「隊長ー、だいすきー」
突然、クルルはケロロの所にやって来て言った。その台詞に、ケロロは飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。
「ブフッ!・・・どうしたでありますか、何か変な物食べた?」
「いんや、ただ言いたくなっただけ」
ゲホゲホとむせているケロロが尋ねると、クルルはあっけらかんと答えた。その顔は何かを企んでいる顔ではなかったので、本心なのだと分かった。
「マジでありますか!ついにクルルが・・・、クルルがデレた!」
「クララじゃねぇんだから、そんな大袈裟に言うんじゃねぇよ」
ヤッフー!と両手を上げて喜ぶケロロに、クルルは呆れまじりに笑う。
しかしケロロは喜びが抑えられないのか、だってと声を弾ませた。
「だってあのクルルがデレたんでありますよ!?」
「どのクルルだ。クーックック、隊長の中での俺の位置付けがどうなってんだか気になるなぁ」
「え?恋人だけど」
「・・・・・・」
余りにもあっさりと言うケロロに、クルルは笑った顔のまま固まった。
そんなクルルに気付かずに、ケロロは一人話しを続けている。
「けどいつもは言ってくれないのに、急にどうしたでありますか?はっ!もしや我輩への愛に目覚めた!?」
ふざけ半分で、バチコーンとクルルを見ながらケロロは尋ねる。普段のクルルなら辛辣な言葉を笑顔で言い放つ質問だった。
だったはずだが、
「・・・そうかもなぁ」
クルルは少し真面目な顔でそう答えたのだ。
「・・・・・・クルルがっ!クルルが変であります!妙に素直になっちゃって!そりゃ可愛いけど、可愛いけど我輩いつものクルルの方が好きであります!」
ようやくクルルが普段のクルルと違うという事に気付いたケロロは、顔を青くしたり赤くしたりと忙しく変えながら言った。手が意味もなくわたわたと動いている。
その言葉を聞いたクルルは、ニヤァ、と小さく笑った。
「たーいちょー、だーいすき!」
そして、満面の笑みで言った。
真正面でそれを受けたケロロは思わず叫んだ。
「ゲロォオ!こんなのクルルじゃないであります!常日頃ツンなしクルルとか願ってたけどやっぱいやぁ!」
ケロロは目をつぶり頭を抱えながら叫ぶ。お正月にあんな事願うんじゃなかったと後悔していると、クルルの小さな声が聞こえていた。
「・・・隊長は俺の事いやなんだ・・・」
思わずバッ、と顔を上げると、クルルは少し寂しそうにケロロを見ていた。
「ち、違うんであります!違うんでありますよ!我輩はクルルの事が大好きであります!」
クルルに誤解を与えてしまったと、焦りながらケロロは弁解する。
ケロロの言葉を聞いている内に、クルルの顔は笑顔になっていく。
「俺も大好きだぜぇ、両思いだなぁ」
そう笑いながら言うクルルに、ケロロは嬉しさと誤解が解けた安心感と、胸にもやもやとした気持ちを抱いた。
両思い。それは嬉しい。クルルがそんな言葉を言ってくれるなんて、夢でも見ているかの様だ。
「嬉しい・・・、嬉しいけど・・・やっぱり我輩はいつものクルルが良いでありますー!」
こんなクルルはいやなんだぁー!と叫びながら、ケロロは出口へと走って行った。それもきちんと顔に腕をあて、キラキラと涙を零しながら。
そんなケロロの後ろ姿を眺めながら、手を口にあてクーックックック〜とクルルは笑っていた。
「ねぇ、クルルくん」
クルルが部屋にやって来た辺りから存在を忘れられていたドロロが、控えめに笑っているクルルに話し掛ける。
「んー?」
「今日って4月1日だよね」
「そうだなぁ」
そう答えるクルルは、まだ肩が震えている。
そんな様子を見ながら、小さくドロロはため息を吐いた。
「ケロロくんは知らないのかな・・・」
「知らないみたいっスねぇ」
だからあんなに忙しく反応していたのだろう。少しケロロに同情した。
「・・・ねぇ、クルルくん」
「なんスかぁ?」
クルルは愉しそうに笑っている。
「いつも嘘ついてるから、今日は本当の事を言ったの?」
そうドロロが尋ねると、クルルは一瞬目を見開き、すぐに意地の悪い顔で笑った。
「さぁねぇ」
その答えに、ドロロは息を吐きながら笑った。
真心アントルー
嘘つく日に、本当を。