「睡蓮のようだな、石田三成」
元就は立っている三成の横顔に声を投げかけた。
「何だいきなり」
三成は下を向き、元就に視線の一つも送らない。そんな三成に、元就は何時も通りの冷めた口調で言う。
「ふと思っただけよ。水の中に浮かぶ白き花。貴様のようではないか」
ハッ、と三成が鼻で笑う。対して、下を向いていた視線を元就に定めた三成は何時も以上の仏頂面で、全く笑っていなかった。
「やけに詩的だな、毛利元就」
「貴様がそんな所にいるからかも知れぬな」
殺気さえ篭った視線を易々と受け止め、目を細めた元就が三成の周辺を眺める。
三成の周りには、先程まで動いていたものが折り重なるように地面に横たわっていた。地面を隠す程の夥しい数。
そんな中に一人だけ立っていたから、水面を覆う草の中に小さく咲いている白い花を思い出したのかもしれない。
三成は一瞬眉を潜めたが、ただ「そうか」と応えて手に持った刀の血を拭った。
「貴様は睡蓮の花言葉を知っておるか」
「いや。生憎風流事には疎くてな」
刀を鞘に戻す。カチンと柄が鳴った音と、元就の鼻を鳴らす音が重なった。
「知らぬのか、ならば良いわ」
見下すように言った元就は、つまらなそうに三成の足元を眺めた。
答えを言うつもりはない事を察した三成は、眉を潜めて元就を鋭く睨み付ける。
「おい、言わないのか」
「元々知らぬのだ、聞かなくても支障はないだろう?」
そう言われ、三成は舌打ちを打つ。しかしこれ以上言っても無駄だと分かり、文句は言わなかった。
代わりに違う事を口にする。
「毛利元就」
「何だ」
「私は睡蓮だったな。ならば貴様は沈丁花だ」
淡々と、抑揚のない声で言えば、元就は満足げに口角を上げた。
「ほう、なかなか良い花だ」
「貴様の望むものだろう」
笑う元就に、三成は皮肉げに笑った。沈丁花のように、元就が集団で花を咲かせるとは思えない。
それでも元就が満足げに笑ったのは、その花言葉を知っているからだろう。
「そうだな。しかし貴様、風流事には疎いのではなかったか」
自分とは到底思えない花を言われても笑った元就は、目を細めてそう指摘する。
それに、三成は顔をしかめた。
「・・・以前、聞いた事があるだけだ」
そう一言吐き捨てて、三成は陣を構えている方向へと歩き出した。
元就はそんな三成の背中を眺めながら、先程三成が見せた表情を思い出す。
苦々しく、しかし何処か辛そうなその顔で思い浮かべたのは、かつての君主や恩師ではないだろう。
忘れるか思い出さないようにするか、または他の感情で塗り潰してしまえばいいのに。
「本に睡蓮のような男よ」
そう言った元就は、緩く笑っていた。
心象ブロム
花のように埋もれてしまえばいいのに。
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アミダで決めよう第二弾。
どうしても神様は私に三成を書かせたいらしい。
花はキャラのイメージというよりは、花言葉とその時の状況で決めました。
睡蓮:清純な心、純情、優しさ、信頼、信仰
沈丁花:栄光、不滅
なんか華やかさがない花だね!