「百年、待っててくれねぇか?」

情事の後の気怠い雰囲気の中、竜がそんな事を言ってきた。
俺は何て云ったのかよく分からず、は?と云った。

「百年、待っててくれ」

竜は凄く真剣な声で再び云った。

「こんなご時世だ。互いにいつ死ぬかなんて分からねぇだろ?増してや、本来敵同士だ。お前が死んでも俺はどうする事もできねぇ。だから、俺はもうお前とは会わねぇ」

お前と会っていたら、お前の死も分かっちまうからな。
そう云う竜の顔はぼやけていてよく見えない。けど声からして、きっと静かに穏やかに笑っているのだろう。
いきなりの離縁に、俺は怒りもせずしょうがないと笑っていた。

「だから今、この時代が無理なら百年待っててくれ。俺もお前も何時かは死ぬ。俺が死んだら、また生を受けてお前に逢いに行く」

その優しい声音に、泣きそうになった。来世なんて、随分な物を信じてるんだねと笑ってやれば、竜は声を少し張り上げた。

「信じる者は救われるんだよ!で、答えは?Please your answer」

そう云ってくる竜が面白くて、俺はそうだねぇと意地の悪い笑みを浮かべて考える振りをした。待ってあげてもいいよと云えば、竜は驚きながらReally?と聞いてくる。
ただ待つだけだよ。俺は自分から捜しもしないし逢いにも行かない。そう云うと竜は満足気に笑った。

「Ok!待っててくれればいい!俺が捜し出してやるよ、my lover?」

そう云って俺の額に唇を当ててくる竜から逃げようとするが、簡単に抱きしめられてしまう。こんなに近くに居るのにぼやけて見える竜に苛つきを覚えて、自分からくっついた。竜は少し驚いたように声を上げたが、強く抱きしめ返してくれた。

「百年、待っててくれるか?」

俺は黙って頷いた。竜は優しく愛しい声で百年待っていろと云った。
俺はただ待っていると答えた。
そして、2人は笑い合った。








そのうち俺は川中島で、竜は俺の知らない所で死んだ。















「ねぇチカちゃん、俺またあの夢見たよ」

学校が終わった帰り、俺達はカラオケに来ていた。
テレビの前には旦那ともう一人、小柄な男子高校生がマイクを持っていて、俺の横には左目を眼帯で覆っている大柄な男子高校生が座っている。

「だからチカちゃんって呼ぶなよ、今は違うんだから・・・」

「あぁ、ゴメン」

ついね〜と誤りながら横のかつて鬼と呼ばれていた友人を見ると、少しふて腐れているようだった。

「てかお前さ、夢は覚えててもアイツはあんま覚えてないんだろ?」

「う〜ん、そうなんだよね。全体的にぼんやりしてて」

あははと笑いながら、俺は答えた。その様子に鬼は眉間にシワを寄せた。

「そんなんで大丈夫なのか?」

「うん?何が?」

コーラを飲みながら聞くと、鬼は大袈裟に溜息を吐いた。

「アイツに逢えるか、って事だよ。俺達みたいに名前は変わっちまってるだろうし、容姿もどうか分からねぇ。お前、ちゃんとアイツを見付けられるのか?」

そう言いながら心配そうに見てくる鬼にありがとう、と笑う。彼は本当にいい奴だ。

「大丈夫だよ、だって俺は何もしないから。俺は待ってるだけって言ったもの、相手がなんとか見付けてくれるんじゃない?」

それが約束だし。そう言えば鬼は渋い顔をした。

「だけどよ、」

「それにね、見付けてくれなくても別に構わないんだ。そしたらそしたで可愛い彼女作って高校生活を満喫するよ」

嘘つけと鬼に責められてしまった。

「お前、告ってきた奴全部断ってんじゃねぇか」

「あれ、なんで知ってんの?」

「学校で噂になってる。お前が断り続けるのは心に決めた相手がいるからだって」

あながち間違ってねぇよな。鬼は笑っていた。
そんな噂があったのか。

「でもさ、記憶がないかも知れないじゃん?」

旦那やナリさんみたいに。

「アイツに限ってそれはないだろ」

「でも、もしなかったら俺様に縛り付けちゃ可哀相でしょ」

ちなみに鬼も俺様も前世の記憶という物を持っていた。旦那やナリさんにそれとなく聞いてみたが覚えてないみたいで。
かすがや慶次も覚えてなさそうだったが、大将や上杉さんとかは覚えているようだった。覚えている人と覚えてない人がいるみたいだ。

