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シンオウ帰還


────シンオウ地方カノコタウン・ナナカマド研究所前


「では博士、私はこれで失礼しますね。」
 日が西に傾きかけカノコタウンがオレンジに染まる夕刻。
「もう行くのかね?」


「はい、…本当は泊まろうか迷ったんですがゲンや他の皆に何も言わずにイッシュに行ったのでせっかくだし会って軽く挨拶くらいしようかなと思って」

「それもそうだな…

………」

「…博士?」



「君はちょっと見ない間に少し逞しくなったような気がしてな」

「そうですか?」

 久々のシンオウにナナカマド研究所、まだ旅してそんなに経ってないせいもあり変わったところは特にはなかった。整頓された本棚に少し古い臭いのする資料庫、必要最低限の物がきれいに並べられた博士の机。

「それじゃあ気を付けるんだぞハンナ君、君は意外と危なっかしいから…」
「はい、わかります。言いたいことはなんとなく察しました博士!…シゲルや皆によろしく伝えといてください」



「ウム…よい旅をな」

「ハイッ」












「じゃあさっそく行こうかリザードン。まずはここに行こう」

カノコタウン上空、地図に指差し方向を示せばリザードンは示した方へと進んでいく。


──やっぱり北国にあたるシンオウの空気はイッシュや他の地方に比べて冷たいな、

向かい風が少し痛い。



博士から頼まれたのは「シキジカとメブキジカについてと捕獲」、「ヤグルマの森にあるリーフィアへの進化の岩の調査」の2つだった。
シキジカはヤブクロンの保育園の先生のシキジカを見てからヒヒダルマの次に調べようと思ってたからちょうどよかった。
(シキジカとメブキジカはフォルムチェンジではないが四季の変化で色姿が変わるのは興味深い。)

だけどヤグルマの森は私が帰った頃にはもう過ぎているのではないだろうか。行くだけならネイティがいるからいいとしても、

「また別行動になるのか―…まあ博士の頼みだからしょうがないんだけどね」
軽く自己嫌悪に陥っていたらいつの間にか目的地に着いていた。
リザードンをボールに戻さずに辺りを見渡す。


「…ここも変わらないね」



──鋼鉄島。
私がナナカマド博士に調査を頼まれ何度も足を運んだ地でもあり、修行の場でもある。
(ストライクをハッサムにしたくてゲンとルカリオとストライクでメタルコートを探したなあ…)


ひんやりとした島の内部。ゲンと始めて会ったのは博士の助手になって間もない頃。調査のためにこの島にやって来た。
だが途中まで調査は順調だったが突然2体のハガネールに襲われたのだ。ちょうどその時音を聞きつけてやって来たゲンとルカリオが私を助けようとしたらしいのだが、


ハガネールという巨体のせいで周りなんて、ましてや人と120cmのポケモンなんて見える筈がなく。
私を助けようという厚意など露知らず。




リザードンのぶっ放したフレアドライブにハガネールやルカリオもろとも巻き込んで退治してしまった。





それを目の当たりにした当のゲンは

いきなり辺り一面を覆った高温で目を閉じ、再び開けたら
助けに入った筈の自分の相棒が目の前で目を回して瀕死になっているではないか

あの時のゲンの驚愕した顔といったら今でも忘れられない。


「懐かしいなあ…」
「ああ、本当に。ちょっと身長伸びた?」


!?






突然耳に入った男性特有の低い声
特徴的な帽子に青を基調とした服
その横にいるルカリオ

「ルカリオ〜!!!ちょっと久々に肉球堪能させて」
「おいハンナ」

「あ゛〜癒されるわ〜」
「ハンナー」

「このぷにぷに感は生まれたてのガーディの肉球より柔らかいかもね」
「………」





鋼鉄島が小さく揺れた。





「…………

…………いや、ね?うん。無視したのは謝るけどさ、久しぶりに会った私に波導ぶっ放すのは大人としてどーなのよゲンさんや」



「教育のうちだよ
いきなりシンオウからいなくなったと思えば突然ふらっと現れて…」



あれ、なんで私正座で説教されてるの…?




「いやいや訳もなくシンオウから出た訳じゃないからね?
博士の届け物を届けに行ってそのまま旅してただけだから」


「だからといって連絡のひとつも寄越さないし夜になっても帰ってこないから心配したんだぞ」


…私は散歩から帰ってこない猫か。
「まあ元気そうだしよかったけどこれからはちゃんと連絡するんだよ」

「はーい」



ゲンがこんなに心配する理由
さっきも言ったようにこの島にはよく…いや何度も、それこそ何日も留まることもある。なのでゲンの家に世話になることが多々あったためもう保護者みたいになってきたのだ。この様子だと、恐らく私の使っていた空き部屋はまだ健在だろう。


「で、今までどこにいたんだい」


未だにゲンの眉間には僅かに皺が寄っている。痕になりますよー

「イッシュ地方。すごく良いところでさ、見たことないポケモンばかりで探究心がそそられるよ。
そうそう、さっきまでナナカマド博士の所にいたんだけどイッシュのポケモンについてのレポート好評もらったんだよ!」


私とゲンが時間が経つのを忘れるくらい話し込んでる間にリザードンとルカリオがその辺の岩場で二匹並んで座って待っていた。


「そろそろ暗くなってきたな…」

「そうだね。じゃあ私はミオ図書館に寄ってナギサのポケセンに今日は泊まろうかな」
「なんだ、泊まらないのか?」
「あー、今イッシュに一緒に旅してる仲間がいるからそんなにシンオウにいられなくてさ、軽く挨拶でもと思って来たから…」

