頼み事
場所は変わってシッポウシティポケモンセンター
サトシと私のポケモンが回復するまで適当なソファーに座って待つことにした。
「ハァ〜…」
「なんからしくないな〜、珍しくへこんでるじゃない」
深いため息をついたのはタマゴを抱えて座っているサトシだった。いつもの明るい表情が今では落ち込み全開といった暗い表情そのものである。
「そりゃへこむよ…今日のバトル全然いいところなかったんだもん…」
「最後の人を転ばせるくらいの気合いはどこいったんだよー」
あれ痛かったんだからね、とサトシのほっぺを少し強めにつついてみるが反応がない。これは重症だな、と思った矢先
「あれはたしかにサトシも悪かったけど半分はハンナさんの足のせいでしょー?」
にやりと笑いながら言うアイリス。私はにこりと微笑みながらアイリスのこめかみに拳を構える。
「ええ、ええ、そうですとも。
わ た し の
足が悪かったんだよねアイリス?」
「スミマセン」
「よろしい」
謝ってくれたので頭グリグリは勘弁してやろう。
「最初の吠えるが痛かったね…」
「ああ…でさ、黒い眼差しで逃げられなくなって、
そういえばなんでハンナさんは吠えるや黒い眼差しを受けても冷静でいられたの?」
「そりゃとんぼ返りがあったからじゃないの?」というアイリスの答えは間違ってはいないが間違いだ。
「いや、アロエさんの吠えるは予想外だったよ。
でも吠えるや吹き飛ばしみたいな相手を交代させる技って大抵黒い眼差しを始め何かがくるからね。なんとなく予想はついたんだよ。とんぼ返りはたまたまね。今回は相性考えて鋼タイプのハッサムを出しただけ」
「大抵って…ハンナさん詳しいけどやられたことあるの?」
「あるよ、あのコンボで何回もズタボロにされたから慣れたよ。」
「でもそれにしたってハンナさんすごいよなー…たまたまとんぼ返りがあったとしても俺なんて何にもできなかった…」
冒頭のようなため息を再度つく
「そんな落ち込まないでよサトシ、あのコンボを初めて受けたやつが驚かない筈がないんだからさ。」
「でも…」
「いいんだよ負けても。動揺したって、逆によかったって思いなよ。私がシューティにも言ったでしょ?色々経験を積むもんだって。最初からなんでもできるやつなんていないんだから」
「ハンナさん…」
「んーでもサトシの場合課題は多いな。どんな状況にも対応できるようにならないといけないし、それにポケモン達のパワーとスピードももっと鍛えないと!」
「そうだね、最後のヨーテリーへの火の粉だけ見たけど全く効いてなかったし」
「早い話、決定力不足なのよ!」
アイリスが止めを指した。だがみんな一気にサトシの欠点を指摘しすぎたらしい
「ぅ〜…ああああああ!!わかってるよ!!
このまま終われるもんか!!アロエさんがどんなバトルを仕掛けてくるかはわかった。今日の負けは無駄にしない!」
サトシなりに「アロエさんの攻略に必要なもの」を考えたのだろう
ピカチュウのエールに次は絶対勝つ!!と返せば回復のアナウンスが響いた
<♪〜>
「お待たせしました
お預かりしたポケモン達はみんな元気になりましたよ!」
「ありがとうジョーイさん」
「ありがとうございます。ハッサム、ムウマ今日は本当にありがとね。戻って」
ムウマが乗ってたストレッチャーの上にはポカブとミジュマルがいるが
「ポカブもミジュマルもやる気満々って感じ!!」って思った(言われた…)
負けたことによって特にミジュマルのやる気がかなり出たようだ
「お前達も悔しいんだな、よし!!みんなでパワーアップしてもう一度アロエさんにチャレンジするぞー!!」
<ピピピピピピピ…>
「!!…ハンナ、ポケギア鳴ってるよ」
「本当だ。
……………」
「あれ、出ないの?」
不思議そうにデントが画面を覗いてきた。相手はポッドだがなにか嫌な予感がする。
(なんか出たくない…)
ジョーイさんの勧めでサトシとアイリスはすでにポケモンバトルクラブへと向かっていた。
「…もしもし?どうし「頼むハンナ、今すぐサンヨウジムに来てくれ。今すぐだぞ」
…なんで?」
切羽詰まったポッドの声が聞こえたと思ったら電話の向こうで打撃音とポッドとコーンの言い争いが聞こえた
(「いってえなコーン!」「なんですか今の!まるで脅迫電話じゃないですか!」)
「すみません突然、でもコーンからも頼みますハンナ。話はジムに来たら説明しますので、それじゃあ」
「はあ!?あ、ちょっ…
……切れちゃった。」
ほらね私の予感は当たるんだよ…でも無視はできないしな〜…
「ポッドからなんだって?」
「なんか今すぐサンヨウジムに来てくれって言われたんだけど…結構必死な感じだったから行った方がいいよね?」
全く意味がわからない。なんで私なのか
