「ク〜ルル〜!一緒に遊ぼうであります!」

今日もボケガエルは陰険陰湿な科学者を誘っている。
時刻は昼過ぎ。
休日の昼にクルルが居間にいる事がまず有り得ない。しかも静かにテレビなんかを見ていて、コイツ本当にあのクルルかどうか怪しくなった。
しかしそんな事は気にもならないのか、ボケガエルはクルルの目の前で遊ぼう遊ぼうと急かしていた。
ぶっちゃけコイツら二人で何かやらせると面倒臭い事になるのは確実だからやらせたくないんだけど、本当に遊ぶだけならと考えると言えなくなってしまう。

「クルルってば〜!」

ボケガエルの声が響く。
クルルはその声でやっとボケガエルの方を向き、「カレーは?」と聞いた。
・・・カレー?
ボケガエルは、へ?という顔をしているし、私もついクルルを見てしまった。
しかしクルルは私達の視線も気にせず、いつもの様にク〜ックック〜と嫌らしく笑った。

「カレーだよ、隊長〜。カレーがあんなら遊んでやるぜぇ」

いや、カレーで遊ぶってどうよ、と思ったけど口には出さなかった。もう二度とカレーかき氷とか食べたくない。
ボケガエルは「カレーでありますか・・・」と小さく呟いていた。
侵略者がカレーで悩むのだから、この星は当分大丈夫だろう。

「レトルトならあるでありますが・・・」

「レトルトは駄目だぜ〜」

ボケガエルの提案をバッサリ切る。
ボケガエルは、えーー!と声を上げた。

「今から作るでありますか?」

遊べなくなっちゃうじゃん!
ボケガエルが叫ぶ。そこまでしてクルルと遊びたいんだ・・・。
クルルはそんなボケガエルを見ながらくつくつ笑っていた。
なんか少しボケガエルが哀れに思えてきた。遊ぶだけなら、遊んであげればいいのに。どうせ最終的に二人で盛り上がるのだから。
そう考えていた私に、クルルはにやりと視線を向けて、すぐにボケガエルの方に視線を戻した。

「たぁいちょ、俺この間出来たカレー屋のが食いてぇなぁ」

「この間のって、・・・あぁ、あそこでありますか!」

ボケガエルは店を思い出した様に頷いた。
私も新しく出来たカレー屋を思い浮かべた。
確か隣町に出来た、小さなカレー屋だ。

「じゃあ、あそこのカレー買ってくればいいのでありますね!?」

「そしたら隊長の気が済むまで遊んでやるぜぇ」

「ヤッフー!行ってくるであります!」

「15分以内なー」

意気揚々と駆け出して行ったボケガエルに、クルルはのんびりとした声で制限時間を伝えた。ギィヤァ!マジでありますかー!というボケガエルの叫び声が聞こえて、消えていく足音。
それに、私は我慢が出来なくなった。

「ちょっとクルル!いい加減にしなさいよ!」

「あ〜?」

笑いながら、クルルは私を見る。その顔はいつもより楽しそうに見えたのは気のせいだろう。

「15分で帰って来れる訳ないでしょ!あの店、隣町にあるのよ?」

怒っている私に、クルルは「大丈夫だぜぇ」と軽く流した。
その様子に、ますます苛立ちが募った。

「何が大丈夫なのよ!これじゃボケガエルが可哀相じゃない!」

「分かってねぇなぁ」

怒る私に、クルルは笑いながら言ってきた。
分かってない?分かってないのはクルルの方じゃないの?ボケガエルの気持ちも少しは考えなさいよ!

「だから、分かってねぇんだよ」

クルルは笑う。

「隊長はなぁ、俺に甘えてほしいんだよ。どんな我が儘でもいいから俺を甘えさせたいんだ」

迷惑な話だぜぇ。
ク〜ックック〜とクルルは肩を震わせて笑っている。
対する私は意味が分からなかった。頭の中がクエスチョンマークでいっぱいだ。
つまり、ボケガエルはこの捻くれた奴を甘やかしたいって事だろうか。しかもあんな理不尽な我が儘が甘えの中に入るのだろうか。