「そうか、」



「久々に会えたしバトルもしたかったけどイッシュの旅が終わったらバトルしようよ!!」



ボーマンダには負けないからね!、なんて宣戦布告をしてみたりする。いつもボーマンダで止まるのだ。
「イッシュでボーマンダを突破できるくらい強くなってくるんだよハンナ。

もうそろそろ行かないとミオ図書館閉まる、急がないとダメだよ」


(こういうところが親っぽいよね―…)
「わかったよ、じゃあねゲン!早く彼女作りなよ!!」


私は急いで逃げるようにリザードンに跨がりミオ図書館へ向かう。あんまり子供扱いしてきたお返しだ!!
案の定ゲンは大きなお世話だ!、と言い返してきた。













ミオ図書館は…






閉まってたので現在進行形でナギサに向かっている。館長さんに挨拶したかったけど仕方がない、あのニートのところに行ってくるかと思ったのに…


「よぉ、お前違う地方行ってたんじゃなかったのか」

「ニートからデンジに進化した…だと!?」



あのジム改造するかナギサタワーでぐーたらするしかしてなかったあのニートが、ちゃんとジムリーダー業をこなしてる!!

「どういう意味だ、オイ」



「うっわ…人間何が起こるかわからないもんだね、私ちょっと感動した!」

「なに涙拭くフリしてんだよ。ペンチで頭カチ割るぞ」

「マイ工具で何しようとしてんだジムリーダー!嘘だよすみません」

「よろしい」



なにこのデジャブ

「またすごい仕掛け作ったね…」
こんな大掛かりな仕掛けを一人でこなしてしまうもんだから驚きである。
「俺としては、ただ挨拶しに来ただけなのにジムトレーナーを全滅させたことの方が驚きなんだが。チマリが泣いてるじゃねえか」

来た通路を振り返り下の階を覗いてみた。よく見たらピカチュウの格好をした女の子がクスン、と鼻を啜っていた。


゛なにしてくれてんだ゛

゛気にするでない゛





「あれ…ハンナ!!?」

「?、あっオーバだ」
「は?またうるさいのがきたな…」
「もうあれは見た目がうるさいよね」
「そうそう、さりげなくあいつからハンバーガーの匂いがするから困るんだよな、あれって狙ってんの?」
「アッハッハ冗談に聞こえないんだけど!!」
「お前ら!!」







「本っ当お前ら2人相手にすると疲れが半端ねえよ」



「私はオーバを見ると色彩的に眼が疲れるよ」
「俺はマ●クに行きたくなる」
「あ、わかるそれ」

「そろそろキレるぞ―」




「オーバは何しに来たの?」
「四天王サボってんなよ…」

「お前だけには本気で言われたくねえよ
オレはむしろハンナがいることに驚いたよ、お前イッシュにいたんじゃねえのか」

「いたけどナナカマド博士に呼ばれてね。シンオウにはそう長くはいないよ。」

「そっかお前ナナカマド博士の助手してんだもんな。イッシュのジムってどんなんだった?」


゛まあ俺のジムの仕掛けには勝てないだろうがな゛




「てかなんでオーバが私がイッシュにいること知ってんの?」
「シロナから聞いたんだよ。お前の先輩からな」

「あ〜…シロナさんからか」

シロナさんはナナカマド博士の後輩にあたる。なので博士の助手にいる私はシロナさんの後輩にあたる。研究分野は違うが。
「よくよく考えるとお前シンオウチャンピオンが先輩ってすげえな…」

「でもシロナさんは神話を専門とした考古学の畑の人だもん。研究者としては先輩だけど私とはまた違う分野だから響きはすごいけど言うほど会えないよ。」


はあーシロナさん!久々に会いたいな〜、とため息混じりに言えば私のポケギアが鳴った

オーバとデンジから少しだけ離れた
「ちょっとごめん。


…もしもしデント?」


「おお〜ハンナさん久しぶり!」
「あ!ハンナさん?ごめんねデントじゃなくて!」
「あっアイリス!何言ってるんだい!?


ハンナ、僕達今ヤグルマの森を抜けたポケモンセンターにいるんだけど…ハンナの用事は終わった?」


「本当!?こっちは終わったよ。ネイティは大丈夫?」

「ああ、このとおりいつでも大丈夫だよ」
「わかった、ちょっと待っててね


デンジにオーバ、イッシュに帰る時間になったからそろそろバイバイね。」

「ハァ!?お前イッシュに帰るってあそこかなり遠いんだろ?」
「こんな夜にイッシュ行きの船なんてあったか?」


「ううん。ネイティのテレポートで帰れるから大丈夫。」



「ああ、そういやいたなネイティ。」
「いや関心するとこじゃねえだろ…」


「それじゃあ2人とも、仕事頑張ってよ!」
グッと親指を立てたらテレポートでやってきたネイティが親指に止まってきた。地味に爪が食い込んで痛い。


「お前も博士の手伝い頑張れよ!!」
「イッシュのジムがどんなのか今度教えろよ!」



あ、まだ諦めてなかったのね…




最後に2人に手を振り、2人の目の前からテレポートで風のように消えていった。




「テレポートすげえ…」
「ちょっとオレもネイティ育てようかな」
「お前にネイティ似合わなすぎだろ」
「デンジィ!!」
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