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カベルネ


「──じゃあ私はファッションのコーナーにいるから何かあったら呼んでね」
「わかった。じゃあまたあとで」


ヒウンシティまでの道中、ふと気になる建物が目についた。道はまっすぐその建物へと伸びていたのでそのまま歩を進めれば、見えたのはフレンドリーショップの開店セールをしているところだった。そして各自が見たいところを回ることになった。




──前みたいにずぶ濡れになった時のために一着でも買っとこう。
ベルと初めて会った時のこと、ベルにタックルされた私はそのままデントやサトシを道連れに川へ飛び込んで上記に書いた通りのずぶ濡れ状態。このままでは風邪をひいてしまうと仕方無く上を脱ぎ素肌の上から白衣を着てやり過ごそうとした。

そうするしかなかったとは言えまさかアイリスに「そんな破廉恥な格好をするな!!」と怒鳴られる日がくるなんて…一体どのへんが破廉恥なんだよと問いたくなる。


「あ、可愛い…」
(私一回迷うと決めるのに時間がかかるからな…)なんとなく目に留まった一着のTシャツ。旅をするならワンピースやチュニックよりも動きやすいTシャツの方がいいだろう。それになかなかデザインが可愛らしい

それに着替えだし、よしこれにしよう。












「アイリス、デント」
「ハンナさん!サトシ見なかった?」
「見なかったけど…どっかまだ見てるんじゃないの?」
「もぉ、子供ね〜…
私探してくる!!ハンナさんとデントはここで座って待ってて」
「え、ちょっとアイリス!?僕も─…行っちゃった」
「まあここはアイリスに任せて大人しく座ろっか」




…ベンチに座ったはいいものの、(そういえばシンオウでは実験や学会での発表やらバタバタして寝てなかったからな…)ハンナは睡魔に襲われていた。
その一方でのデントはハンナを隣に心の中ではある葛藤を繰り広げていた。




(え…、どうする?どうするの僕…よく考えたら僕とハンナの2人きりとかこの連載に一回もなかったから困るよどうしたらいいの!?ハンナも黙ったままだしずっと沈黙のままはせっかくの管理人から与えてくれたチャンスを沈黙で過ごすなんてもったいないしだからと言って今度はなんて話しかけたらいいか迷うわけでああああああこんなシーンあるなんて聞いてないよ!!まさかだよ!!大誤算だよ!!いや…だが聞いてなかったとはいえマニュアル通りの男ではないはずだデント!そうだ!!僕は台本や教本通りにはならない男だ!ここでグッと距離を縮めてしまえデント!やるんだ!!チャンスを使うんだ僕はやればできる子デントだ!!デントのデは出来る子のデだ!!出来杉君の頭文字だってデじゃないか!あ、関係無いか…いや、僕は出来杉を越える存在だ!僕なら出来る!)

デントの百面相は行く人々の視線を集めていた。


「ハンナ、さっきは何買っ──…」





意を決して話しかけた瞬間トサッと軽い重さが自分の肩に乗っかる。ハンナの顔を覗いてみればかすかに聞こえる寝息、閉じられた目








───ここで寝るんだ!?

デントはただただハンナのフリーダムっぷりに驚くしかなかった






所変わってフレンドリーショップ内本屋
サトシを捜索中のアイリスの目に留まったある名前。よくハンナの口から電話から聞く名前が雑誌の表紙にでかく書かれていた。

「そういえばナナカマド博士ってどんな人なんだろうねキバゴ」
ちょっと休憩がてらパラパラと捲って読み流していたらあるページで手が止まった。そのページを大きく開き書かれている名前と映っている写真にアイリスは自分の目を疑う。

「キバゴ…これ、この人ってハンナさんだよね…?これハンナって書いてあるよね?」



そこに映っていたものは茶髪の男の子の隣に立つ、
いつも一緒にいる、自分より少し背が高く、ちょうどよい細身で、少しジト目気味だが大きい瞳、左耳にあるシンプルなピアスに高い位置で1つに結われたサイドテール
いつもと違うのはバトルの時に見せるような真剣な目付きに白衣を着用していること


紛れもなくあのハンナだった




「…学会で発表したレポートを元にした論文で高い評価を得たハンナさん(15)と10歳ながら…(シゲルってこの人のことね…)若くしてナナカマド博士の助手につく2人に迫る!!

