「お前、無理してねぇか?」

厳島で海賊と逢った。
その海賊はやけに部下に慕われていて、何故だか気に障った。
我と海賊が二人で戦った時、海賊は我にそんな事を言ってきた。

「無理しているのは貴様ではないか?」

この戦はもう我らの勝ちだ。
そう言ってやると、海賊はただ静かに首を横に振った。

「違う、そうじゃねぇ。お前、一人で寂しくねぇか?辛くねぇのか?」

海賊は自分の事の様に辛そうな顔をしていた。その表情に腹が立つ。同情でもしているのか。海賊風情が、我に。

「寂しいなど弱者の考えよ、我は一人で十分だ」

海賊は、ひどく辛そうだった。

「お前は寂しい奴だ」

「何だと?我を愚弄するのか」

その言葉に腹が立った。まるで自分の事を解っているかの様な言葉。
我の何を知っている。我の事など解らぬくせに我を語るな。そんな顔を我に向けるな!

「それはお前が周りに心を開かないからだろ?」

「心など開いてどうなる」

「だから寂しい奴なんだよ、お前は」

戦中だというのに、周りが静かだ。いや、我の耳に入らぬだけなのか。海賊の言葉がやけに響く。腹が立つ、無駄な話だ、聞かなくていい。このままこの海賊を切り捨ててしまえば、この戦は終わるのに。
それが、出来ない。

「心を開かなきゃあ、周りはついて来ないぜ?気持ちを伝え合えばもっと信じられる仲間になる。一人で抱え込むより楽だ。お前さんはそれが出来ねぇ。一人が一番良いと勘違いしてやがる。そのせいで自分の首を絞める事になっちまうんだ」

「なに、を・・・!」

知った様な口を・・・・・・!

「なら、俺が一緒に抱えてやるよ。お前が自分の首を絞めないように、お前の心を開いてやる」

何を言われたか、分からなかった。だが、一気に頭に上っていた血が下がった気がした。
海賊は腕を拡げ、笑った。

「来いよ、お前にも見せてやる」

仲間を、世界を。
そう言って笑う海賊から、目が離せない。息が詰まるような、呼吸が上手く出来ない。

「我は・・・、」

「アニキーーーーー!!」

言いかけたその時、海賊の部下が乗った船が来た。きっと逃げるのだろう、船には沢山の部下がいた。
我はそれを知りながら、何もせずただ海賊を見ていた。
海賊の部下が海賊を呼び続ける。海賊は我をじっと見た後寂しそうに笑った。そして我に背を向け部下の居る船に向かって行った。我はただそれを見ていた。




「毛利様・・・」

海賊の船が消えて随分と経った時、自分の部下が控えめに話し掛けてきた。

「なんだ」

応えてやると、部下の肩が跳ねた気がした。

「我が軍の被害が甚大です。死者、」

「死者など知らぬ。戦は我らの勝ちだ、それだけで良い。直ちに帰るぞ、支度をしろ」

部下は何か言いたそうだったが何も言わずに去って行った。
我は一人、先の海賊を思い出す。軽薄で薄汚い蛮族達。自分勝手に好き放題に暴れる愚か者達。

「・・・無理などしておらぬ」

それをまとめる海賊の頭。鬼と恐れられる異形な者。
愚かな奴だと思う。愚かで低俗でどうしようもない種族の人間だ。
だが、誘われてた時自分は何と言おうとしたのか。もしあの時自分の声が遮られなかったら、何と応えていたのか。

「戯れ言だ」

自分は一人で良い。仲間など邪魔なだけだ。心?そんな物、とうに凍り果てたわ。海賊風情にほだされるなど、ありえん。
仲間など、必要ない。

「我は一人で十分だ」

あの時海賊に憧れを抱いたなど、有り得ない。






慟哭ブルヘディド



味方も、仲間も要らない。

自分を知るのは、自分だけで良い。



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