ジム戦、vs三つ子
「では一回戦、ハンナ対コーン、初め!」
「出てきてラプラス!」
初戦に出したのはラプラス。
結構前に卵から孵って、鍛え抜いた。今日が初めてのジム戦デビューの子。
同じ水タイプを出したことによってコーンの目が好奇に染まる。
「ラプラスですか…いいでしょう。ヒヤップ、ひっかく攻撃です!」
先手はヒヤップだが、初動でヒヤップの素早さを思い知った。
見た目が猿だからすばしっこいだろうとは思ってたが、ラプラスとは比べ物にならない素早さで迫ってくる。
ラプラスがヒヤップに追い付こうなんてまず無理な話だ。耐久力では大いに勝る分、極力こちらに引き寄せた戦法でいこう。
「ヒヤップ、ひっかく!」
「接触した時を狙って10万ボルト」
まだ引きつけが甘かった。
ひっかくことなく、バチリと電流を纏ったラプラスを見てヒヤップは牽制した。
「10万ボルトですか…影分身!」
「ラプラス、もう一度10万ボルト!」
あたりに出現するヒヤップの影分身へ片っ端から電撃を浴びせると本体へ直撃するラッキーが起こった。
「ヒヤップ!」
ラプラスは元からの特攻の高さや技の相性補完が優秀だったこともあり、ヒヤップへは結構ダメージはあるようだ。
でもヒヤップのスピードに翻弄されすぎると流石にラプラスも危ない。過信し過ぎると負ける。
一方コーンの額に一筋の汗が滴る。
「10万ボルトを覚えてるなんて…ですがさっきのバトルでも言ったとおり電気対策は完璧です!泥遊び!」
「させない、泥からヒヤップの手にかけて冷凍ビームッ!」
体力は少なくなってきたものの、ヒヤップのように動いてなかったためすぐに行動に移せた。
冷凍ビームはヒヤップの手が泥に埋まったまま容赦なく凍らせた。これで前みたいには動けないし、ひっかくは使えないというオマケ付きだ。
それに、電気対策である泥は氷の下にある。
「くっ、ヒヤップ!みずでっぽう!」
「ラプラスの特性は貯水ですよ!とどめの10万ボルト!!」
貯水で体力を回復したラプラスの10万ボルトは、タイプ不一致だが強力なものだった。
氷で動けないヒヤップへ、当然ながら10万ボルトは直撃。ヒヤップは目を回しながら倒れた。
「ヒヤップ戦闘不能!ラプラスの勝ち!」
ラプラスが判定を聞いて忙しく手足を動かしてこっちに向かってきた。
「やったねラプラス、まずは一勝だよ!」
ラプラスも褒めて褒めてと顔を擦り寄せてきた。よっぽど嬉しかったんだろう。あとでご褒美をあげなきゃ。
「負けました。強いですねハンナさん」
「ラプラスが頑張ってくれたからですよ。それにしてもヒヤップってやっぱ早いですね…笑顔で迫るから結構迫力あったよ」
「ふふ、個人的にまた再戦したいですね。ではデント」
「ハンナさん、次は僕とバトルだよ」
岩のフィールドに映える緑の草猿が一匹。
「ヤナップか…よし、エルレイド!」
「…ああー!思い出した!!あの人、鋼鉄島で合ったハンナさんだ!!おれあのエルレイド知ってるよ!」
「あれエルレイドっていうんだー…あ、ハンナさんは最初からサトシに気づいてたみたいよ」
「ヤナップ、まずは接近して噛みつく!」
「肘で弾き返して」
ヤナップがエルレイドに噛みつきにかかれば瞬時に伸びた肘がヤナップにヒットし、フィールドの岩に叩きつけられてしまった。
「何今の!?あのエルレイド肘が伸びたわよ!?」
『エルレイド。やいばポケモン
伸び縮みする肘の刀で戦う。居合いの名手。礼儀正しいポケモン。』
「エルレイドってああいう戦い方するんだな…」
「逃がすなエルレイド!サイコカッター!」
ヤナップがスピードを生かして回避しようとするもサイコカッターがヤナップ目掛けて炸裂した。
「怯むなヤナップ!タネマシンガン!」
「冷凍パンチで打ち返せ!」
エルレイドに勢いよく発射されたタネマシンガンは冷凍パンチで氷漬けにされ、疑似氷の礫となった。礫はさながらカウンターのように全弾がヤナップに叩きつけられる。
冷凍パンチによってさらに威力を増した氷の礫は、草タイプのヤナップには効果は抜群だった。
ヤナップが立ち上がる間にも揺るぎない構えで立つエルレイドは隙を全く見せない。
「あのエルレイドって武士っぽーい…!」
「ああ、たしかに!」
ギャラリーではアイリスとサトシが珍しく賛同して盛り上がっていた。
「ヤナップしっかりするんだ!ソーラービーム!」
余裕の構えのエルレイドとは逆にすでにボロボロのヤナップが、頭の葉っぱに光を吸収していく。多分あれで決める気だろう。
(晴れじゃない限り、チャージには隙ができる!)