…ていうか!!ハンナって実は結構すごい人…?」

記事の続きが気になるがサトシを捜索中のうえハンナやデントが待ってる間にサトシが帰って来たりでもしてたら嫌だ…


雑誌を一冊片手にレジへと向かい待たせてる二人の元へと戻ることにした。








「私がいない間に進展したのはおめでとう。だけどさ、


………ふつう逆じゃない?」
「しょっしょうがないじゃないか!無理に動かしたら起きると思って…!」


若干涙目でアイリスに反論するデント。隣にいたハンナは横になり頭がデントの膝のうえに乗っかり所謂膝枕状態になっていた。

「ずるずる倒れていって今の状態になったってことね…(あの雑誌のハンナさん別人だったりして)

しょうがないなぁ。
ハンナさん、起きて!!サトシを探さなきゃいけないでしょ!!」


「・・・・・・」



「起きないね」
「うーん…ちょっとデントキスでもやってみなさいよ」

「はあ!?」




「…………………………ぁ…、アイリス?」
サトシは見つかった?
と寝起きのトロンとした目を擦りながら起き上がったハンナ。

「見つかってないわ。それよりハンナさん、シンオウでまた夜更かししたでしょ」



「え…うん。」

「やっぱり…まあいいや(さっきの記事見た限りだとシンオウでは学会発表とかで忙しかったんだろうな)

ハンナさんこれからは夜更かし厳禁ね。」


さ、サトシ探すわよ!!と先に行ってしまうアイリスを「なんで!?」と追いかける
デントは自分も行かなければと軽く熱くなった頬を叩いて前にいる2人を慌てて追いかけた。





どこを探しても見つからない、さすがに店内とはいえこんなに広いと走ったら疲れた。
(迷子アナウンスでもしようかな…)
サトシには悪いけど。と良からぬことを考えていたら突然口論の声が響いた。
聞き覚えのある声、ピカチュウの鳴き声。これはもうサトシしかいないだろう。相手は「ポケモン総入れ替え」だの「ジムバッジ集めやポケモンマスターマスターなんてムリ」などサトシにとって不吉極まりないことを言っている。

高い声からして女の子だろうが…どこかで聞いた声だ。




「ポケモンソムリエールの私が言うんだから、間違いないの!」

ソムリエール。女性のソムリエのことを指すその言葉、何かが引っ掛かるが思い出せない。必死に何かを思い出そうとしているハンナをさておきアイリスとデントは青いカーテンを開けサトシを発見した。

「サトシ、こんなところにいたんだ」
「戻ってみたらいなかったから心配したよ」
デントの声に小さく反応した紫の髪を持つ女の子は振り向き、驚愕の面持ちでデントを指差し、叫んだ

「ああああああああ、あなた!!」



気になるがサトシとアイリスの髪で見えない。少し場所をずらして見ようとすれば最近聞いた名前とまさにその本人から短時間に何回も聞かされた簡単なエピソード


「あれ、君はたしか…」
「デント、カベルネのこと知ってるのか?」
「ああ、サンヨウジムにジム戦を挑んできたけど僕と戦って負けたんだよ」

「ここで会ったが100年目!今日こそあなたにリベンジするから!!」


サンヨウジムにバイトした時に出会ったカベルネは打倒デントの塊みたいな人、それに私がデント達と旅してることを言っていない。(…非常に出にくい)
もう少し隠れてよう。



「リベンジって言われても…」
「ただ負けただけでも悔しいのに、あなた私のポケモンのことをもっともらしい言葉を並べ立てて批評したでしょ!!」
「ああ。僕はポケモンソムリエだからね」

「そうよ!!そのソムリエよ!!」

そう悔しそうにカベルネはデントに負けた時のことを語り始めた
『お前のポケモンは余程酷い環境で保管されていたんだなあ。まずい、まずすぎるぞ!
顔を洗って出直してくるんだヌァッハッハッハ!!』


「そんなこと言ってない」
デントが冷静に否定したがカベルネの話はまだ続いた
「似たようなこと言ったわよ。だから私悔しくて…あなた以上のポケモンソムリエになって、テイスティングでメッタ切りにしてやろうと決めたのよ!!で、まずは資格をとるために試験を受け、そして見事ポケモンソムリエ協会公認ソムリエールになったんだから!!

