奥州の土地で、空を見上げる。
遠くから旦那の声が聞こえる。
きっと、今頃竜と手合わせでもしているのだろう。聞こえる声は、少し楽しそうだ。
そんな声を聞きながら、俺はため息を吐いた。

旦那がいきなり奥州に行こう、と言い出したのは今日の朝。
半ば無理矢理連れて来られた。と云うか、旦那が行くなら俺も必ず付いて行かなくてはいけないから、拒否権なんて無かったんだけど。
で、着いた途端すぐに竜に手合わせを頼んでいた。
竜も楽しそうに笑い、右目の旦那も竜に付いて行って。
俺様一人だよ。暇なんだよ。あ〜あ、暇だなぁ。このままじゃあ、城の中でも入って情報探ししたくなっちゃうよ。
旦那は楽しそうだなぁ、あんなに叫んじゃって。
今の俺の様子を知りもしない旦那に八つ当たる。


「Hey!暇そうだな、Monkey?」

そんな時に、いきなり背後から声を掛けられた。
驚いたのを微塵も出さないように、笑いながら顔だけ振り返った。気配に気付かなかった自分に舌打ちしながら。

「あれま、竜の旦那じゃん。じゃあ、旦那は今誰と戦ってんの?」

旦那の声は、まだ遠くから聞こえる。
答えなんて一つしかないけど、敢えて聞く。多分、竜も俺が知っているのを分かっているだろう。

「Ha!もちろん小十郎に決まってんだろ?他にあいつの相手が務まるかよ、isn't it?」

予想通りの答えに、思わず笑った。

「Ah〜?何笑ってんだ」

そう言いながら竜も笑っていて。一応敵なのに良いのだろうか、と考えてしまう。

「で、竜の旦那は何でこんなトコにいんの?」

旦那の相手はどうしたんだ、と目で訴えると、俺の横に腰掛けながらため息を吐いた。それがさっきの自分みたいで、また小さく笑った。

「・・・休憩だ」

「天下の独眼竜がちょっとばかしの手合わせで休憩?伊達政宗も堕ちたもんだね」

業とおどけたように言ってやると、竜は眉を寄せた。

「お前、性格ひん曲がってんな」

「そりゃあ、忍ですから」

そう言って笑ってやると、竜は諦めた様に、またため息を吐いた。

「・・・Ok。excuseは無しだ。お前に逢いたかった」

その答えに、俺は少し嬉しくなった。

「前に逢ってから、もう二ヶ月は経つだろ?久しぶりにゆっくりtalkしたくてな」

「何?旦那って結構淋しがり屋?」

恥ずかしさを何時も通りからかいの言葉でごまかせば、案の定竜は怒って。
そんな些細なことも久しぶりで、なんだか嬉しくて。
俺たちは笑い合った。







「もうすぐ、でけぇ波が来る」

最近の出来事やくだらない世間話をしていた時に、竜は真面目な顔をして言った。

「きっと、日本全土を巻き込む戦が始まる」

それは誰もが感じていた事。
織田が遂に動き出す。
天下を我が物にしようと、天下を火の海にするだろう。
日本全土を巻き込んで。
蟻だろうと何だろうと、全て踏み潰して。
それに対して、国を護るため主は戦うのだろう。
きっと旦那がいきなり奥州に行くと言い出したのも、身体を動かさなければ落ち着かないから。

「そん時、お前はどうすんだ?」

竜は当たり前の事を聞いてきた。そんなの決まってるでしょ?

「俺は旦那に付いてくよ」

例え死んでも。死ぬまで旦那の隣で旦那を守り抜く。死ぬなら旦那を護って死にたい。

「After all、分かってたが何か腹立つな」

そう言いながら、竜は頭を掻いて紅くなった空を睨んでいた。

「なぁに、竜の旦那。ヤキモチでもしてんの〜?かぁいいねぇ」

ニヤニヤ笑っていたら凄い怒らた。それでもやっぱりニヤつきは止まらなくて。竜は本気で拗ねてしまった。あらら、やり過ぎちゃった?

「ほら、竜の旦那拗ねないで?」

「拗ねてねぇよ」

そう言っても、やっぱり拗ねていて。
しょうがないなぁ、と言って俺は無理矢理竜の顔を手で包んで顔を合わせた。

「っ!何すんだっ!」

「いい?旦那。一回しか言わないからよく聞いて」

「What?」

意味が分からないといった竜の目を真っ直ぐ見詰める。黒く、漆黒の眼が俺は好きだったりした。

「俺は忍だから、旦那の為に生きるよ?主である真田源次郎幸村様の為に生きて、尽くして、護って死ぬ。それが俺の願い。俺は旦那の為に生きて、死ぬ」

竜の顔が曇っていく。もう聞きたくないという様に手を払われた。

「Understand!勝手に死んでろっ!!」

「でもね、」

「もういいって言って・・・」

「でも、俺は竜の旦那の為に笑ってあげる」

「・・・・・・Ha?」

「だから、竜の旦那の為に笑ってあげる。旦那の傍に居るときは、旦那の為だけに笑うよ。伊達政宗の事だけ想って笑ってあげる。旦那の為に生きるけど、政宗の為に笑うよ。・・・・・・それじゃ駄目かねぇ?」

「No kidding!I am enough!」

「・・・え?」

竜は何かを叫んでいたけど、伴天連語だったから分からなかったが、嬉しそうだったような気がした。

「つまり、お前の気持ちは俺のだって事だろ!?」

「え?いや、その・・・」

俺そこまで言ってないんですけどっ!?

「Ok、分かった。佐助、今夜は寝させないぜ?I show my love this time」

「何言ってるか分かんないけど、丁重にお断りしますっ!!」

「遠慮すんなよ、my Honey?」

「いや、遠慮じゃないからっ!!」

そんな事を言っているうちに、ボロボロの旦那と右目の旦那が帰って来て。
じゃれあっていると思って旦那が入って来て、結局俺たちも汚れてしまった。てか、右目の旦那微笑んでないで助けてよ。

「お前ら、今日は俺がdinner作ってやるよ!」

「でぃなぁ?」

「夕飯の事だ」

「おぉ!それは有り難い!政宗殿のご飯は美味しいでごさる!!」

上機嫌な竜と興奮気味の虎がワイワイと盛り上がっていた。

「そうと決まれば善は急げだ。お前らは先風呂入って来い。小十郎、お前は手伝え」

「はい、喜んで」

「佐助!風呂だ!行くぞ!!」

「ちょっ、旦那!引っ張んないで!」

俺をぐいぐい引っ張って行く旦那を竜が見て引き止めた。

「Stop!真田、ちょっとこっち来い。Come on」

「?何でこざるか?」

俺を掴んでいた手を離し、トコトコと竜の所まで歩いて行く旦那は、悪いけど飼い主に呼ばれた犬の様だった。

「俺ぁ、お前を一発殴りたかったんだよ」

「!?政宗殿?何を・・・」

「歯ぁ食いしばれ」

綺麗な頬を打つ音が辺りに響いた。












夕食時、頬を赤くした旦那が膨れながら、うまいと御飯を食べていた。



今日分かった事は、竜は意外と嫉妬深く根に持つ方だと云うことと、俺は思ったより竜が好きだと云うことだった。






貴方の為に笑う



死ぬまで傍で笑い合おう。



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