「撃たせないでエルレイド!インファイト!!」
さっきまでの静とは打って変わり、エルレイドがヤナップに向かって凄まじい気迫で迫っていく。
エルレイドは大してダメージを受けてる訳じゃない。エルレイドの特防があればソーラービームをまともにくらっても耐えきることはできる。が、好きでそんな攻撃を好んで受けたいポケモンなんていない。打たせる前にケリを付ける。
だがインファイトが届く前にチャージが完了してしまった。
ジムの天井はガラス張りで、今日の天候は晴れ。
日本晴れがなくともソーラービームを放つには絶好の天候だった。
「ヤナップ、ソーラービーム!」
「っ、岩影を使って回避して!」
「何…!」
フィールドの岩陰を伝ってヤナップとの距離をどんどん詰めていく。
ギリギリの回避を繰り返したらソーラービームのエネルギーが切れた。
ソーラービームの輝きがフィールドから失われると、岩陰から飛び出したエルレイドが腕を思い切り振りかぶる。
「決めるよエルレイド!サイコカッター!」
腕から発生したサイコカッターが飛翔し、ヤナップの腹に命中した。
ヤナップだけに留まらず、ヤナップ自身が乗っていた岩までもを爆散させたことが、どれだけの威力があったかを物語る。
地面に叩きつけられて大きくリバウンドしたあと、なんとか立ち上がるが控えめな砂埃を起こしヤナップは力尽きて倒れてしまった。
「ヤナップ、戦闘不能。エルレイドの勝ち!」
判定を聞いたエルレイドはひとっ跳びでハンナの目の前に降り立ち、直立不動の姿勢でいた。
「エルレイド完璧!お疲れだったね、ありがとう」
「こちらの攻撃を逆に利用する機転をきかせた戦法、礼儀の中にある熱い闘争心、深みとコクのある素晴らしいバトルでした。テイスティングする余裕すらなかったですよ」
「いえ、私とエルレイドはとにかく攻めまくるバトルが好きなんで指示が出しやすいんですよ。勝ちたいだけ」
「すごい…ハンナさん…」
ギャラリーから見ていたアイリスはあっけに取られていた。
隣にいるサトシも、初めて見るハンナの戦いに目が釘付けで、鋼鉄島で出会った時のことを思い返す。
「オレもハンナさんが戦ったのは初めて見たけど、こんなに強かったんだ…そういえば鋼鉄島で会ったゲンさんとはよく手合わせしてるとは聞いたけど」
フィールドでは、デントがポッドとバトンタッチをしていた。
そしてハンナを見る。好戦的な目は迎え撃つ気を見せている。
「やっぱ強いんだなお前、でもこのポッド様も強いんだからな」
「うん。三回戦、楽しみだよポッド」
「よ―し、いけバオップ!」
「いくよ、ダーテング!」
「サトシ、あのポケモンは?」
「ダーテングだよ。草と悪タイプなんだ」
『ダーテング。よこしまポケモン。
森の奥でひっそりと暮らす。大きな団扇を扇ぐと木枯らしが吹くと言われている』
「草タイプ!?相手は炎タイプのバオップなのに?」
アイリスはバオップとダーテングを交互に見る。
サトシといい、なぜ相性不利な戦いを臨むのか理解ができなかった。
「あの時のダーテングできたか!来いハンナ!バオップ、火炎放射!」
「猫騙し!」
相性の悪い火炎放射が当たればまずいのはわってる。
だけどダーテングが自分からポッドと戦いたいという意志を示したから、何がなんでもポッドには勝ってみせる。
それに草・悪というタイプ相性でいえば天敵があまりにも多い複合タイプとはいえ、ダーテングの実力があれば大抵のタイプ相性など関係ない。
「やるな!バオップ、炎のパンチだ!」
「悪の波動!怯ませて!」
真っ黒な波動が周囲を呑み込み、不穏な空気が漂う。
そんな空気に臆することなく利き手に炎を纏ったバオップが波動に突っ込んでいくが、ダーテングに向かっていくバオップがガクッと体勢を崩した。