「・・・訳が分からないわ・・・」

心底疲れて考えるのを止めた。コイツらの事なんて分かるはずがないわ。
うなだれている私にいつも通りの笑い声を上げて、クルルは立ち上がった。

「・・・・・・どこか行くの?」

「ラボに帰るだけだぜぇ」

「あっそ・・・」

もう関わりたくない。そう思った私は話半分に聞き流した。
クルルは覚束ない足取りでラボに帰って行く。
何なのだろう。クルルはクルルでボケガエルの事を考えているという事なのだろうか。
確かに変な我が儘は言うが、甘えてる所なんて見た事がない。・・・前、一回睦実さんに甘えてたくせに。
ボケガエルに対するあれがクルルの愛情表現だとしたら歪んでるわ。

「ただいまであります!・・・って、あれクルルは?」

そこまで考えていたらボケガエルが帰ってきた。
息を切らしながらリビングの入口に驚いた顔を晒している。余程急いだのだろう、汗が顔を伝っていた。

「ラボに戻ったわよ」

カレーがこぼれてないか若干心配になりながら私は言う。
ボケガエルはそうでありますか、と言い私にお礼を述べてからラボに向かおうと踵を返した。

「ボケガエルちょっと待って」

カレーを手にクルルのラボに行こうとしたボケガエルを引き止める。
ボケガエルは背中を向けたまま、顔だけ振り向いた。

「え〜、なんでありますか〜?我輩早くクルルと遊びたいのにぃ」

ちょっと拗ねた、だけど楽しみが待ち遠しいという様にボケガエルは言う。
私はそれに今まで不思議に思っていた事を聞いた。

「なんでアンタはそんなにクルルに構うの?」

クルルは一人でラボに篭って研究やら開発やらをしてるのが好きだと思ってた。
なのに、ボケガエルはすぐクルルを気にしている。それはきっと隊長だからとかじゃない。
冷たくあしらわれ、我が儘を言われるのに。
ボケガエルはぐるりと身体ごと私を向いた。

「勿論、好きだからでありますよ」

愛おしむ様に笑う。
それが、いつものボケガエルとは違う雰囲気を醸し出していた。

「・・・あんなに我が儘言われてるのに?」

あんなに実験とかで酷い扱いされてるのに?
そう言うと、ボケガエルはちっちっ、と顔の前で指を振った。

「夏美殿は分かってないでありますなぁ」

分かってない。
それはクルルにも言われた言葉。
分からないと認めたけど、二回も言われるとやっぱり腹が立った。
ボケガエルは楽しそうに笑っていた。

「クルルはね、甘えるのが下手くそなんでありますよ。下手で素直じゃなくて、でも甘えたい。そういう時甘えさせたいじゃん」

例えちょっと辛い我が儘でも。

「だって、我輩クルルが好きでありますから」

その表情は、本当に幸せそうだった。
クルルが好きだから、甘えたい時は甘やかせたい。
クルルが好きだから、自分に素直になって負担を無くしてあげたい。

「そういう事で、我輩一刻も早く行きたいから失礼するであります!」

ボケガエルはそう言うと、カレーを持ったまま全速力で走って行った。
私は今日二回目の足音を聞きながら脱力してしまった。

素直じゃなくて捻くれていて我が儘なクルルは、たまに人恋しくなり、それをボケガエルが察して、捻くれ者を甘やかすのだろうか。
それともボケガエルがクルルが好きだから甘えて欲しくて、クルルが察してボケガエルに甘えているのだろうか。

「・・・ホント、訳が分からないわ・・・」

考えるのを諦めようとしたけど、なんかずっとあの二人の事を考えてる気がするわ。
きっと今頃アイツらは二人で仲良く遊んでるか、クルルがカレーでも食べてるのだろう。

「なんで私がこんな疲れなきゃいけないのよ・・・」

あの二人が恨めしい。
だけど、少しだけ羨ましかった。

本当の所はよく分からないけど、クルルはボケガエルを、ボケガエルはクルルを、お互いに気にして大切にしているのだけは分かった。
二人共、相手を思っての行動なのだ。

「だからって、面倒なやり方しないで素直になりなさいよ」

ラボにいるだろうバカップルを思い浮かべて、私はため息をついた。
時計を見ると、ボケガエルが家を飛び出してからちょうど15分だった。






顧慮オブスキュア



分かるよ、好きな奴の事だもの。



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