最近、クルルを見ると胸が締め付けられる様な感じがする。
顔も熱くなるし、呼吸が上手く出来ない。悪戯している時の楽しそうな笑顔はずっと見ていたいし、悪巧みをしている意地の悪い顔も良い。
睦実殿と仲良く話してると気になるし、赤達磨をからかってるクルルを見ると苛々する。
クルルが笑い掛けてくれると嬉しいし、クルルが一人寂しそうな時は我輩が何とかしてあげたいと思う。



「こんな感じなんだけど、どうしよう」

「いや、どうしようって言われてもなぁ」

むしろ、俺がどうしようかねぇ。
クルルはそう言って頬杖をついた。


場所はクルルのラボ。
一緒に遊ぼうと思って来たのだが、クルルは生憎手が離せないらしい。だからといってケロロには他にする事もない為、部屋を出て行かず作業をするクルルを眺めていた。
綺麗な顔だなぁ、などとしみじみと考える。容姿端麗、頭脳明晰と揃っているが、性格の悪さが全てを壊しマイナスにまでしているのだからすごい。
けど、性格が悪くて捻くれていて素直じゃないクルルが最近頭にちらつく。
今何してるのかなー、とか、今度の発明品は何かなー、とか。どうでもいい内容の事ばっかり考えてしまう。
しかもクルルが他の人と楽しそうにしてると訳もなく苛つくのだ。
自分でもどうしたらいいか分からなくなった。
だから、クルルに聞いてみた。
それが冒頭の台詞である。

聞いてみたら、クルルはケロロを見ながらため息を吐いた。

「隊長〜、尋ねる相手間違ってねぇかぁ?」

よりにもよって俺に聞くなよ。
クルルはそう言いながらケロロから自然な動作で視線を外した。

「だって!クルルの事だからクルルに聞いた方が早いでしょ!」

が、ケロロの答えらしい。
率直と言えば良いのか、馬鹿と言えば良いのかクルルは頭を抱えた。
よりにもよって、自分が好きだという相手に聞くか?しかも『どうしよう』とか言ってきやがった。俺が『どうしよう』だよ。

「・・・あ〜、面倒臭ぇ」

「クルル酷い!我輩真剣なのにぃ!」

クルルが小さく零した言葉はケロロにしっかり届いていたらしく、ケロロが抗議の声を上げた。

「クルルも真剣に考えてよー。クルルの事でしょー」

俺の事じゃねぇよ。クルルはついそう言いそうになったが、何とか抑えた。またケロロがそれに言い掛かりをつけ長くなるに決まってる。言う代わりに、もう一度深くため息を吐いた。

つまり、ケロロはクルルが好きなのだろう。自意識過剰と思われそうだが、クルルが先程の言葉を聞いて思い浮かぶのは好意と嫉妬心しかない。
仮にもそんな気持ちを向けている相手に聞いてくるのも厄介だが、一番厄介なのはその気持ちを聞いた本人が気付いていないという事だ。気付いて聞いていたら本物の馬鹿の証明にしかならない。

「隊長はどうしたいんだい?」

何時もの笑顔で何事もない様に言う。もしここで「隊長は俺の事が好きなんだよ」とか言ったら、絶対面倒臭い事になるに違いない。出来るならケロロが気持ちに気付かず去って行ってくれるのを祈るのみだ。

「んー。クルルと遊びたいし喋りたいし笑って欲しい?」

首を傾げながらケロロは必死に言葉を紡ぐ様に答える。その答えにクルルは僅かに安心感を抱いた。
もしかしたら、本当に自意識過剰なだけかもしれない。きっと深い意味はないのではないか。
嫉妬心は自分と仲の良い友達が他の友達に取られた時に感じる物だろうし、長く一緒にいるから力になりたいと思うのだろう。顔が熱いとか胸が締め付けられるとかはきっとアレだ。思い込みか閉め切ったラボのせいだ。
そう結論付けて、クルルは安堵の息を吐いた。
しかし、ケロロはそんなクルルに追い討ちをかける様な一言を吐いた。

「それに我輩クルルを抱き締めたいし触りたい」

逆に、自分以外の人にはさせたくない。

「だって我輩クルルが好きだから」

あっけらかんとそう言うケロロを殴りたい。そう思った自分に罪はないはずだとクルルは拳を握った。
先程まで考えていた事が全て消し炭だ。どう反応したらいいのか分からず、クルルは内心眉間を寄せた。勿論表には出さなかったが。