…なのにサンヨウジムにリベンジしに行ったら、デントは旅に出てジムにはいないって言うじゃない!
私がリベンジにくることを知って逃げたのねええ!!」
「別に逃げてないけど」

(もうだめだ、笑いが耐えきれない、!!)
先程から聞いているカベルネエピソード、私が聞いた時よりもデントのテイスティングが極悪非道になっていた

もう笑いを我慢しすぎて体が震えて蹲っていたら震えてることが気になったのだろうか、キバゴが私の上に飛び乗ってきた。さすが18kg、不意に乗ってこられたからぐえ、なんてカエルの潰れたような声が出てしまった。

「ハンナさん!?大丈夫?キバゴ、いきなり飛び乗っちゃ駄目じゃない!」
「いやいいって、キバゴ叱らないであげてよ」


カベルネにとっても聞き覚えのある声。さらにアイリスが屈んだことにより今まで見えてなかった姿が晒された

「ハンナ!?あなたがどうしてここに!?」
「え、ハンナもカベルネのことを知ってたの!?」


「久しぶりカベルネ、元気そうなのは何よりだけどさっきのデントの真似は私が聞いたときより酷くなってるって、」
保管って何…、と耐えきれずに笑い出してしまったハンナ。僕はあんなこと言わないよ!!と抗議の声をあげるデント。


「まあ言った言ってないはおいといて、せっかく追いかけてきてくれたのに悪いけどここはジムじゃないからバッジを懸けたバトルはできないよ」
「それは問題ないよ、カベルネはポッドを倒してバッジはゲットしてあるから」

「その通りよ!今の私の夢はあなたを倒して一流のソムリエールになること、そして有名になって自分のソムリエショップを開くことなのよー!」


「あれ?ここカベルネのソムリエショップじゃなかったんだ」


カベルネの動きがピタリと止まった(カベルネ墓穴掘ったな…)サトシに便乗して追い討ちをかけてみる
「そういえばデントの話によれば相性診断ができるのはAランクからじゃなかったっけ?」

ちょっと声がにやけてしまったがまあいい。効果は絶大だろう。
「君はどのクラスのソムリエなんだい?」




「……し、Cクラスだけど…なにか?」


「おかしいな、Cクラスはまだ新人クラス。Aクラス以上のソムリエにアシスタントとしてつくことしか認められていないはずだよ」
「ああ!やっぱり相性が悪いなんてでたらめだったんだ!」

「なによ、誰が見てもみんな私と同じことを言うわよ!即、ポケモン総入れ替えよ!」


(…なんでそこで総入れ替えになるの?)
カベルネのサトシのポケモンの相性の結果論に対する考えはこれだった。ソムリエのことはよくわからないが、相性が悪いのならそこからどうするかをアドバイスするのがソムリエだということではないのか?


「その必要はないさ。

サトシとポケモンの関係はいい距離感だと思うよ」


さすがAクラスというだけあるって言ったらいいのだろうか、ずっと一緒に旅をしてるだけあって簡潔だが何か説得力があった。
「どうやら、君のテイスティングに問題があるみたいだね」


「、なんですって…!?」
「ポケモンとトレーナーの相性というのは奥が深い。マニュアル通りの判断だけで正しいテイスティングはできないよ」

(マニュアルなんてあったんだ…)
デントに正論を言われたことによりわなわなとカベルネが口を開いた


「あなたに言われたくない…!

今の私の実力があなた以上だってこと、バトルで証明してみせるわ!!」


「わかった。そのバトル受けるよ」



(まあ先輩ソムリエなら受けて当然かもしれないな、)
カベルネ含む一同はさっそく屋外に出ていった。
ハンナの腹筋が本気で壊れるまでそう遠くはない
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