「待てクルル!!」
待てるわけないだろう!
俺の後ろから先輩が追いかけてくる。そりゃあ、銃さえ持っていれば"戦場の悪魔"に見えるくらいの勢いで。
対して体力のない俺はもう息が切れて倒れそうだ。飛び出した時に発明品を忘れたせいで為す術もない。
「待たんか!」
後ろから先輩が叫ぶ。
それでも俺は止まる訳にはいかなかった。
始まりは、ほんの30分前。
俺のラボでくつろいでいたら、先輩が俺の横で何かを言いたそうに立っていて、それに気付いた俺は、眉をひそめてその唐変木に話しかけてやった。
「・・・おっさん、ウジウジとうぜぇんだけど、」
俺が話しかけたら、先輩は俺をまっすぐ見つけてきて、俺は何なんだと思い半ば睨みつけるように見上げていたら、先輩はいきなり俺の両肩に思い切り、そう痛いくらい思い切り手を置いてきやがった。
「!?・・・・・・何だよ、おっさん」
「・・・クルル。俺達は付き合っているよな」
「はあ?!」
真面目な顔で先輩はしょうもない事を言った。
「・・・・・・まぁ、」
余りにも先輩が真剣そのものだったから、俺も普通に答えてしまった。何なんだ、本当に。
「俺の事は好きなんだな」
「・・・まぁ、」
訳が分からない。普段の俺なら絶対はぐらかすか笑うのを、さっきから生返事しかしていない。ありえない、頭が着いていかない。
「なら、ひとつ頼みたいんだが・・・」
「・・・・・・、何だ?」
「・・・・・・・・キス、してもいいか?」
聞いた瞬間、俺の頭が固まった。
あぁ、これが頭が真っ白になるって事か、とぼんやり考える。 すげぇよ俺、この俺様が頭真っ白になるなんてめったに無いことだぜ?今もう思い切り体験しまくってますよ、現在進行形で体験しちゃってますよ。
「・・・・・・クルル?」
心配そうに言った先輩の声で現実に引き戻された。・・・出来れば、戻りたくなかったが。
頭の中で先輩の言葉が繰り返される。
キスってアレだろ?唇と唇をくっつける行為だろ?キス、または接吻。ベーゼ口づけ口吸いマウストゥマウス。
その行為を俺と先輩が?ありえない。
そう思い、顔を上げたら目の前に先輩の顔があって。
「クヒッ?!」
優しく割れ物を触るみたいに、俺の頬を手で包んで。
「・・・・・・クルル」
愛おしそうに俺の名前を呼んで、そのまま顔が近づいてきて。
俺は思い切り先輩を突き飛ばして逃げ出した。
「待てと言っているだろう!」
それで、冒頭に戻る訳だ。追いかけてくる先輩、逃げ回る俺。
止まるわけにはいかない。止まったら、きっとあの行為が待っている。
「何故逃げるんだ!」
そりゃあ、逃げるだろ!俺があんな事するなんて、想像もつかない。ましてや相手が先輩なんて・・・!
必死で逃げていた俺は、先輩の言葉で絶句した。もう無いと思っていた頭が真っ白になるという事をまた経験してしまった。
「1度したことがあるだろう!?」
・・・は?
誰が?誰と?なにをしたって?
「んなことあるわけ・・・・・・!」
・・・・・・・・・あった。
振り返り怒鳴ろうとした俺は、思い出した。ああ、思い出してしまった。
前に隊長の幼なじみが健康診断といって、健康になるためにと行ったとき。溺れた先輩に人口呼吸をした。
「あれは・・・っ!」
走りながら、考えた。
あれは人口呼吸だ。人を助ける行為だ。決してキスなんかじゃない。俺は嫌がらせの為にやったんだ。そんな意味ではやっていない!
「ならば今回もそう思えばいいだろう!」
「いい訳あるか変態!」
なんだ嫌がらせして喜ばれるなんて。嫌すぎる、気持ち悪い。
「何故嫌なんだ!理由を言え!」
「うるせぇ、もう諦めろよ!」
意味合いが違いすぎるんだよ!人口呼吸とキスなんて、月とスッポン、雲泥の差だ。
俺がそんなこと、あんたと出来るわけないだろう!
「クルル、俺が嫌いなのか!?」
少し、悲しそうな声だった。
「ちがっ・・・!」
「なら何故逃げる!」
違う。あんたのことは嫌いじゃない。むしろ逆だ。
だけど、そんな行為を俺が出来るはずがないだろう。しかも相手があんたで、嫌いじゃない相手で、そんな人口呼吸とは違う意味合いの行為なんて!
「心臓に悪いんだよ!」
そう叫んだ俺は、逃げる足に力を入れた。
「今日も平和でありますなぁ」
意味が分からん、と叫んでいるギロロの声を聞きなから、ケロロがゆっくりお茶を飲んでいた。
クルルがケロロに助けて、と抱き着き、ギロロがキレるまで後10分。
純情アシェイムド
そんなの耐えられる筈がない!