「Hey、降りてこいよ」
竜の旦那は何を思ったか、いきなりそう言い出した。
部屋には右目の旦那もいなくて竜が一人。そんな中、一人で話す竜の旦那は端から見たら変人の様だ。
そんな事を考えながら、俺は天井裏から顔を出した。
「何で分かっちゃうのかねぇ、しっかり気配も消してるのに」
「愛の力だろ」
「ははっ!何それ!」
竜の旦那に降りてこいと目線で訴えられ、俺は笑いながら音も立てないで降りる。ほら、ちゃんと忍なのに。
床に降りた俺に、こっちに来いと手を振る。この人は俺を忍だと理解しているのだろうか。
取りあえず呼ばれた通りに行くと、横に座れと言われた。素直に横に座ると竜の旦那が俺の横にピッタリくっついてきた。
「で?今夜は何の用で来たんだ、my lover?」
ニヤリ、と笑いながら言う竜の旦那は楽しそうだった。
そんな彼に何時もの様に、飄々とした笑みで俺も笑ってあげた。
「今日は大将に言われて情報収集とお手紙を渡しに」
「Letter?」
「そ、これは旦那から」
そう言って旦那からの手紙を渡してあげる。
竜の旦那は不思議そうにあの真田が・・・?とか言ってたけど、手紙を開けた瞬間に盛大に噴き出していた。
手紙にはお世辞にも上手いと言い難い字で一言、”手合わせ願いたい”とだけ書いてあった。
「Really!?こんだけの為に忍を甲斐から奥州まで遣わせんのかよ?so crazy!」
そう言いながら笑う竜の旦那に腹が立つ。こっちは旦那に急かされながら、こんな夜中に来たっていうのに。
そうこうしてる内に竜の旦那は旦那への返事を書いたらしく、こちらに渡してきた。
それもやっぱり一言で、”Of course!”と書かれていた。
「てか、読めないんだけど・・・」
「Oh、sorry!勿論って伝えてくれ」
「それじゃあ、手紙の意味ないじゃん」
「良いじゃねぇか。細かい事気にすんなよ」
「はぁ、まぁ良いか・・・」
そう言って懐に手紙を仕舞った。
「お前はもう帰っちまうのか?」
いきなり竜の旦那が聞いてきたから驚いて見れば、さっきまでとは違う男の顔で見詰められていた。
一瞬、胸が高鳴ったけど、気付かないふりをして平然と答える。
「そうだねぇ。手紙も貰ったし情報収集もしたし。予定より早いけど帰ってもいいなぁ」
俺がそう言うと竜の旦那は少し不機嫌になって、俺を抱きしめてきた。
「・・・・・・旦那?」
「時間余ってんだろ? ならこのままいろ」
そう言って男臭く笑う竜の旦那に、また胸が高鳴って。
遅くなると旦那が心配する、とか、帰る体力が残るだろうか、とかいろいろ考えたけど。
笑う竜には敵わなくて。
そうだねぇ、と言って抱きしめ返した。
惚れたもん勝ち
結局、惚れた弱みって事で。