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時計塔の秘密









「待てえー!!!!」
時計塔の螺旋階段に普段は聞きなれない声が響いた。何事かとダルマッカ達は後ろを振り向く


「待て待て待てえー!!!!!」
声の主は先ほどまで自分たちを追って振り切ったはずのサトシ達だった。階段を上るスピードを早めたダルマッカ達を追いやっと螺旋階段を抜けたらある一室にたどり着いた。

「あいつら…もっと上か…」
あんなに長い螺旋階段を上ったのは初めてだった、サトシ達より体力があまりない私は膝に手をつき一人息を乱していた。
(このくらいで情けない…、)
少し涼もうと窓の方に視線を向けたその時だった




「・・・」


『『・・・』』

隠れているつもりだろうか…たまたま壁に張り付いているダルマッカ達と目があってしまった。
二、三回瞬きをしたあと、ダルマッカ達が動きを見せた。
「ッ、サトシ後ろ!!」
間一髪、ギリギリのところでサトシはダルマッカの火炎放射を避けた。が、
後ろにあった木製の梯子に火炎放射の火が移ってしまった。早く消さないと時計塔自体が炎上してしまう
あいにく私のラプラスはこの火を消すような水タイプの技を持ってない…部屋が水浸しになってしまう
「ミジュマル!みずでっぽうで火を消すんだ!」

『ミ〜…ジュムーッ!!!』
勢いよく発射されたみずでっぽうは梯子を消火した。だが梯子自体が脆く崩れてしまったため上に上がるのは困難になってしまった。
ダルマッカ達は高く飛び上がり、懲りずに火炎放射を放ってきたが
ピカチュウの10万ボルトで相殺された。

「今だミジュマル!!みずでっぽう!」
みずでっぽうはダルマッカ達に命中したはずだが、タイミングよく眠るで体力を回復されたためダメージを与えることはできなかった。

ダルマッカ達に近づこうと、距離を縮める。しかし目を覚ましたダルマッカが私達の背後に回った。
サトシ達が敵意は無い、なぜ盗みを働くのか知りたいだけ、とダルマッカ達に告げると案外あっさり警戒を解いたダルマッカ達は上に行きたい、と上の階を指差した。





ツタージャのつるのムチでピカチュウ、ダルマッカと次々と上に運んでいく。こういった場面だと草タイプは優秀だとつくづく思う。

「ありがとうツタージャ、重かったでしょ」
『タージャ』
こんくらい朝飯前だ、と言わんばかりのすました顔。確かにアイリスから聞いた通り癖のある子だな、と理解した。

「ねえ、なんだか上の方が暑くない?」
アイリスの何気ない一言が妙に引っ掛かった。
ダルマッカを先頭に更に上に上がればそこには見たことのないポケモンがいた。
サトシがポケモン図鑑を開く。
『<ヒヒダルマ>
えんじょうポケモン
ダルマッカの進化型。体力が少なくなると、活動モードから瞑想モードに切り替わる。』



ハンナは驚いていた
「体力の減少で姿が変わるポケモンがいるなんて…」


ポワルンやチェリムなどの天候の変化でのフォルムチェンジやブラッキーやリオルなどのなつきの進化、イーブイ系統などの石を使った進化やハッサムやゲンガーなどの通信による交換進化、ミノムッチのような場所によって姿が変わるポケモン、ギラティナのような持ち物等によってフォルムチェンジするポケモンは見てきたが体力の変化で姿が変わるポケモンなんて見たことがなかった。

こんな状況だが、やはり違う地方で旅を初めてよかったと改めて思う。新しい地方で、新しい発見。見たことのないものが目の前にいて、知識として取り入れる。まだまだ知らないことがあるということや世界の広さを思い知らされるから。
(うん、この騒動が終わったらヒヒダルマのことをナナカマド博士やシゲルに話そう。)