「なんでハンナなのかがわからないけど行ってきなよ。サトシとアイリスには僕から言っとくからさ!」
「…わかった。なんかごめんね、」
「いいって!兄弟の頼みなら僕からも頼むよ、行ってあげて!」
親指を立てて笑うデント。だけど嫌な予感が止まらない。
「ありがとう、じゃあ行ってき…<ピピピピピピピ…>
…もしもし博士?」
「ああハンナ君、私だ
今ヒヒダルマのレポートを拝見させてもらったがとても分かりやすくよく書けていたぞ。」
「あ、あの量をもう読んだんですか?ありがとうございます。」
(ダメだ嫌な予感が…)
「それで本当に申し訳ないんだが
今研究所の人手が足りなくてな、イッシュのポケモン達の知識もあるハンナ君に是非任せたいデータがあるんだが
一度シンオウに帰ってきてくれんかの。」
「「…………」」
最後の博士の一言はデントにも聞こえたらしい。私はガラスに映った自分の今の顔を見てみた。目元が暗く本当に効果音が『ズゥゥウウン』て感じだった
冷静になれ、私。まだずっとシンオウにいろって言われた訳じゃない
「博士、それってシンオウでやらなきゃいけないデータですか?イッシュで旅しながら処理できるデータですか?」
「ウム…それは大丈夫だ。むしろイッシュでやってほしいから君が適任だと思ってな。シンオウに来てもらいたい理由はもうひとつある。」
「といいますと?」
「それは研究所で話そう。電話だとわしもハンナ君も混乱するからな」
博士の頼みは断れないけど…シンオウに帰るとなるとイッシュからかなり離れることになるからな、デント達とも話し合わないと…
「博士、少し待っててください。」
デントは若干焦ったような口調で「シンオウに帰るってどういうことだい?」と肩に手を置いて聞いてきた。理由を話せば放してくれたが行くとなると問題なのは私が戻ってきたときのデント達との待ち合わせ場所だ。一応私もタウンマップを持ってはいるが現在地を示すものだ。それにデント達は通話できる手段を持っていない。
「…デントの手持ちって2体だけだよね?」
「え、そうだけど…それがどうかしたのかい?」
私はパソコンに向かいボックスからあるポケモンを引き出した。デントの前に引き出したポケモンをボールから出せば訳がわからないといった目で見てくる。
「私がイッシュにいない間にデント達が先に進めば、リザードンの空を飛ぶでデント達の元へ行こうにも場所がわからなくて行けないの。ここまではわかるよね?」
デントが静かに頷く
「ああ…でもそのポケモンは?」
「この子はネイティっていうポケモンよ。
ネイティは私の持ってるポケモンの中でも特に力のコントロールが繊細で、同時にこの子のテレポートはすごく優秀なの。素晴らしい精度とテレポートの能力を誇る私の自慢のポケモン
…私がデント達から離れてる間デントが預かっててもらっていい?」
「え!?別にいいけど…」
ネイティが小さい羽を広げて腕の中から私の頭の上へ飛んできた
「私が用事を終えてイッシュに帰ってきたときに、デントはネイティをボールから出してポケモンセンターでもバトルクラブからでもショップからでもいいの、私にテレビ電話をしてくれれば私はデント達の元へいける。
ネイティは一度足を運んだ場所ならどこへでもテレポートできるから。」
「つまり僕の所からハンナの所へネイティが行って、ハンナのいた所から今度はハンナを連れて僕のところへ戻るってことか」
「そういうこと。
ネイティ、できるよね?」
頭の上でまったりしてるネイティが『トゥートゥー』と独特な鳴き声で返事をした。OKって事だろう。
「じゃああたしの番号渡しとくね。パソコン見つけたらとりあえず電話してみて?ポッド達の用もあるから多分帰れるのに結構かかると思う。あ、これネイティのボールね。」
「研究者も大変だね、気をつけてね。ハンナって危なっかしいから」
「なんかデントお母さんみた―い。ママーお腹空いた―」
本当にお母さんみたいだからからかってやったら顔を真っ赤にして怒鳴り始めたデント。だが顔が赤いせいでいまいち迫力にかける。
「ふざけてないで本当にケガしないようにね!?」
「はいはいわかりましたよ―っと。」
デントって意外と過保護…?心配性?極めつけは
「早く帰ってきてよ?」
「…お前は私の彼女か!」
(全く男に早く帰ってきてなんて初めて言われたよ…)
心配性なデントに見送られてサンヨウジムに飛び立った。
ナナカマド博士の電話を待たせっぱなしなことに気づいたのはサンヨウに着く手前。
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読んだ方がいいかもしれないあとがき。
サンヨウジムからの呼び出しは2/21現在拍手にある『サンヨウジムでバイト』のお話です。なので次の回はいきなりシンオウに入ります。