ケロロはクルルが好きなのだ。友情としてではなく恋慕として。
気付いてないのではなく、馬鹿の証明だった。その事に、思わず舌打ちしたくなった。
だが、そんなクルルを余所に、ケロロは「あ、告白しちゃった」等と軽く笑っている。

「ねぇ、クルル。我輩どうしたらいい?」

考え込んでいたクルルに、ケロロが笑いかける。それに、クルルは今まで表に出さなかった表情を思い切り出した。

「隊長はどうしたいんだ?」

それは、最初の問答。
違うのは真剣だったケロロが今は楽しそうな笑顔になり、笑顔だったクルルが今は苦々しく顔を歪めている事だ。

「我輩?言ったじゃん。抱き締めたいし触りたい」

「・・・分かってんなら俺に聞くなよ」

「ちーがーうーのー。我輩はそうしたいけど、クルルはどうしたい?」

「・・・・・・は?」

なんで自分に聞くのか分からない。そういう表情でクルルは聞き返した。

「我輩がしたい事を、クルルはどう思う?我輩はクルルに対してどう接したらいい?」

今まで通り仲の良い友達?それとも恋慕の対象?

「我輩は、どうしたらいい?」

どう、行動したらいいの?
そうケロロは尋ねた。
クルルは、それに隠そうともせずに顔を歪ませた。口の中で舌打ちをする。

ケロロは、クルルに答えさせようとしているのだ。
ケロロの告白を、クルルに選ばせようとしている。しかし実際はもう告白してしまったから、選ぶ事は出来ないだろう。
だが、クルルの気持ちは選べる。
ケロロは友達か、友達以上か。

「俺がどうこう言っても、あんたは関係なく関わってくるんだろ?」

クルルがため息混じりにそう零すと、ケロロは目を細めて笑った。

「ばれた?」

その声は軽やかに跳ねている。
クルルとは対照的に、ケロロは酷く楽しそうだった。

「まあ、我輩告白しちゃったから、クルルにこれからアタックかけまくるんだけど。けどさ、やっぱりクルルがどう思ってるのか知りたいし?我輩どうしようかなーって」

「・・・遠回し過ぎるだろ」

クルルの気持ちを知りたいからって、そんな面倒臭い質問はないだろう。
こいつは馬鹿じゃなくて、馬鹿を演じてた道化だったのか、とクルルは頭が痛くなった。
ああ、面倒臭い。

「ねぇ、クルル。返事は?」

「返事?」

痛い頭を押さえながら、クルルはケロロに視線を合わせた。
そう、返事と道化は道化らしく笑う。

「我輩はどうしたらいいのでありますか?」

今まで素だった口調が、わざとらしく軍仕様になる。
もう何回目になるか分からない、いや分かりたくもない質問。
クルルはその質問に、さも考えるのも億劫だと言わんばかりに、投げやりに答えた。

「好きにしたらいいんじゃねぇか?」

そう、投げやりに。
だけど、ケロロはその答えに満面の笑みを浮かべた。
嬉しそうな、楽しそうな笑み。それはきっと、クルルが答えてくれたから。
だって、それは特別な事なのではないか。
人と関わる事が嫌いで、一人を好むクルルが、好きだと言ったケロロに好きにしていいと言った。嫌なら、クルルは何が何でも嫌だと言うのに。
そのクルルが、曖昧だが許可してくれたのだ。

「だから、クルルって好き」

そう言って、ケロロはクルルを抱き締める。真正面から、堂々と。

「何くっついてやがる」

「ん?抱き締めたいって言ったじゃん、さっき。ゆうげんじっこー」

頭の上から軽快な音が降ってくる。抱き締められているクルルは何度目かのため息を吐く。諦めと面倒臭さと理解し難い事態で、考える事を放棄した。
まだクルルの中でケロロの立ち位置は分からない。でも、こうやって黙って抱き締められているという事実が、普段のクルルには有り得ない事なのだ。

「・・・こんな計算高いとは思わなかったなぁ」

もしくは、本当の馬鹿か。それさえも考えたくない。
分かる事は、意外とこの体温が心地良いという事だ。

「クルル、これからもよろしく」

それは、友情としてか恋慕としてか。
きっとこれから分かるだろうと傍観し、クルルはああ、と呟いた。






諮詢クラウン



いつか、この気持ちが分かるまで。
















―――――――

・・・若干緑→黄みたいに・・・。
いや!ちゃんと緑黄ですよ!
クルルは好きじゃない相手に抱き締められるはずがない!ケロロが実は好きなんだ!と言いたかったのですが・・・、分かり難くてすみません・・・。

うん、ケロロが計算高い奴になってしまった。
ちょ、クルルが自意識過剰でツンツン過ぎた・・・!



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