こいつがいきなり来たのが10分前。
俺が銃の整備をし終わったのが少し前。
そして、俺は沈黙に耐えきれなくなったのが今。

「おい、何しに来たんだ?」

多少強く言ってしまったかもしれない、クルルは少し肩を撥ねさせた。
そんなクルルに若干悪いと思ったが、元々はいきなり来たくせに用事も言わずに俺を見ていたこいつが悪いと思い直した。
まず、こいつが俺のテントに来る事自体が有り得ないのだ。
その上何も喋らず、ただ見られているというのに耐えられるはずがない。
クルルは少し居心地悪そうに俺から目線を外した。
その様子が、気に食わない。
いつもみたいに周りを巻き込む悪戯や発明をしている時のクルルはそこにいなくて。
ただ不安そうに、泣いてしまいそうに弱いクルルがいた。
初めて見る、そんな顔。
そんな顔をする訳も、クルルが話さないから分かるはずもない。
だから、問い掛けたのに。
クルルは、座ったまま応えなかった。

「俺に何か用が有るんだろう?ならさっさと言わんか」

さっきよりも強めに言えば、クルルはやっと俺に目を合わせて。
俺はその目を見てクルルを促した。
そして、

「やっぱり、夏美の方が、いいのか?」

クルルは小さな声で、言った。
俺はその言葉に固まった。
今、何と言われた?
クルルは、何を言った?
言われた言葉がすぐに理解する事が出来なかった。
その間に不安になったのだろうか。クルルはまくし立てる様に言う。

「先輩、この間夏美に手袋あげてただろ?それによく夏美の為に芋を焼いてるし・・・。俺なんかより、やっぱり夏美の方がいいならそう言ってくれ。そしたら俺はあんたの邪魔はしないから」

「ちょっと待て、何故そうなる!」

悲しそうな顔で言うクルルに、やっと頭が動き出した。
つまりクルルは俺が夏美を好きだから手袋や芋を渡していたと考え、しかも身を引くと言っている。
確かに俺が悪いだろう。
それは謝る。
けれど、俺が恋人以外を好きになり、俺の為にクルルは身を引く。
そんな事は、許せない。
俺がそんな男だと思われている事も。
クルルが俺の為に自己犠牲になろうという考えも。

「お前は俺がそんな男だと思っているのか?」

そう言うと、クルルは身を乗り出してきた。

「でも・・・・・・!」

「確かに俺が悪い。俺が悪いが、俺は恋人以外に好意を抱いた事はないぞ」

言うのは恥ずかしい。
恥ずかしいが、言わなくてはいけないのだろう。

「確かに俺は夏美に好意を抱いてはいるが、それは友愛みたいな物だ。お前に対する好意とは全く違う。俺はお前が、・・・っい、1番好きだ。キスするのも、・・・それ以上をしたいと思うのもお前だけだ」

・・・恥ずかしすぎる。
クルルは俯いていて表情は分からない。
覗き込もうと近付いたら、クルルの肩が揺れていた。

「クルル・・・?」

声を掛けたら、クルルは俺を見た。
目が涙目だった。
笑っていた。
しかも爆笑だ。
こんな笑うクルルを見た事ないという程、笑っていた。
その手には、ボイスレコーダー。

「クーックックック〜!!まさかそんなに言ってくれるとはなぁ!」

悪戯が成功した時の、嬉しそうな顔がそこにあった。
俺はただ呆然とするしかなかった。
何が何だか、分からない。
さっきまでのしおらしいクルルは嘘だったのか。
いや、嘘だったのだろう。

「バッチリ録音も出来たしなぁ、先輩の小恥ずかしい告白。クック、上々だぜぇ」

クルルが何かを言っている。
あぁ、さっきまでのクルルが愛おしくなってきた。
そんな俺にお構いなく、クルルは出て行こうとしていた。
もう、何でもいい。
そう諦めかけていた俺に、クルルは思い出した様に振り向いて言った。

「あ、先輩。先輩が俺を愛しちゃってんのなんか百も承知だっつーの」

そう言って、クルルは出て行った。
俺はクルルの出て行った出口を呆然と見詰める。
結局、俺の恥ずかしい台詞を録る為の演技だったのか。
でも、それにしては。
俺が好きだと言った時、嬉しそうだったのは見間違いではないだろう。
つまり、大部分の悪戯心と少しの嫉妬心。
演技の中に、本音が少し入っていたのだろう。
そう思うと、悪い気がしない。

「愛しちゃっているのか」

クルルの言う通り。
それも悪くない。
これから録音されたあの恥ずかしい告白に悩まさせるとは思いもしなく、俺は満足気に笑った。






放逸エクスプレス



分かっている通り、愛しちゃってるのだ。



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