(さっきまでのドジっぷりが嘘のようだ…)
確か彼女はナナカマド博士の助手をしていたんだっけ、と思い出した。ハンナの隣にいたデントは今の彼女のヒヒダルマに向ける真剣な眼差しから目が離せなかった。
同時に彼女の意外な一面を見てもっと知りたい、なんて思った自分にハッとして首を振った。
(今はそれどころじゃないだろ!!)
自分の中のこの不思議な感情を呑み、平然を装う。
そういえば、と自分の中の知識を口に出した。

「たしか活動モードでは物理攻撃の技が強くなり…瞑想モードでは、エスパータイプの技が強くなるはずだ」


「…デントって結構詳しいんだ。ちょっと気になるから後で聞かせてね、」
「!?」
純粋にもっと知りたい、と思い放った一言だが、デントにとっては追い撃ちになったようだ



「へぇ…不思議なポケモンね…
あっついなー…このヒヒダルマが熱を出してるんじゃない?」
「僕もさっきからそう思っていたんだけど、」


ダルマッカ達が団子の入った風呂敷を広げた。それをヒヒダルマがサイコキネシスを使い団子を自分の口へと運ぶ。(図鑑の説明だと体力が少ない時に瞑想モードになるんじゃないの…?)
なぜ団子を食べたにも関わらず活動モードに戻らないのか


するとダルマッカが鉄の塊を持ってきた。
サトシに手渡すなり何やら鐘を指差して必死に何かを伝えようとしている

「…なにこれ?内側の丸みに僅かにサビが着いてるけど…」




「サビ…?

ッ!?この鐘浮いてるよ!!」

直後デントが発見した事実でだんだん話の糸が繋がってきた

ことの発端は鐘を吊るしていたフックが変形し鐘が落ちてしまったから。
ジョーイさんが言っていた「鐘が鳴らなくなった」とはこれが原因だろう


ダルマッカは落ちた鐘を支えるヒヒダルマの体力が無くならないように食べ物を盗み、ヒヒダルマに与え続け、ヒヒダルマは鐘の重さに活動モードじゃ支えきれなくなり瞑想モードに切り替えサイコキネシスを使い鐘を支え続けた。
鐘が落ちれば古い床は抜け落ち時計塔は崩れてしまい、何も知らない人間達に被害が及んでしまうから
頭の中で話の整理がついたデントが手を口元に添えて述べた
それはいいが、その時の格好がもうアレにしか見えなかった。
(おぉ、名探偵デント)



呑気なことを考えてる場合ではなかった、瞑想モードのままサイコキネシスを使い続けてきたということはヒヒダルマにとって相当な負担がかかったはずだ


(早くなんとかしないと、)
だけど鐘を元に戻すにせよ、時計塔と街の住人を守り続けてきたヒヒダルマ達が時計塔が取り壊される事を知ったらと思うと胸が痛くなった


「大変だったのね…ヒヒダルマもダルマッカ達も。」

今まで自分達を知って理解した者がいなかったのもあるだろう、ダルマッカ達は互いを見て笑いあった




だが一方のヒヒダルマは限界に近づいていた。炎袋の熱がさっきより漏れ出したのだ。このままだと床が焼け落ちてしまう
「大丈夫、俺達に任せろ!!」サトシの力強い言葉にダルマッカが顔を上げる、一体何をするつもりなのだろうか


「フックを直してヒヒダルマを解放するぞ!
ポカブ、君に決めた!!」

「ヤナップも手伝ってくれ!」


(ああ、なるほど)
鉄に熱を加えて元の形に戻すのか、やることはわかったがポカブのひのこの火力では足りないだろう
こんな狭い部屋にリザードンを出すわけにもいかない…

ポカブのひのこが鉄のフックめがけて放出されるがやはり火力が決定的に足りなかった。だが火力ならここに逸材がいるではないか、ミジュマルを強力な炎の一撃で倒したダルマッカ達が

私は目線の高さをダルマッカ達に合わせた
「ダルマッカ、君達の力が必要なの。ヒヒダルマを助けるのを手伝ってくれる?」
ヒヒダルマから炎が勢いよく溢れ出てきた、最早一刻を争う