「ダーテング、エナジーボール!」
「穴を掘るでかわせ!」
いい技を貰ったとハンナは笑う。
「ラッキーじゃん…!?機会を逃すな!地震!」
「なっ…地震!?」
ダーテングが片足を高く振り上げ、勢いよく地面に踏みつければダーテングを中心に凄まじい震動が辺りを襲った。
指示した私も倒れまいとフィールドから目を離さずに片膝を着く。
穴を掘って地中にいるときに地震をくらうと威力が上がる。しかもバオップには効果は抜群。これで決まれ。
だがさすがのジムリーダーのパートナーとだけある。
なんと根性で穴から這い上がってきたのだ。
「バオップ、大丈夫か!?」
ポッドが問う。身に着いた土を振るい落とすと、やる気はまだあるとバオップが吼える。
「よし、火炎放射で決めるぞ!」
「ダーテング!悪の波動!」
悪の波動で火炎放射を完全に打ち消す。
技と技がぶつかり合い、パンッと甲高い破裂音。
黒い波動と炎が混ざり合う瞬間、ダーテングとポッドの目が合う。なんとしても勝ちたいのは、同じ思いだと悟った。
「頑張れバオップ!炎のパンチだ!」
「しまった…ダーテングかわして!」
しかし間に合わない。葉緑素が発動していないダーテングに至近距離にいたバオップ渾身の炎のパンチが入った。
しかも入った場所がどう見ても急所付近だ。火傷痕が垣間見える。
「トドメの火炎放射だ!」
ノリに乗り始めたポッドとバオップは怒涛の攻め込みを始めようとしている。
炎のパンチを叩き込んだバオップが火炎放射の体勢になりつつ岩に着地した。
そんなことさせるか、とハンナの目に力が宿る。
「地震でバオップの足場を崩して!」
「、何ぃ!?バオップ!」
ダメージを目的としないが、地震の瞬間的なでかい揺れがバオップを襲う。
岩にいたバオップはそのままフィールドに転がり落ちた。
「さぁ終わらせるよ!悪の波動!」
転がり落ちて立ち上がろうとするバオップに黒い波紋が迫り来る。
火傷を負っているとはいえ、隙のできた相手へ即座に技を撃ち込んだダーテングは渾身の力で悪の波動を放った。
立つ間もなく悪の波動をまともにくらったバオップはそのまま地面に突っ伏してしまった。
「バオップ戦闘不能、ダーテングの勝ち!よって勝者、チャレンジャーハンナ!!」
「ハンナさん3連勝しちゃった!すごい、本当に勝ったよ!!」
「あのダーテングすごい根性だったなピカチュウ!ハンナさんおめでとう!」
(やっと思い出したか)
ハンナは薄く笑って2人に手を振り返した。
フィールドにまた目を向ければダーテングがバオップを抱き上げてポッドの元へと運んでいた。ダーテングはけっこう強面だが優しい子だ。ポッドは驚きながらもバオップを受け取りダーテングへお礼を言う。それを見ていたコーンやデントも目を細めて笑っていた。
「ハンナさん、これがサンヨウジムの勝利の証のトライバッジです。どうぞ」
「ありがとう!これがトライバッジ…デザインかっこいい」
今までにないスタイリッシュなデザインのジムバッジに思わず見惚れる。
なかなかバッジから目を離さないハンナに、ポッドは軽く肩を叩いて言った。
「またサンヨウに来る機会があったら再戦しようぜ!今日は負けたけど次は絶対勝ってやるよ!」
「挑むところ。また完勝してあげるから」
「そういうことならコーンも交ざりますよ、ハンナさん。ダブルバトルとかどうです?」
「コーンてめっ」
「まあまあ二人とも…」
「ハンナさん、このあとポケモンセンター行きますよね!一緒に行きませんか?」
「いいよ。久しぶりに思い出話でもしようか!」
受け取った勝利の証をバッジケースのひとつめの穴にパチリと埋めてハンナはジムを後にした。