「アイツの事だからさ、すっごい美人と付き合ってるよ」

実際こんな記憶が無かったら、男を待ち続けるなんて気持ち悪くてやってられないよ。
だから記憶のあるチカちゃんにしか言ってないんじゃん。

「でもよぉ、お前はそれでいいのか?」

納得のいかなそうな鬼は、心配そうに聞いてきた。

「何回も夢で見るって事は気にしてるんじゃないのか?」

本当にいい奴だね、チカちゃんは。

「・・・うん、まぁ気にしてはいるけどさ。もし、記憶がなくて旦那やナリさんみたいに無邪気に笑えてるなら、俺様はそれでいいと思うよ」

マイクを持って歌っている2人を見ながら言う。

「佐助・・・・・・」

それに、めったに呼ばない名前で鬼が呼んだ。

「何?」

俺様そんなにいい事言っちゃった?

「アイツが無邪気に笑ってるとこ、想像できるか?」

「・・・・・・」

2人して吹き出した。
あの仏頂面が無邪気に笑うなんてありえない!!
2人でヒーヒー笑っていたら、旦那とナリさんが入り込んで怒ってきた。

「何故貴様らだけで盛り上がっているのだ!!」

「そうだぞ!さぁ、何か歌うでござる!!」

そう言ってマイクを押し付けてくる旦那からマイクを取り上げて、鬼はニヤリと笑った。

「じゃあ歌わせて頂くぜ?『別れても好きな人』!!」

いきなり叫んだ鬼に驚いて、曲に驚いた。

「貴様がラブソングだと?有り得ないわ」

「ちょ、ナリさんの言う通りだよ!?しかもデュエットじゃん!!」

「その名を言うのは止めろ!俺はそんな名前ではない!」

「あ、ごめん」

「この曲を片想い真っ只中のこいつに捧げます」

「なっ!ちょっと何言ってんの!!指ささないでくれる!?てか縁起悪いんだけど!!」

「ほう、噂は真であったか」

「破廉恥であるぞぉぉおおおお!!!」

「あーもう煩い!!」

「『わかーれてもー好きな人〜』」

「歌下手ぁ!!」

「貴様!俺を殺す気か!」

「音痴で人が死ぬかぁ!!!」

「あぁ!マイクが吹っ飛んだでごさる!」

俺達ははしゃいで馬鹿して盛り上がって、笑い合った。







カラオケからの帰り道、俺はあまり来たことのない道を歩いていた。
旦那には寄るところがあるからと言って先に帰ってもらったが、少ししゅん、としていた気がしたから何処かで団子でも買っていこう。
久しぶり騒いだからだろうか、つい一人で寄り道をしたくなった。今日のカラオケ、旦那とナリさんは上手かったけど、チカちゃんが少し変だったなと思い出し、笑うのを堪える。

人通りのない道を歩いていると、見知らぬ男に会った。

「Hey,my honey.捜したぜ?」

そう言って笑う男は見たことないはずなのに、知っているような気がした。

「百年って言ったのに、随分長い間待たせるね」

四百年も経っちゃったよ?
見知らぬ相手なのに、俺はまるでずっと前から知っているように返事を返した。

「Sorry,神様が意地悪してきやがったんだよ」

「何それ」

懐かしい、感じがする。

「待たせたな」

「ホントだよ」

男二人が向かい合っていて、端から見たら変だろう。でも、気にならない程嬉しかった。

「ねえ、」

「なんだ」

「逢いたかった」

そう言うと、男は驚いた後俺を抱きしめてきた。

「・・・Me too」

此処が道端だとか、誰かに見られているかもとかどうでも良くて。
男の体温がすぐ近くに感じる。
あぁ、そういえばこんな顔だった。真っ黒い髪も鋭い片目も雰囲気も変わっていない、竜そのもの。
そう分かると、胸の中の苛立ちが消えていった。