ダルマッカ達は頷き、前に出た。

「よし!一気に畳み掛けるぞ!」
「ヤナップ!もう一度だ!!」


ヤナップが重いフックを高く垂直に放り投げる、あの重さだ。そう何回も投げると高さもなくなる。

ポカブに加わりダルマッカ達が火炎放射をフックに放つ。熱でフックが赤くなった

形を変形させるなら今だ



「ヤナップ、フックに向かってタネマシンガン!!」


勢いよく発射されたタネマシンガンはみるみるうちにフックを元の形へと変えていく。あとは熱を冷まして鐘を引っ掛けるだけ…

「でもどうするの…?」


「梯子でもない限り届かないな…」



その時ヒヒダルマの目が強く光った。サイコキネシスを使いサトシとピカチュウにフックをはめさせようとするのか
でもそれではヒヒダルマがもたないのは明らかだ。…確か鞄の中にオボンの実が入ってたはず。

なんとかフックを引っ掛けたがギリギリ鐘に手が届かない、
「ヒヒダルマ、口を開けて」

周りの炎で燃えないようにボールを投げる要領でヒヒダルマの口にオボンの実を投げ入れた。

するとどうだろう、サイコキネシスを解いて瞑想モードから活動モードに戻った。どうやら間に合ったようだ
活動モードというだけあってあの重い鐘を軽々と受けとめ、大胆に上へ投げ、壁を駆け上がり、片手で鐘を掴んでみせた
「サンキュー、助かったよヒヒダルマ!俺達の力じゃ無理だ。そいつを元に戻してくれるか?」

サトシの言葉にヒヒダルマはウインクを見せた。結構茶目っ気があるが力は本物、簡単に戻してくれた。
鐘から降りてきたヒヒダルマにダルマッカ達が駆け寄る。二匹の頭を撫でるその図はさながら子供を褒める親にも見えた。


ダルマッカとヒヒダルマがこちらにやってきた。嬉しそうに鳴き声をあげるあたり「ありがとう」と言っているのか
だが空気クラッシャーデントはやってくれた

「何を言ってるんだろう」


それでいいのかポケモンソムリエ。
ある意味で名言が生まれた瞬間だった







とりあえず一件落着と見てよさそうだ。















「よーし!!今日も元気に出発だー!!!」
翌日早朝、昨日はあまり眠れなかった。

「ハンナさんどうしたの?隈が…」
「昨日寝なかったのかい?」

アイリスとデントに心配されてしまった、なんか悪いなと思いつつ理由を呟く。町を出るまであと少し。
「いや…ヒヒダルマ達が助かったのは良かったんだけどさ、あんなになるまで守ったのに時計塔が壊されちゃうなんてちょっと…ヒヒダルマ達が報われないなーとか思ってさ、」

あんまりだよ。
言い終わると同時にジョーイさんに呼び止められた。何か忘れ物でもしたのかな、と腰のボールを数えて鞄を開く。何も忘れた物は無さそうだ
「時計塔の取り壊しが中止に!!それだけ伝えようと思って!」




え、と鞄からジョーイさんの方を向いた。

「ど、どういうことですか?」

「傷んでた箇所を修理して、町で保存するそうです!」


「「本当ですか!?」」
皆自然と笑顔になる、もちろん私もだ

「ええ、そしてこれまで時計塔を守ってくれた感謝の印に、ヒヒダルマとダルマッカ達がそこに住めるようにしてくれるそうです!!」


「やったねハンナさん!!」

「よかった…!」
溢れ落ちたりはしなかったけどうっすら涙が浮かんできた。すぐに乾いたけどそれくらい嬉しかったのだ


「うーん、人もポケモンも皆が幸せになれる豊潤な計らいだ!!」



とりあえず右から左に受け流しとく。
あっ、とサトシの目線の先には時計塔にダルマッカとヒヒダルマがこっちに手を振っていた。

「おーい!!ヒヒダルマ!ダルマッカ―!よかったな―!!」
「元気でねー!」

「また会おう!!」

「3匹とも仲良くねー!!」


どれもシンプルな言葉だが別れにはこれくらいがいいだろう、ヒヒダルマとダルマッカ、ジョーイさんに見送られて町をあとにした。
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