暴れられてウッドホーンなんかかまされたらひとたまりもない)カベルネはメブキジカが元気になったはずなのになぜか浮かない顔をしている。

「…ハンナ」
「ん?」
「私フタチマルやメブキジカ自身の力を引き出せてた?生かせてた…?」
「…単刀直入に言ってまだまだってとこかな」

グッと拳を握って唇噛み締めてるのは見なくてもわかった。だが慰めてもしょうがないため敢えてきつい一言を浴びせる。
「でもカベルネって恵まれてるよ?」
「何が?今日は散々だったじゃない」
「散々でも最初はそれでいいの。誰だって失敗の連続で成長するって言うでしょ」
「でもっ…」
「『バトルも料理も熟成するには時間がかかるもの』」
「…!」
「これはデントの受け売りだけどね、本当にその通りだと思うよ?それにさ、デントみたいないい先輩ってなかなかいないよ。私が恵まれてるって言いたかったのはそっちのこと」
「…デントが先輩っていうのは…なんか…嫌だけど、次は絶対デントに負けない!バトルもテイスティングも!」


゛いつか絶っ対メッタ切りにしてやるわ!!゛



…あれ。
何かが違う気がするけど…まあやる気を出せたからまあいいか


「うん、一応今はこれくらいでいいかな。メブキジカありがとね、カベルネ!メブキジカ戻していいよ!」
「ええ。


ハンナ、私絶対Sクラスソムリエールになってみせる」
「うん」
「デントを越えて、有名になって、自分のお店開いて」
「うん」
「その時にハンナとハンナのポケモン達をテイスティングさせてね!!」

゛あ、次会った時も!!゛


カベルネのやる気は今まで合った人の中でも群を抜いてるな、

「もちろん、いいよ!!
頑張ってねカベルネ、応援してる」
「ありがとうハンナ!そうと決まればもう行くわね!」

その言葉と同時にサトシ達に呼ばれたので一緒に入り口まで行くことにした。
空はもう橙色に染まっている、結構待たせてしまったかも。
ごめんとサトシ達に一声かける私の横をそのままカベルネは私達を通りすぎて次の道を進んだ。

「カベルネ、」


デントに名前を呼ばれたことにより歩を止めた。だがこちらを振り向きはしない。負けた悔しさはかなりでかかったのだろう

デントがそのまま話を続けるがカベルネの肩がだんだん震えてきてるのは見てわかった。
「君の秘められたポテンシャルはなかなかのものだったよ、しかし才能はまだ開ききっていないようだ。もう少し時間をかけて、熟成させたほうが…」


「そのテイスティングが頭に来るのよッ!!!


いい?必ずSクラスソムリエールになって、バトルでもあなたを倒してみせるんだから!!」
結構な迫力と声量で言い切ったがここは年上はたまたAクラスソムリエの余裕か
「うん、楽しみにしているよ」
と店の営業スマイルとは違う笑顔で返した。あくまで私から見た感じだと『後輩に向ける笑顔』って感じだ。

そして視線を再びカベルネに戻せばなぜか顔をほのかに赤く染めて唸るカベルネの姿が目に入った。


(デントスマイルすげえ…)

なにか違う気がするがこれがハンナなので気にしない



「絶っ対リベンジしてやるからね!フンッ!」

台風のように過ぎ去っていった。
「あ…行っちゃった」
「よっぽど悔しかったんだろうな」
「でもね、Cクラスだってポケモンソムリエの試験に合格するのは難しいんだよ
あのやる気だけは、認めてあげてもよさそうだね」


(ソムリエはポケモンだけじゃなくて人も見るんだな、)
「カベルネはいいね、こんないい先輩に会えてさ」

ん〜っと腕を上げて背筋を伸ばせば「そういえばさっきカベルネと何を話してたの?」と聞かれたが
「デントには教えない」

と言っといた。
なんでと聞きたそうにしていたがあの決意を知るのは私だけで十分だ。


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