「逢いに来たぜ」

「うん」

「長い間待たせて悪かった」

「うん」

「I love you」

「・・・うん」

男の声が心地いい。懐かしさに泣きそうになってしまう。
泣き顔を見られたくないから自分からくっつくと、男は嬉しそうに強く抱きしめ返してくれた。

「前言えなかった事、言っていいか?」

耳元に囁かれる様に言われた言葉は、甘く優しかった。

「愛してる」

以前は南蛮語でしか言われた事のない言葉。
絶対に日本語では言わなかった言葉なのに、今言うのは、狡い。
嬉しくて、どうしようもなくて、

「・・・うん」

笑いながら、泣いてしまいそう。
俺の額にキスをしてくる男の体温を、存在を感じて。
ああ、もう四百年も来ていたんだな。
初めて俺はそう実感した。




(第一夜)



視界の隅に、百合が笑っていた。























「ただいま〜」

「おお、帰ったか!・・・そちらの方は・・・?」

「Hey、久しぶりだな」

「・・・すみませぬ、何処かでお会いに・・・?」

「あ〜、旦那記憶ないんだよね」

「Really?そういやぁ、小十郎もねぇしなぁ」

「右目の旦那と一緒なんだ」

「いつきもなさそうだったが、魔王はありそうだったぜ?」

「魔王が?・・・やばくない?」

「あの、」

「Ah〜,sorry、俺はこいつの恋人だ」

「なっ!」

「ちょっと何言ってんの!」

「本当の事だろ?」

「そうだけど!旦那固まっちゃったでしょ!」

「まあいいじゃねぇか」

「良くないから!」

「何を騒いでおる?・・・おお、独眼竜ではないか!久しいのう」

「ほんとにひさしぶりですね」

「武田のおっさんに上杉までいんのか。久しぶりだな」

「おっさ・・・!!」

「旦那?」

「おのれ、佐助の恋人などと宣い、その上お館様をおっさん呼ばわりするなど許せぬ!貴様なんぞに佐助は渡さぬ!!」

「Ha!?何言ってんだ!?」

「佐助は某のモノだったのに、横から掻っ攫い・・・!!許せぬ!佐助は某のモノでござるぅうう!!」 

「おいこいつ変なトコで記憶取り戻しやがったぞ!?」

「旦那ぁ!」

「感動してんじゃねぇよ!!」

「幸村ぁあ!よくぞ取り戻した!」

「お館様ぁあ!!」

「あーもう煩ぇよお前ら!!」

「お館様に何という言葉を・・・!」

「煩ぇ!大体お前に許可してもらう必要なんかねぇだろ!いい加減母離れしろ、このマザコン!!」

「それこそ貴様に関係無かろう!佐助は何時までも某のでごさる!」

「関係あるんだよぉ!こいつは俺んだ!!」

「ぬぅ・・・、言っても分からぬのなら・・・!」

「Ha!久しぶりにやろうってか?」

「では、・・・真田幸村参る!!」

「Come on!!」

「あなたもつみなひとですね」

「あはは・・・」

目の前にはかつて見慣れた光景が広がっていた。
明日、旦那が記憶を取り戻したと言ったら、智将はどんな顔をするだろうか。
明日、片想いじゃなくなったと言ったら、鬼は笑ってくれるだろうか。

そんな事を考えて、俺は笑った。






転生プロセス



貴方を待つなら、百年も四百年もあっという間だったよ


















(あ、俺お前の学校に転校するから)(許さぬぅぅううう)



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